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救急車への犬の反応と、あのけがの日【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

先日、妻が救急車で運ばれた。もともと偏頭痛持ちで、普段から薬を持ち歩いているのだが、その日は薬を忘れたらしく、夕方6時頃に帰宅すると「頭痛いから横になる」と寝室に消えた。珍しいことではないので、私は普段通り仕事部屋でパソコンに向かっていた。

救急車を呼ぶべきか、否か

夜8時頃になり、夕食の支度をしながら3階の寝室に向かって「ご飯食べるー?」と聞くと「いらない……」とか細い声が聞こえた。薬は6時頃に飲んだはずだが、今日の頭痛は手強いのかと思っていた。すると、おもむろに階段を降りてきて「気持ち悪い」とトイレに駆け込んだ。吐けなかったらしく、トイレから出てきても「頭痛い、気持ち悪い」とのたうち回っている。頭痛だけならよくあることだが、吐き気? 大丈夫か。脳梗塞とか脳卒中ではないのか。
救急車を呼ぶべきか、病院へ行くべきか。でも私はビールを飲んでしまったので運転できない。救急車を呼ぶかどうか相談できる「#7119」に電話してみるが、鎌倉市は対象外でつながらない。どうしようかと思っていると、妻が苦しそうな声で「呼んで……」と言う。相当つらいらしい。頭痛でこんなにつらそうなのは初めてだ。その間、大吉と福助も私と一緒にオロオロしていた。
救急車を要請すると、5分もしないうちにサイレンが聞こえてきて、次第に大きくなってくる。妻を連れて外へ出ると、もう家の前まで来ている。救急隊員に症状を話す。血圧や心拍数を測ったりしている間も、妻は頭と口を押さえてうなだれている。搬送先が決まると、私はいったん玄関に戻り、大吉と福助に「ちょっと待っててな」と声をかけた。そのときの彼らは、明らかに何かがおかしいと分かっており、動揺した顔をしていた。

診断の結果は。

20分後、湘南鎌倉総合病院に到着し、ERで医師に診察を受けた結果、脳梗塞や脳卒中ではなく、恐らく極度にひどい頭痛だろうとのことだった。ふぅ、ひと安心。ちなみにその病院は、私が階段から落ちたときにも運ばれたところだ。妻は点滴と痛み止めを打ってしばらく横になれば回復するだろうとのこと。
命に別状はないことは分かったので、医師に「あの、僕、帰っていいですか?」と聞くと(大吉と福助が心配だったから)「だめです、いてください」とのこと。仕方なくロビーで1時間半ほど待ち、出てきた妻とタクシーで帰宅したのが10時半頃。
翌日、近所に暮らす友人の奥さん会ったので「昨日さぁ、あいつが救急車で運ばれてさぁ、ひどい頭痛で。で、最初は脳が心配だったんだけど、大丈夫そうだったから帰っていいですかって聞いたらだめですって言われてさぁ」と話すと「ふざけんな!」と怒られた。「あんたが『階段から落ちたとき』、私ら、夜中に駆けつけて朝まで廊下の長椅子でずっと待ってたんだよ。めぐみちゃん(妻)を1人にできないし、私なんて、病院から帰ったの翌日の夕方だよ?」という。そして「なのに何が1時間くらいで帰っていいですか、だよ!」と、その後、延々と説教される。
「あー、思い出したら腹立ってきたわ!」とヒートアップしているので「まぁまぁ」となだめながら、あのときは大変だったんだなぁと改めて思った(当時の記憶がない)。
大吉と福助はもっと訳が分からなかっただろう。階段から落ちて、血だまりができて、救急車のサイレンと共に私と妻はいなくなり、その夜一緒に飲んでいた客人だけになったとき、彼らはどれだけ不安だっただろう。今更ながら、申し訳ない。
「でも、こうして笑って話せるようになってよかったじゃん」と友人の奥さんに言うと「ふざけんな!」とまた怒られた。

※翌日には回復して普通に暮らしていますのでご心配なく。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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