4頭に1頭の犬はかかるといわれる、発症率が高い犬の病気「外耳炎」。放置すると、耳血腫などの病気を引き起こすこともあるので注意が必要です。今回は、外耳炎の原因や症状、治療法や予防法まで、症例画像や飼い主さんの体験談とともにご紹介します。
犬の外耳炎とはどんな病気?
外耳炎は鼓膜の外側にある外耳道に、赤みや腫れなどの炎症が起きる病気です。犬の耳は外耳道がL字形に曲がった通気性の悪い構造をしているため、皮脂腺やアポクリン腺からの分泌物のバランスが崩れて、皮膚に雑菌が繁殖したりしやすく、炎症やかゆみを起こしやすいといわれています。
特に湿度や気温が上がる6月から夏場にかけては、耳の中が蒸れやすく、暑さなどのストレスから免疫力も下がりやすいため、外耳炎の発症や慢性化に注意が必要です。
犬が外耳炎になる原因
細菌や真菌の増殖
もともと犬の体に常在しているブドウ球菌などの細菌や、マラセチアといった真菌(カビ)が、前述した蒸れや免疫力の低下などによって増殖し、炎症が起きることで外耳炎を発症することがあります。
寄生虫の感染
犬の耳にミミヒゼンダニ(耳疥癬)などの寄生虫が寄生することで、強いかゆみを伴う外耳炎を引き起こします。寄生虫は野外だけでなく、ドッグランやトリミングサロンといった犬が多く集まる場所でも寄生しやすいので注意してください。
アレルギー
アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどのアレルギー疾患の症状のひとつとして、外耳炎を併発するケースも多く見られます。また、アレルギー体質の犬は皮膚のバリア機能が低いため、細菌や真菌が増殖しやすく、外耳炎も再発・慢性化しやすいです。
異物の混入
虫や植物の種、砂や泥などの異物が耳の中に混入した刺激で、耳道が狭くなったり分泌物が増えたりすると、外耳炎を発症することがあります。草木の多い場所は異物の混入が起きやすいので、野外で犬とレジャーを楽しんだ後は耳の中をチェックするようにしましょう。
犬の耳の構造や外耳炎の原因については以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせて参考にしてみてください。
どんな犬が外耳炎になりやすい?
外耳炎はどんな犬種や年齢の犬でも発症するリスクがありますが、体に以下の特徴や構造をもつ犬は、外耳炎を含めた耳の病気になりやすいといわれています。
耳が垂れている犬種
ビーグルやミニチュア・ダックスフンド、アメリカン・コッカ―・スパニエルなどの耳が垂れている犬種は、立ち耳に比べて通気性が悪く耳が蒸れやすいため、外耳炎を発症しやすいといわれています。
アレルギー疾患を発症しやすい犬種
柴やゴールデン・レトリーバー、シー・ズーなどの犬種は、遺伝的にアレルギー性疾患になりやすいといわれているため、外耳炎になるリスクも高い傾向にあります。
耳の中に毛が密集している犬種
ミニチュア・シュナウザーやトイ・プードル、ヨークシャー・テリアなどの耳の中に毛が密集している犬種も、垂れ耳の犬種と同様に耳の中の通気性が悪くなりやすいため、外耳炎を発症しやすいといわれています。そのため、定期的に毛を抜いて、通気性をよくしておく方法もあります。
皮脂の分泌が多い犬種
シー・ズーやフレンチ・ブルドッグ、パグなどの犬種は、皮脂の分泌量が多い傾向が。皮脂は真菌の栄養源にもなるため、真菌の増殖による外耳炎の発症リスクも高くなります。
犬が外耳炎になったときに見られる症状
犬が外耳炎になると、以下のような症状があらわれることがあります。
耳がにおう
外耳炎を発症すると、くさいと感じるような独特のニオイがすることがあります。犬の耳を嗅ぐとふだんとは違うニオイがする場合は、外耳炎を疑ったほうがよいでしょう。
耳に赤みが出る
外耳炎やアトピー性皮膚炎を発症すると、耳の中や耳全体に炎症が広がり、赤く見えることがあります。いつもより耳が赤いと感じたら放置せず、獣医師に早めに相談してください。
かゆがる・痛がる
一時的に耳をかく程度なら問題がないことがほとんどですが、以下のようなしぐさが見られるときは、外耳炎を発症しているおそれがあります。
- 頭をブルブルと何度も振るかゆみを紛らわせようと、何度も頭を振るしぐさを見せることがあります。頭を振るだけで耳をかかないなら、比較的軽度の症状といえるでしょう。
- 後ろ足で耳をしきりにかく耳介や耳道がかゆくて、後ろ足で頻繁に耳をかくしぐさが見られます。かくほどに症状が悪化していくので、ふだんよりかくしぐさが多い場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
- 耳を床にこすりつける強いかゆみや痛みによって、耳を床にこすりつけることがあります。後ろ足でかくときよりも症状がひどく、慢性化している可能性も。
かゆみが慢性化すると耳が黒く変色することが
かゆみが慢性化して耳をかき続けていると、メラニンが沈着して耳の中が黒ずむことがあります。写真の状態は慢性化してかなり時間が経過している状態ですが、こうなる前に早めに獣医師に相談して、かゆみの原因を特定することが大切です。
激しくかきすぎると耳が腫れるおそれも
激しく耳をかき続けていると、耳介の皮膚と軟骨の間に血液がたまる耳血腫を併発し、耳が腫れたように見えることがあります。状態がひどい場合は手術も必要となってくるので、耳の中や耳まわりが腫れていると感じたら、動物病院を受診してください。
耳垂れが出る
耳の中から、透明や黄色い分泌液(耳垂れ)が出てくることがあります。特に粘度の高い黄色の耳垂れは、進行した重度の外耳炎で見られる症状なので、すぐに動物病院を受診しましょう。
耳アカが出る
コットンで耳を拭いたときに、以下のような色の耳アカが付着する場合は、外耳炎の発症を疑ったほうがよいでしょう。
ベタベタとした耳アカ
真菌の感染や外耳炎を併発している場合は、耳の穴や耳介に刺激臭を伴うベタベタとした耳アカが見られることがあります。
黒っぽい耳アカ
細菌や真菌が原因の外耳炎を発症していると、耳の穴や耳介に黒っぽい耳アカが付着することがあります。黒く乾燥している場合は耳ダニの感染も疑われるので、早めに獣医師に相談しましょう。
茶色い耳アカ
重度の外耳炎を発症していると、耳全体に茶色い耳アカが見られます。画像のように耳の奥にまで茶色い耳アカが出ている場合は、中耳炎を引き起こしているおそれもあるので、すぐに動物病院を受診してください。
耳の中やまわりにできものができる
外耳炎が慢性化すると、耳の中や耳まわりに以下のようなできものが見られることがあります。
ニキビのようなできもの
ニキビのようなぽつっとしたできものは、良性の腫瘍の可能性が高いです。ただし、良性であっても耳道をふさいで耳の通気性を悪くすることがありますし、急激に大きく黒くなって悪性腫瘍に変化する危険性もあります。放置せず獣医師に相談することをおすすめします。
大きなできもの
画像のように、耳の中の汗腺(アポクリン腺)にできものが見られる場合は、耳垢腺がんを発症しているおそれがあります。特に短期間で大きくなるできものは、がんによる悪性の可能性が高いので、すぐに動物病院を受診しましょう。
飼い主さんが愛犬の外耳炎に気づいたきっかけや症状は?
また、いぬのきもちアプリで「外耳炎」に関するアンケート調査を実施したところ、愛犬の外耳炎の初期症状や気づいたきっかけに関する、以下のような体験談がよせられましたのでご紹介します。
※アンケート/2021年8月実施「いぬのきもちアプリ」内アンケート調査(回答者数 165人)
- 「ぶるぶると頭を振るしぐさが増えた」
- 「耳のあたりに変な傷がついていた」
- 「耳をかくようになり、日に日にかく頻度が増すようになった」
- 「痛いのか、耳をかきながらキャンと鳴いていた」
- 「耳のニオイが左右で違った。耳を確認してみたら耳アカもついていた」
- 「かゆがるしぐさだけでなく、片耳が下がる様子も見られた」
- 「赤茶色の耳アカが大量に出るようになった」
- 「耳が真っ赤になり黒い耳アカがたまるようになった」など
犬の外耳炎の治療法とは
犬が外耳炎になると、以下のような治療が行われることがあります。
耳の洗浄
耳の中が汚れたままだと、薬を投与しても十分な効果を得ることができません。そのため、まずは耳専用の洗浄液を耳に浸透させ、コットンなどで汚れを取り除く必要があります。
ただし、飼い主さんが耳の洗浄を行わないほうがよい場合もあるので、必ず獣医師に相談してから行うようにしてください。
投薬治療
耳の汚れを取り除いたら、点耳薬や二次感染を抑えるための抗生物質、抗真菌薬の投与など、原因や症状に応じた薬の投与を行います。寄生虫が原因の外耳炎の場合は、駆除薬の全身投与も行います。
手術
厚くなった皮膚や腫瘍で外耳道がふさがっていたり、耳血腫で耳介に血液がたまったりしている場合は、それらを取り除くために手術を行うことがあります。
その他
アレルギーや甲状腺の機能異常といった別の病気を併発している場合は、その病気の治療も同時に行います。また、獣医師と相談のうえ、食生活や生活環境の見直しが必要となるケースもあるでしょう。
犬の外耳炎の予防・ホームケア方法
外耳炎を予防するためには、耳の中を清潔に保つこと、そして、耳に起きている異常にいち早く気づくことが大切です。
ふだんから愛犬の耳の状態をチェックする
ふだんから愛犬の耳の中をペンライトで照らしたり、コットンやウエットティッシュで拭いてみたりして、以下のような異常がないかチェックしておきましょう。
- 耳介に赤みや黒ずみはないか
- いつもと違う不快なニオイはしないか
- 耳の中や耳まわりに腫れやできものはないか
- コットンに色のついた耳アカや耳垂れはついていないか
なお、耳を触られるのを嫌がる犬もいるので、毎日のスキンシップに耳を触る習慣を取り入れておくと、耳の観察がスムーズになるでしょう。
必要な場合は耳掃除を
個体差はありますが、犬の耳の中の環境を清潔に保つには、1ヶ月に1回を目安に耳掃除をしてもいいでしょう。ウェットティッシュとイヤークリーナーを使い、以下の手順で犬が痛がらないようやさしく行ってください。
- 耳介の内側が見えるように、つけ根から耳をめくる
犬が嫌がらないよう、フセの姿勢にして背後から手を伸ばして耳をめくりましょう。
- クリーナーをつけたウェットティッシュで見える範囲の耳の汚れを拭く
耳介は毛が生えていない地肌の部分まで、耳の奥は指が無理なく届くところまで拭いていきます。耳アカなどの汚れがあまりなければ、クリーナーはつけずに、35~37度くらいのぬるま湯で拭くだけで問題ありません。
耳掃除のやりすぎや誤ったやり方は、耳をキレイにするどころか、逆に外耳炎を引き起こしかねないので、必ず獣医師の指示のもと行うようにしましょう。
動物病院で耳の状態をチェックしてもらうのも手
自宅での観察や定期的な耳洗浄が難しい場合は、動物病院やトリミングサロンなどで耳のチェックをしてもらい、必要であれば耳掃除もしてもらうとよいでしょう。
愛犬の耳を清潔に保って外耳炎を予防しよう!
外耳炎は悪化すると聴覚障害を引き起こすこともある、油断ならない病気です。日ごろからまめに愛犬の耳の状態をチェックしましょう。必要に応じて耳掃除など対策を行い、異常が見られた場合はすぐに動物病院を受診してください。
参考・写真/「いぬのきもち」2018年8月号『目ヤニ、耳アカ、オシッコ、できもの・・・・・・etc.ひと目でキケンがわかる!愛犬のカラダから出たもので気づく病気大辞典』
参考/「いぬのきもち」2014年5月号『犬の外耳炎まめなチェックとケアで防げます!』
「いぬのきもち」2017年7月号『データで解析!今月の予防したい犬の病気』
監修/荒木陽一先生(プリモ動物病院 練馬院長)
文/pigeon
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。