「噛む」ことにまつわる話を検証
「犬は家族に順位をつけていて、自分がリーダーだと思っているから噛む」という話を聞いたことはありますか? これは真っ赤なウソです。
この説は犬の「リーダー論」とも呼ばれ、かつては飼い主さんの間だけなく、犬の専門家にも浸透しており、この考えに基づくしつけが推奨されてきました。しかし現在では、犬には人間が考えるような上下関係はなく、誤りだといわれています。
犬が噛むのは「自分の家庭内の順位が脅かされる」ためではなく、「フードを守りたい」「眠たいので触らないで欲しい」「飼い主さんに構って欲しい」など、さまざまな動機があります。噛む行動をやめさせるためには、噛む理由を探って、原因を取り除くことが大切なのです。
このように間違った知識を基に愛犬と接しないためにも、巷でまことしやかにいわれている説のウソ・ホントを検証していきましょう!
噂①犬が噛みそうになったら、マズルをつかむべき
犬に「噛んではいけないとしっかり覚えさせるためには、体で覚えさせる必要がある! だから、犬が嫌がるマズルを掴んで、コラッ!と怒るべきだ」……というウワサを検証します。犬の攻撃的な行動を助長させないためにも、強い嫌悪感を与えるべきなのでしょうか……?
この噂は……ウソ!
マズルをつかんだり、口の中に手を押し込んだり、体罰を用いるしつけは全くお勧めできません。このようなしつけをすると、愛犬が飼い主さんや飼い主さんの手が近づくのを恐れて、余計に噛む問題が悪化することがあります。そして何よりも、飼い主さんとの信頼関係が崩れてしまうと、犬は常に警戒することになり、日常的にストレスがかかってしまうため、絶対にやめましょう。
噂② 成犬になってからでも、噛みグセは直せる
家に来客があると、激しく吠えて、その人が愛犬に近づくと噛もうとする。散歩中も、ほかの犬に攻撃的。「成犬になってからでも噛みグセは直せる」と言われますが、子犬のときからずっとそのような行動が続いていても、直るものなのでしょうか……?
この噂は……ホント!
これらの行動の原因のひとつに、知らない人との出会いなど、さまざまな刺激に慣らす「子犬期の社会化」が不足していたことが考えられます。ただし、ほかの犬や人と、同じ空間で落ち着いて過ごす経験を積めば、何才になろうと噛む行動は直せます。
注意すべきは、「無理やり」知らない人や犬に会わせないこと。トラブルに発展する可能性もあります。しつけ教室などで専門家のサポートをしっかり受けて、上手に人や犬に慣れさせるようにしましょう。
噂③ 今まで愛犬は噛んだことがないので、これからも絶対大丈夫
子犬のころから愛犬の「噛みグセ」に悩んだことはなく、今まで一度も噛まれたことがない。そんな飼い主さんの多くは、「噛みグセ」の問題は自分には関係ないと安心しているでしょう。「噛むかどうかは子犬期からのしつけで決まり、噛まない犬はこれからも絶対に噛まない」……といえるのでしょうか?
この噂は……ウソ!
「成犬になってから、もしくはシニアになってから噛むようになった」というケースは、珍しいことではありません。しつけや愛犬と飼い主さんの関係性に問題がなくても、身体疾患が原因で触られることを嫌がり、噛むようになることもあります。
このようなケースで攻撃行動が発生している場合は、しつけでは直すことはできません。まずは、病気の治療をすることが第一です。ある特定の部位を触られるのを嫌がっているようなら、その敏感な箇所はあまり刺激しないようにしましょう。
不安を覚えたら、専門家に相談を!
いかがでしたか? 「噛む」攻撃行動について、さまざまな情報が出回っていますが、なかには明らかに誤った情報もあります。内容に不安を覚えたら、しつけのプロや行動診療科の獣医師などの専門家を頼って、正しい知識を身につけていきましょう。
参考/「いぬのきもち」2020年8月号『こんなとき愛犬に噛まれました』(監修:獣医行動診療科認定医・奥田順之先生)
イラスト/えのきのこ
文/ichi