先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
なぜか分からないが、花火や雷に怯える犬が多い。空がゴロゴロ鳴り出したり、遠くから「パンッ!」という音が聞こえただけで落ち着きがなくなり、ブルブル震えだす。
雷が怖い大吉
現在暮らしている腰越(神奈川県鎌倉市)は、目の前が江ノ島なので夏には花火大会がある。そのときは「ドーン!ドーン!」と間近で大きな地響きのごとく音がするので、大吉は恐怖のあまりガクガクブルブル状態になる。そのため、引っ越して4年ほどになるが、すぐ近くなのに一度も花火大会を見に行ったことはない(恐れおののいているのに留守番させるのも悪いかなと思い)。
大吉の場合、それに暴走族のバイク音も加わる。どうも破裂音全般がだめらしい。ただでさえ、このあたりは夏になると夜な夜な若者がやって来て砂浜で花火をするうえに、だいたい毎週末暴走族が出没するので、夏場は夜になると少し落ち着きがなくなる(まだ聞こえてもいないのに)。
ただ、昔からそうだったわけではない。子犬のころは外がビカビカ光ってガラガラドッカーン!と聞こえていても、窓際で眠っていた。それが2才くらいのある日から突然雷を恐れ始めた。
雷対策をいろいろ試みたが
そこで克服させる方法はないかと色々調べた。雷音の入った効果音CDを買ってきて流す。サプリメントを飲ませる。「大丈夫だよ」となでながら声をかけ続ける。一切かまわない。色々試したが、どれも効果がなかった。CDの音は一度デジタル信号に変換されてスピーカーから聴こえてくるから「生の音」とは違う。彼にはその違いが分かるらしく、CDの音には無反応だった。
唯一効果があったのは、手ぬぐいを体に巻きつける方法で、多少は恐怖は和らぐが、落ち着きなく歩き回っていたのが、1カ所にとどまって怖がる程度だった。そうこうしているうちに、どっちみのそのうち治まるから仕方ないかと半ばあきらめるようになった。
ところが、良くなるどころか悪化しているっぽい。というのは、少し前から映画などで雷のシーンがあると、その音にビックリするようになったのだ。デジタルと生の音の違いが分かるのでなかったのか。
つい先日は、渓流釣りの番組を見ていると、森の中から時折り「ぴゅー」という鳥の鳴き声が聞こえてきた。その途端、寝転んでいた大吉が「何?」と飛び起きた。
何を勘違いしとる。花火じゃなくて、鳥だから。その証拠に「ぴゅー」の後に「パンッ!」とならないではないか。そんなことも分からなくなってきたのか。そして、「気のせいか?」としきりに辺りを見回して、不安そうな顔をしていた。大丈夫かお前。
以前、シニア犬と暮らす人が「最近、この子も耳が遠くなってねぇ、でもおかげで雷に怯えなくなったのが良かった」と話していた。花火と鳥を間違うくらいだから、聴力が低下しているのだろうか。いずれにしても、怖れる必要なんてないものに怯えるなんて困ったもんだ。
その一方、中には7才になってもまったく平気で挙動不審になった大吉を「何やってんだろ」と眺めているタイプもいる。
ところで、この連載も今回で400回となりました。まさかこんなに続くとは。これからもどうぞよろしくお願いします。長く続けられるといいな、色々な意味で。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。