犬と暮らす
UP DATE
【獣医が教える】10歳からの犬の老化と病気のリスク
近年医療は飛躍的な進歩を遂げ、人間の寿命は伸び続けており、皆さんご存知の通り日本は超高齢化社会となりました。獣医療も同様に日々進歩し続けており、新しい薬や治療法が登場し、また飼い主の意識も変化した事もあり、犬の寿命も伸び続けています。最近では20年生きる犬もちらほら見かけたりと、一昔前からは想像もつかないくらい犬の寿命は長寿化してきています。一方で、病気と向き合う機会が増え、闘病生活や動物介護などのケアが必要になっていますが、それらに対する知識は、まだ広く社会に浸透していないという現状があります。
今回は高齢になった時、特に10歳を超える老犬になってきた時、日々の診察でよく見かける病気についての正しい知識や、予防法をお話ししようと思います。また、そもそも犬の老化によって実際にどのような変化が現れるのかなど、日々の生活の中で見られる老化のサインや動物介護についてもお話ししていきます。
平野 太陽 先生
右京動物病院SAGANO
麻布大学卒業
奈良動物二次診療クリニック第6期研修修了
●資格:獣医師/宅地建物取引士
●所属:京都市獣医師会/日本動物病院協会/日本獣医画像診断学会/日本獣医がん学会/日本獣医腎泌尿器学会
犬の年齢
老化と決めつける前に
その大切なこととは、『自分一人で老化と判断しない』ということです。何故ならば、老化のサインだと思っているものが、実は病気のサインかもしれないからです。老化のサインは様々なものが挙げられます。よく寝る、歩きたがらない、反応が鈍くなる、太る、目が白っぽくなる、尿もれをする、毛の艶がなくなる、口臭がきつくなるなどなど、確かにどれも一見すると老化が原因のように思われるものばかりです。しかし、このどれもが病気によって引き起こされる症状という可能性が十分にあります。
動物は体調が悪いとエネルギーを節約するので、寝ることが多くなります。関節痛があれば歩きたがらず、段差も登れなくなりますし、ぎこちない歩き方は骨に癌ができているからかもしれません。ホルモンの分泌異常で毛質に変化が出たり脱毛することもありますし、白内障になることもあります。行動や体質の変化を老化だと決めつけてしまうと、せっかく病気の初期症状として合図を出していてくれていたものを無視してしまい、貴重な治療の機会をなくしてしまうかもしれなのです。
動物は自分の体のことを説明することができません。本能的に体調が優れないことを隠してしまうケースすらあります。もの言えない動物の代わりに、大きな病気かもしれないと疑ってあげることも飼い主の大きな義務の一つです。最悪の事態を常に想定して行動しないと、取り返しのつかない事態になることもあります。実際、老化だと飼い主が思っていたけれども大きな病気だったというケースを何度も診てきています。ご家庭で動物の行動や体質の変化に気づかれた際は、『自分一人で老化と判断しない』で獣医師に相談してください。
ちなみに獣医師も一目見て老化だとわかる訳ではありませんし、そんな獣医師がいれば弟子入りしたいくらいです。老化の診断とは、その他の病気でないことを証明しないと診断することができません。老化の判断は、獣医師であっても難しいものなのです。早々に老化だと決めつけずに、まずは相談だけでもいいので病院にきてください。
老化のサイン
一番わかりやすい老化のサインは、寝る時間が増えることです。幼い頃は活発に遊んで、家族が帰ってくると尻尾を千切れんばかりに振って喜んでいたことでしょうが、遊ぶこともなくなり、家族の帰宅時の挨拶もそっけなく、あるいはなくなることがあります。一日中寝ているという印象を受けることも少なくないです。また、寝ている間に周りからの刺激に対しての反応が鈍くなりなかなか起きない、仮に目を開けてもすぐ閉じるといった行動が見られるようになります。
そして歩様にも変化が見られ、そのスピードはゆっくりとしたものに変わり、長距離を歩くことができず途中で何度も立ち止まるようになります。階段を登ることができなくなったり、後肢にふらつきが出始め、オスの場合は片足をあげて排尿せず、メスのように座り込んで排尿をするようになることもあります。
外見に関しても老化による変化がみられ、人間と同じように白髪が出てきたり、毛の艶が無くなったりします。皮膚の張りもなくなり弾力性が無くなってきます。顔の皮膚も垂れ下がり、水晶体の核硬化や白内障により目が白くなることもあります。当然視力の低下や聴力の低下も見られ、暗くなると動きがゆっくりになったり、物に当たるようになることもあります。
また柴犬などの和犬に多いのですが、頭がボケてしまい、夜鳴きや徘徊いが見られることもあります。基本的にはこれらの症状は徐々に進んでくるので、見逃さないように注意深く様子を見てあげましょう。
10歳を超えるとかかりやすい病気
●前立腺肥大/子宮蓄膿症
●関節炎
●心臓病(僧帽弁閉鎖不全症など)
●がん
その他にも、腎不全、肝不全、白内障、緑内障、靭帯損傷、ホルモン異常、挙げだすとキリがないですが、犬も人間同様に歳をとると体のいたるところに不具合が出てくるということを覚えておいてください。
老犬に対する日頃のケア
また行動の変化にも気をつけて、食欲や飲水量を目分量でなくg(グラム)やml(ミリリットル)といったように、おおよそでもいいので計量をしておくことも病気の早期発見につながります。また脱水は万病の元になります。新鮮なお水は常に飲めるようにしておきましょう。
また、怪我などを予防するために段差をなくしたり、滑って転倒しないようにフローリングの部分にカーペットを敷いてあげることも重要です。足裏の肉球の間の毛もこまめにカットしてあげて、しっかりと踏ん張れるようにしてあげましょう。ケアを怠ったことで前足が滑って開いてしまい、肩の靭帯が伸びている老犬を見ることが多いです。一度靭帯が伸びると癖になってしまうので注意が必要です。
動物介護
ここで大切なことは、自分一人で抱え込まないことです。まずは獣医師に相談してください。正しい知識を持って介護にあたりましょう。また獣医師に話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になります。犬が大切な家族であるのと同様、人間も大切な家族です。(一昔前までは言うまでもない当たり前のことだったのですが、近年改めてお伝えしないといけないご家庭もあります。)介護によって人間の生活が壊れて、家庭が壊れていくことほど寂しいことはありません。治らない夜泣きに対して飲み薬で夜寝てもらうことや、疲れた時に一時的に病院やホテルに預ける事は、誰からも責められることではありません。どうか抱え込まずに、相談に来ていただけたらと思います。
まとめ
●これから犬を飼う方
いつまでも愛くるしいばかりではなく、いずれ老いと共に好ましくない一面が出てくることを覚悟してください。変わらぬ愛を持って生涯共に暮らしていけるよう、介護のことまで考えて犬種を選ぶのも重要かもしれません。計画性のある飼育が、殺処分数を減らす近道だと思います。
●若齢犬を飼われている方
たくさん遊んで活発な時期を楽しみ、ワクチンやフィラリア症など、病気の予防を徹底しましょう。また交配の予定がなければ、早期での避妊・去勢を病気予防の観点からお勧めします。
●高齢犬を飼われている方
日々の様子をしっかり観察し、気になる変化があれば獣医師に相談してください。定期的な健康診断はとても重要です。行動・体質の変化が、老化によるものだと決めつけないでください。
●既に動物介護が始まっている方
気になることや不安なことがあれば、遠慮せずに何度も獣医師に相談してください。介護において薬や人の力を借りる事は、決して悪いことではありません。
後半のお話しから暗いイメージを抱かれてしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、老犬との暮らしも、癒しのあるとても明るく素晴らしいものです。確かに残された時間は短くなり、寂しさを感じることもあるでしょうが、命あるものなのでそれは仕方のないことです。この記事が、そのかけがいのない時間を少しでも長くする、そして愛犬とご家族の方がより明るく幸せに暮らしていくためのきっかけになれば幸いです。
UP DATE