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【獣医が教える】10歳からの犬の老化と病気のリスク

近年医療は飛躍的な進歩を遂げ、人間の寿命は伸び続けており、皆さんご存知の通り日本は超高齢化社会となりました。獣医療も同様に日々進歩し続けており、新しい薬や治療法が登場し、また飼い主の意識も変化した事もあり、犬の寿命も伸び続けています。最近では20年生きる犬もちらほら見かけたりと、一昔前からは想像もつかないくらい犬の寿命は長寿化してきています。一方で、病気と向き合う機会が増え、闘病生活や動物介護などのケアが必要になっていますが、それらに対する知識は、まだ広く社会に浸透していないという現状があります。
今回は高齢になった時、特に10歳を超える老犬になってきた時、日々の診察でよく見かける病気についての正しい知識や、予防法をお話ししようと思います。また、そもそも犬の老化によって実際にどのような変化が現れるのかなど、日々の生活の中で見られる老化のサインや動物介護についてもお話ししていきます。

犬の年齢

犬は1歳で成犬になると言われています。つまり人間でいうと、おおよそ20歳です。そこから1つ歳をとるごとに、人間の年齢に換算すると4年分の歳をとることになります。今回お話しする犬の10歳とは、人間の年齢に換算すると56歳になります。還暦が近いとなると、自分の子が想像していたよりも年老いていたことを認識されるでしょうし、病気が出てきてもなんら不思議でないことがお分かり頂けると思います。ただ注意しなければいけないことは、犬の種類によっても寿命は変わるので、一概にこの基準を当てはめることができないということです。具体的には大型犬の寿命は短く、小型犬の寿命は長い傾向にあります。超大型犬では10年生きることが難しい犬種もいますし、これはあくまでも一つの基準でしかないことは覚えておいてください。

老化と決めつける前に

後述しますが、老化のサインにはさまざまなものがあり、その症状は人間が老化した際に見られるものと類似していることもよくあります。大まかにお話しするだけでも長くなってしまい、大事なことをお話しする前に飽きられてしまっては困るので、先にとても大切な注意点についてお話しします。

その大切なこととは、『自分一人で老化と判断しない』ということです。何故ならば、老化のサインだと思っているものが、実は病気のサインかもしれないからです。老化のサインは様々なものが挙げられます。よく寝る、歩きたがらない、反応が鈍くなる、太る、目が白っぽくなる、尿もれをする、毛の艶がなくなる、口臭がきつくなるなどなど、確かにどれも一見すると老化が原因のように思われるものばかりです。しかし、このどれもが病気によって引き起こされる症状という可能性が十分にあります。
動物は体調が悪いとエネルギーを節約するので、寝ることが多くなります。関節痛があれば歩きたがらず、段差も登れなくなりますし、ぎこちない歩き方は骨に癌ができているからかもしれません。ホルモンの分泌異常で毛質に変化が出たり脱毛することもありますし、白内障になることもあります。行動や体質の変化を老化だと決めつけてしまうと、せっかく病気の初期症状として合図を出していてくれていたものを無視してしまい、貴重な治療の機会をなくしてしまうかもしれなのです。
動物は自分の体のことを説明することができません。本能的に体調が優れないことを隠してしまうケースすらあります。もの言えない動物の代わりに、大きな病気かもしれないと疑ってあげることも飼い主の大きな義務の一つです。最悪の事態を常に想定して行動しないと、取り返しのつかない事態になることもあります。実際、老化だと飼い主が思っていたけれども大きな病気だったというケースを何度も診てきています。ご家庭で動物の行動や体質の変化に気づかれた際は、『自分一人で老化と判断しない』で獣医師に相談してください。
ちなみに獣医師も一目見て老化だとわかる訳ではありませんし、そんな獣医師がいれば弟子入りしたいくらいです。老化の診断とは、その他の病気でないことを証明しないと診断することができません。老化の判断は、獣医師であっても難しいものなのです。早々に老化だと決めつけずに、まずは相談だけでもいいので病院にきてください。

老化のサイン

人間も、自分の日常生活の中で老化を実感する機会は多くあると思います。それは犬にも言えることで、若い頃にしていた行動をしなくなったり、できなくなったりということが老化現象として徐々に現れてきます。
一番わかりやすい老化のサインは、寝る時間が増えることです。幼い頃は活発に遊んで、家族が帰ってくると尻尾を千切れんばかりに振って喜んでいたことでしょうが、遊ぶこともなくなり、家族の帰宅時の挨拶もそっけなく、あるいはなくなることがあります。一日中寝ているという印象を受けることも少なくないです。また、寝ている間に周りからの刺激に対しての反応が鈍くなりなかなか起きない、仮に目を開けてもすぐ閉じるといった行動が見られるようになります。
そして歩様にも変化が見られ、そのスピードはゆっくりとしたものに変わり、長距離を歩くことができず途中で何度も立ち止まるようになります。階段を登ることができなくなったり、後肢にふらつきが出始め、オスの場合は片足をあげて排尿せず、メスのように座り込んで排尿をするようになることもあります。
外見に関しても老化による変化がみられ、人間と同じように白髪が出てきたり、毛の艶が無くなったりします。皮膚の張りもなくなり弾力性が無くなってきます。顔の皮膚も垂れ下がり、水晶体の核硬化や白内障により目が白くなることもあります。当然視力の低下や聴力の低下も見られ、暗くなると動きがゆっくりになったり、物に当たるようになることもあります。
また柴犬などの和犬に多いのですが、頭がボケてしまい、夜鳴きや徘徊いが見られることもあります。基本的にはこれらの症状は徐々に進んでくるので、見逃さないように注意深く様子を見てあげましょう。

10歳を超えるとかかりやすい病気

犬も人間と同じように、高齢になればなるほど病気にかかりやすくなります。その全てをお話しすると莫大な情報量になってしまうため、今回は普段診察で高齢犬によく見られる病気について、いくつかお話ししようと思います。

●前立腺肥大/子宮蓄膿症

まず、未去勢のオス犬に多い病気といえば前立腺肥大でしょう。10歳を超える未去勢雄のほとんどが、前立腺肥大といっても過言ではありません。ひどくなれば頻尿や血尿が見られ、歩き方がぎこちなくなることもあります。根本的治療は去勢手術ですが、内服薬で一時的に症状を抑えることもできます。また、未避妊のメス犬であれば、怖い病気として子宮蓄膿症が挙げられます。人間には馴染みのない病気ですが、子宮の中に膿が溜まってしまい死亡することもある病気です。症状としては元気がなくなる、食欲の低下、多飲多尿、高熱、腹部を触ると怒るなどが多いです。生理の1~2ヶ月後に発症することが多く、根本的な治療は卵巣と子宮の摘出になります。犬は人間と違い生理がなくなることはありません。いくつになっても注意が必要な病気のひとつです。

●関節炎

老化の一種でもあるかもしれませんが、関節炎もよく見れれる病気の一つです。立ち上がった後に脚の動きがぎこちないなど、歩き方に変化が出てくることが多く、長距離を歩けなくなることもあります。一度関節炎が起きてしまうとそれを治す術は残念ながらありませんが、痛み止めやサプリメントで悪化のスピードを緩めてあげることはできます。これも早期に気づいてあげることがさらなる悪化を防いであげるために重要です。

●心臓病(僧帽弁閉鎖不全症など)

歩きたがらなくなる症状といえば、心臓病も犬の高齢犬でよく見られる病気の一つです。特に心臓に雑音が出てくる僧帽弁閉鎖不全症は、日々の診察でも診断する機会が非常に多い心臓病の一つです。咳が出ることも多く、ただ痰が絡んでいるだけと勘違いされることも多いですが、大きな病気かもしれません。

●がん

そして忘れてはならない、高齢になることでかかる病気の代表といえば、やはり癌(がん)でしょう。診断する機会も多く、悪質な病気の一つです。ご存知の通り早期発見が治療の上で重要になってきますが、初期症状はないことが多く、末期にならないと気が付かないことも少なくありません。定期的な健康診断が早期発見に一番有効な方法と言えるでしょうが、早期では血液検査に問題が出ないことの方が多いです。10歳を超えるような高齢の子の健康診断としては、ぜひ血液検査に加えて画像検査も行ってあげてください。エコー検査やレントゲン検査などの画像検査は、初期の病変を発見することにおいてとても優れています。少なくても年一回の健康診断をおすすめします。一年で4歳年をとる事を考えると、年2回でも多くないと思います。

その他にも、腎不全、肝不全、白内障、緑内障、靭帯損傷、ホルモン異常、挙げだすとキリがないですが、犬も人間同様に歳をとると体のいたるところに不具合が出てくるということを覚えておいてください。

老犬に対する日頃のケア

まずは当たり前のことですが、毎日様子をしっかりと見てあげてください。前述した通り、老犬は若い頃と比べて圧倒的に病気にかかりやすくなっています。様子を見るといっても、ただ見るだけでなく、実際にスキンシップをして体に触り、全身を撫でてあげてください。これだけでも腫瘍を早期に発見できたり、本人が痛がっている部分を見つけることができます。
また行動の変化にも気をつけて、食欲や飲水量を目分量でなくg(グラム)やml(ミリリットル)といったように、おおよそでもいいので計量をしておくことも病気の早期発見につながります。また脱水は万病の元になります。新鮮なお水は常に飲めるようにしておきましょう。
また、怪我などを予防するために段差をなくしたり、滑って転倒しないようにフローリングの部分にカーペットを敷いてあげることも重要です。足裏の肉球の間の毛もこまめにカットしてあげて、しっかりと踏ん張れるようにしてあげましょう。ケアを怠ったことで前足が滑って開いてしまい、肩の靭帯が伸びている老犬を見ることが多いです。一度靭帯が伸びると癖になってしまうので注意が必要です。

動物介護

犬も高齢になれば寝たきりになることがありますし、前述した通り頭がボケてきて徘徊したり、夜鳴きをするようになることがあります。糞尿を垂れ流すことだってあります。これがなんらかの病気によるものでなく老化によるものであれば改善の可能性は低くなり、介護をしていく決心をしなければなりません。自力で食べられない子には口元までご飯を運んであげないといけませんし、糞尿が自力で立ってできない子にはオムツをつけてあげたり、体を支えて排泄の補助をしてあげないといけません。寝たきりの子には褥瘡(床ずれ)ができないよう、寝返りをうたせてあげる必要があります。夜泣きを繰り返す子には昼間運動してもらうなど、生活習慣の見直しが必要になってきます。
ここで大切なことは、自分一人で抱え込まないことです。まずは獣医師に相談してください。正しい知識を持って介護にあたりましょう。また獣医師に話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になります。犬が大切な家族であるのと同様、人間も大切な家族です。(一昔前までは言うまでもない当たり前のことだったのですが、近年改めてお伝えしないといけないご家庭もあります。)介護によって人間の生活が壊れて、家庭が壊れていくことほど寂しいことはありません。治らない夜泣きに対して飲み薬で夜寝てもらうことや、疲れた時に一時的に病院やホテルに預ける事は、誰からも責められることではありません。どうか抱え込まずに、相談に来ていただけたらと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。犬も人間同様に老いていき、様々な変化が出てくることを多少なりご理解いただけたかと思います。

●これから犬を飼う方
いつまでも愛くるしいばかりではなく、いずれ老いと共に好ましくない一面が出てくることを覚悟してください。変わらぬ愛を持って生涯共に暮らしていけるよう、介護のことまで考えて犬種を選ぶのも重要かもしれません。計画性のある飼育が、殺処分数を減らす近道だと思います。
●若齢犬を飼われている方
たくさん遊んで活発な時期を楽しみ、ワクチンやフィラリア症など、病気の予防を徹底しましょう。また交配の予定がなければ、早期での避妊・去勢を病気予防の観点からお勧めします。
●高齢犬を飼われている方
日々の様子をしっかり観察し、気になる変化があれば獣医師に相談してください。定期的な健康診断はとても重要です。行動・体質の変化が、老化によるものだと決めつけないでください。
●既に動物介護が始まっている方
気になることや不安なことがあれば、遠慮せずに何度も獣医師に相談してください。介護において薬や人の力を借りる事は、決して悪いことではありません。

後半のお話しから暗いイメージを抱かれてしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、老犬との暮らしも、癒しのあるとても明るく素晴らしいものです。確かに残された時間は短くなり、寂しさを感じることもあるでしょうが、命あるものなのでそれは仕方のないことです。この記事が、そのかけがいのない時間を少しでも長くする、そして愛犬とご家族の方がより明るく幸せに暮らしていくためのきっかけになれば幸いです。
監修/平野太陽先生(右京動物病院SAGANO院長)
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