先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
ご存じの通り、人間関係においてさまざまな距離感の人がいる。やたらグイグイくるタイプもいれば、なんとなくそっけなく感じるタイプもいる。嫌いじゃないんだけど「暑苦しいなぁ」と感じる人もたまにいる。そこまで極端ではなくても、人によって微妙に違う。
犬と人との距離感
それは職場や友人、恋愛といった環境によっても変わる。友達としては気が合ったのに恋愛関係になったら重かった、逆に軽薄だったというようなギャップを感じた経験は誰しもあるんじゃないかと思う。
メンタル面ではなく、物理的な距離の違いもある。人にはそれぞれ近付かれると不快に感じるパーソナルスペースがあるが、平気で超えてくる人もいれば、ちょっと遠い人もいる。それらは1人ひとり違うし、関係や環境によっても変わってくるから、なかなか難しい。そんな中で、似たような距離感の人とうまく付き合っているのではないだろうか。
実は犬も、まったく同じである(おそらく猫も含めた多くの動物が)。みな、それぞれの距離感を持っている。飼い主と犬という関係だから、恋愛のように幻滅して別れることはないし、裏切ったりもしないのだが、距離は違う。
大吉と福助との距離感
わが家の場合、大吉はわりと近い。寝ているときに「ぴと」とくっついてきたりするし、なでて欲しいときは前足でちょんちょん催促してきたりもする。しっかりしているわりに、ちょっと甘えたな面がある。
対して福助は、私にも妻にもくっついて寝ようとはしない。昼寝程度ならいいが、夜ちゃんと眠るときは少し離れたところでひとりで寝る。なのに、大吉を枕にして寝たりはする。でも逆に大吉に枕にされるのは嫌がる。
どちらも体のどこを触っても嫌がらないが、知り合い宅の犬は、飼い主にもほとんど触らせない。ちょっとなでるくらいなら許すが、抱き上げようとするとなぜか逃げる。懐いていないわけではなく、触られるのが嫌みたいだ。そういう犬もいるのかと驚いた。だからくっついてくることなどほとんどないんですと飼い主は嘆いていた。
そういえばドッグランなどで向こうから近づいてくる犬もいれば、犬同士では仲良くしていても、飼い主以外の人には近づこうとしない犬もいる。そして、この前書いた
ラブラドールのベスのように、毎回ものすごい圧ですり寄ってきてヨダレをベタベタ付けてくれる犬もいる。当たり前のことだが犬も人間と同じように、それぞれ違うんだなと改めて思う。
私は、人に対しては無愛想でそっけないとよく友人から指摘されるが、犬に対しては超友好的である。かといって、ドッグランで距離を取りたそうな犬にズケズケ近づいたりはしないが、大吉と福助は問答無用だ。のんびり昼寝している彼らに突然顔を埋めて「お前ら〜、寝てんのか〜」とかやってウザそうな顔をよくされる。きっと「暑苦しいなぁ」と思われているに違いない。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
ツイッター
インスタグラム
大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。