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【獣医が教える】犬の爪切りのポイント~必要な理由、道具、嫌がるとき
犬が人と暮らしていくには、人が犬のケアをする必要があります。耳掃除、歯磨き、シャンプー、肛門腺絞りなど、その中で爪切りは必要なケアの中で基本的なことでありながら、なかなかコツが掴みづらく動物病院やトリミングサロンに依頼される飼い主さんも多いようです。今回は獣医師としてポイントをアドバイスさせていただきます。

見津 友啓 先生
パティ動物病院院長
麻布大学獣医学部獣医学科卒業
●資格:獣医師
●所属:ASC登録医/日本小動物歯科研究会/日本獣医麻酔外科学会/日本獣医皮膚科学会
●WEBページ:パティ動物病院スタッフ紹介/パティ動物病院オフィシャルブログ
1. 犬に爪切りが必要な理由とは?
室内飼いの犬は特に顕著で、放っておくとどんどん伸びていきます。大型犬でいっぱいお散歩に連れて行ってもらっている犬でも、狼爪は地面に触れずに伸びてしまっている犬をたびたび目にします。爪が伸びてくると地面についている爪に体重が乗ってしまう状態になります。爪は本来体重を支える構造ではない上、伸びすぎると様々な方向から思わぬ外力がかかり折れてしまうことがあります。折れなかったとしても伸びすぎて肉球に食い込んでしまうこともあります。
また、爪が伸びてくると爪の中にある血管と神経も伸びてきてしまいます。こうなると、適正な長さに戻すには血管と神経を切らないといけなくなり、犬に痛い思いを強いてしまいます。ちなみに痛くないよう局所麻酔の注射をしてから爪を切る方法もあります。伸びすぎて折れてしまった狼爪に治療の処置をする際などにこの方法を使いますが、指先はとても敏感で、注射そのものでとても痛がります。この作業をすべての爪でやるのは犬にかなりの苦痛を与えてしまいます。指先よりもっと身体側で痛覚の神経を遮断することもできますが無麻酔で行うのは危険です。
上記の理由により、筆者の病院で伸びすぎてしまった爪を適正な長さに戻す場合、苦痛を極力減らすために全身麻酔をかけた上で指を局所麻酔の注射で麻痺させ、爪を短く切って止血をします。苦痛を減らすためとはいえ、爪切りのために全身麻酔をかけることになってしまうのです。もちろんどの病院でも同じようにするわけではないですが、それほど一度神経や血管が伸びてしまうと大変なことになります。
とてもおとなしい犬で飼い主さんに根気がある場合に限り、麻酔をかけなくとも毎日すこしずつヤスリをかけて血管・神経が伸びてしまった爪を短くしていく方法もありますが、とてもとても大変です。こういった事態にならないよう定期的に適切な長さで爪切りをする必要があります。
2. 爪切りの道具と手順とは?
爪切りの手順
終わったらご褒美をあげて褒めてあげましょう。
爪切りの準備・用意するもの、爪切りの種類と選び方
・犬用の爪切り(ギロチンタイプ、ニッパータイプなど)
・犬の爪用のヤスリ
・市販の止血剤
犬の爪は円柱状で厚みがあるため、薄い爪を切ることを想定した人間用の爪切りでは上手く切ることができません。犬専用の爪切りを使ってください。ギロチンタイプは少ない力で効率よく切ることができるようになっているので使いやすいでしょう。動物病院やトリミングサロンで使われているものもこのタイプが多いです。
爪を切った後は切断面で爪が角張るので、専用のヤスリで滑らかにしてあげましょう。爪切りは切れ味が大切です。切れ味が落ちていると変な力が爪に加わったり、爪を押しつぶしたりしてしまうために犬の痛みや不快感の原因になることがあります。切りにくいと感じたら分解して研ぐか、新しいものに取り換えた方が良いでしょう。また、道具は大丈夫でも飼い主さんが恐る恐る切ると、切れ味の悪い爪切りで切っている時と同じ状態になるので、爪切りのハンドルを握るときはしっかり握りこみましょう。
保定の仕方
ポイントは、
・できるだけ身体を密着させること
・普段用が無くてもスキンシップの一環で保定をすることで保定に慣らしておくこと
この時に色々な保定の形を試行錯誤してお家の子に合った方法を探してください。
爪切りのやり方、どこまで切るか
犬の爪を切る時は一気に切るのではなく先端から少しずつ切っていってください。初めはカサカサしていますがそのうちしっとり滑らかな面が出てきます。基本的にこのしっとりした面までで止めてください。しっとり滑らかな感じは見た目だけでなく、実際爪切りを通して伝わってくる感触でもわかります。この方法であれば爪が黒くて血管がわからない子でも血管や神経の手前まで切ることができます。
とは言ってもその質感の違いがわかるか不安という方もいるでしょう。実際に切ればすぐにわかりますので、動物病院などでサポートしてもらいながら実際に切って感触をつかむのが良いでしょう。
爪切りの頻度
3. 爪切りで出血した時の対処法
血が出てしまった際の対処
・止血剤が無い場合
ティッシュやガーゼなど清潔なもので出血している部分を数分間押さえる。
・爪切り用止血剤がある場合
粉末状の止血剤を出血している血管に蓋をするように軽くつけてあげます。
*爪切りでの止血以外には使わないようにしてください。
爪の出血だけならそれほどあわてる必要はありませんが、上記の方法でも血が止まらない場合は一度獣医師にご相談ください。
4. 暴れた時の対処法とは?
基本的な鉄則として暴れてからどうこうというよりも、いかに暴れさせないようにするかということにつきます。これから爪切りデビューする犬、家では暴れるが病院やトリミングサロンでは比較的おとなしく切らせてくれる犬、家に限らず病院やトリミングサロンでも暴れてしまう犬で、ケース別に「どうしたら暴れないか?」「どうしても暴れる時はどうしたらいいか?」について説明していきます。
これから爪切りデビューする犬
ただ、性格によりこういったトレーニングは効果が変わってきます。臆病なのか、全然気にしない性格なのかによって、どこで一区切りにするか、ご褒美のレベル(褒めるだけなのか、おやつなどの報酬なのか、おもちゃで遊ぶのか)はどのくらいがいいのか、などなど違いが生じます。このデビュー前は爪切りに限らず躾の上でもっとも大事な時期なので、ちょっと難しいなと感じたらプロのトレーナーに助けてもらうのもひとつの選択肢です。
家では暴れるが、病院やトリミングサロンではおとなしい犬
この場合はお家ではなく、犬が慣れてない環境で爪を切るとおとなしくしてくれることがあります。作業台などの上は高さがあるのでそれだけで環境は変わりますし、普段と違う散歩コースの途中でも良いでしょう。車に慣れていないなら車の中というのもいいかもしれません。
家でだけ暴れる他の原因として飼い主さんの不安が伝わってしまうだとか、保定がしっかりトレーニングできていないことなどが挙げられます。
家に限らず、病院やトリミングサロンでも暴れてしまう犬
多いのは、爪切りより保定が嫌いなパターンと、保定はできて手で爪も触れるけれど、爪切りで爪を切ろうとすると嫌がるパターンです。
前者はまずはスキンシップを増やし、その延長で身体を密着させることに慣らしていってください。慣れてきたら遊びでとっ組み合いをするような感じで保定を試してみてください。暴れ始めた状態で無理やり押さえるのは決してしないようにしてください。咬まれてしまったり、犬の具合が悪くなったりすることがあります。お家の子がムカムカしてきたなと思ったら暴れだす前に放してあげてください。
爪を切る段階で嫌がる犬はいきなり爪を切らずに、爪切りで爪に触ることから始めると良いかもしれません。保定して爪を爪切りで触るということを続け、慣れてきたら1本の爪の端っこを切れ味の良い爪切りで少しだけ切ってみましょう。これができたら、次の機会にはもう少し切り進めます。こうやって徐々に切り進む距離を増やしていきます。
ちなみに、噛んでくるような犬はエリザベスカラーを付けると安全に保定しやすくなります。
5. まとめ
・道具は犬専用で切れ味のいい爪切り、ヤスリ、止血剤を用意する
・保定と爪切りの手順を犬の性格に合わせて丁寧に慣れさせる
・血が出てもあわてないで止血をする
・暴れる犬は何に対して暴れるのかを見極める
爪を切れない犬を切れるようにするのは、とても根気と時間が必要になります。しかし爪切りがいらなくなるくらい運動させられない場合、爪は切らなければなりません。
動物病院やトリミングサロンだと500円~3000円ほどで爪切りなどケアをしてくれるところが多いかと思います。病院やトリミングサロンで多少暴れても爪が切れてしまうのは適切な保定が出きるからです。つまりお家で保定がきちんとできれば暴れないようにしてお家でも爪が切れる可能性は高いです。
お家で犬の爪切りをはじめとしたケアをしていれば、些細な変化から病気を早期発見できることもあります。「病院やトリミングサロンに全部頼めばいいや」ではなく、爪を切る何度かに一回は日常ケアの入り口としてお家での爪切りにぜひチャレンジしてみてください。
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