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犬はうそをつけるのか?【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

一般的に犬は純粋だからうそはつけないといわれている。はたして本当にそうなのか。私の経験から言うと、犬もうそをつく。正確には演技といってもいいが、時には事実と異なることを主張する。

大吉のささやかなうそと行動

たとえば、大吉は白身の魚が好きなのだが、人が晩酌でタイの刺身などを食べていると、さりげなく忍び寄ってきて「おなかが空いて死にそうなんです、もう何日も食べてなくて。できればそれをひと切れくれない?」と目で訴えてきたりする。
彼が朝夕とゴハンを食べたことも、何が気に食わないのか中途半端に残したことも知っている。あげたのは私だからね。したがってその訴えは完全にうそである。見え透いたうそをつくあたりが甘いと思うのだが、その視線から漂ってくるなんとも言えぬ悲壮感に根負けして「仕方ないなぁ」と結局ひとかけらだけだがあげてしまうことも。そんなバカ飼い主だから調子に乗るんだと思うが、そのあたりも計算しているのかもしれない。
これが家に招いた客になると、大吉はまず「犬に弱そうな人」を見つける。そしてターゲットを絞ると、ぴたりと横につき「もう何日も食べてなくてオーラ」を発動する。たいていの人は、この攻めに落ちる。すると大吉は前足でちょんちょんして「もっとくれない?」と催促する。福助はその隣でおこぼれを狙う。

犬はある意味、正直な動物

興味深いのは、彼らはもらえそうなモノとそうでないモノを認識しているらしいことだ。刺身や味付けのない食材であればちょっとあげたりはするが、それ以外の唐揚げや味付けされた料理は与えない。それがちゃんと分かっているようで、食卓にゲットできそうなものがあるときだけ圧をかけてくる。だから犬はとても計算高く、うそをつく生き物なのかもしれない。
ただ、犬がうそをつくのはその程度で、嬉しくないときに演技で嬉しそうな顔をすることはないし、辛いときに「大丈夫ですよ」とやせ我慢することもない。楽しくないときには露骨につまらなそうにするし、不幸な環境だと切なく悲しげな顔になる。だからやっぱり犬はうそがつけない生き物だともいえる。
そして犬の幸福度は、ほとんどすべて飼い主が握っている。なぜなら犬は生き方を自分で決められないからだ。だからうそがつけない彼らの表情をときどき観察する。演技も含めて大吉も福助も非常に分かりやすく、遊び疲れて満ち足りた顔で寝ている姿を見ると、ちょっとホッとする。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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