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ずっと病気がちだった鉄三郎が13才の今、絶好調なワケ②|連載・西川文二の「犬ってホントは」vol.142
若いころから病気がちだった、西川先生のパートナー・ドッグ、鉄三郎くん。その原因は、甲状腺機能低下症という病気だったとお伝えしました。今回はその続き。病気が判明してもなお、体調不良が続く鉄三郎くん。それが一気に改善に向かいます。何がきっかけだったのでしょうか? ※病気の診断や治療に関しては、鉄三郎くんの主治医の見解によるものです。もし愛犬に同じ病気や似たような症状があった場合は、まずかかりつけの獣医師に診てもらってください(編集部)。
鉄(本名は鉄三郎)の甲状腺機能低下症が判明したのは、2013年、4才半のときでした。
運動機能の低下、脱毛などは、甲状腺ホルモンを補う薬を経口投与する事で改善に向かいましたが、皮膚炎の方は相変わらず。
かゆみを抑える新薬が発売され鉄が使い始めたのは2016年から。
それまでは、週1の薬浴が欠かせなかったが、その新薬の使用を始めてからは、薬浴は月1程度で済むようになった。一方、新薬を欠かせなくなった。
前回の話は、その新薬もあることをきっかけに不要になり、ここ数年の鉄の絶好調人生は始まった。そのきっかけのあることとは何か、というところまででした。
さて、そのきっかけのあることとは……。
あることをきっかけに、のあることとは
2019年の6月のことです。
鉄が食べたものをすべて吐き出してしまう。水も、です。
その吐き方も尋常ではない。シンガポールのマーライオンのように、口から水や食べたものをどわーと吐き出す。
診断所見は、巨大食道症。
食べ物を胃に送る食道まわりの筋肉の動きが低下し、水や食べ物が食道に停滞し嘔吐してしまう。
原因不明なことが多いのですが、甲状腺機能低下症が原因のこともある。
甲状腺機能低下症のひとつの症状、運動機能の低下によって食道まわりの筋肉の動きが悪くなってしまうのです。
原因不明の巨大食道症の場合は治療法がないので、一生その病気と付き合うことになります(食後30分犬を2足立ち状態にさせて重力で食べたものを胃に落とすケアが必要)。
鉄の場合は、甲状腺機能低下症が原因でした。獣医師の指示で、試しに甲状腺ホルモンを補う薬の量を倍に増やしてみたら、ビンゴ!
巨大食道症の症状が消失してしまったのです。

巨大食道症の症状の消失のみならず
口からは一切水も食べ物を入れず、流動食および水分を胃へ直接送る。獣医師の指示に従い、試しに甲状腺ホルモンの薬の投与量を増やし、様子を見つつ試しに口からの食事を少し入れてみる。様子を見ながら試し試し、少しずつ口に入れる量の割合を増やす。結果、鉄の巨大食道症は改善し、胃ろうを外せるまでに至ったのです。
発症から胃ろうを外すまでの間、かゆみを抑える新薬の投与は中断していました。
驚くことに、新薬の投与を中断していたにもかかわらず、鉄は皮膚をかき倒すことがなく、皮膚の方は赤みすら見られなくなっていったのです。
そう、甲状腺ホルモンの薬の投与量をそれまでの倍に増やしたら、巨大食道症の症状が消失したばかりではなく、皮膚の炎症も改善していったのです。
皮膚の炎症がなくなっただけではありません。毛ぶきもよくなり、換毛期にはごっそりと毛が抜けるようにもなりました。
柴犬の飼い主が換毛期の抜け毛によく悩まされますが、それまでそうしたことが鉄にはなかったので、「え? こんなに抜けるの?」と驚かされました。
本来の鉄の被毛の状態に、生まれて初めてなったということなのでしょう。

仮の姿だった? それまでの鉄
精神面でも行動面でも変化が見られていったのです。
例えば、外での排泄。
鉄は散歩中、排泄を極力ガマンしていた感じでした。コラムVol.120で記しているように、外では安心しきれていなかったのでしょう。
それが外での排泄を、それも散歩中数回行うようになったのです。
自分に自信を持ててきたのでしょうか? 警戒心が和らいできた様子も見て取れます。
以前は背後から来る自転車によく反応していましたが、そうした行動も見られなくなっています。ときどきひどく警戒する男性がいたのですが、そうした状況に遭遇することもなくなりました。
体の調子が悪ければ、心の状態も良好ではなくなる。
その逆もしかり。
鉄は体が本来の調子になったので、心の状態もよくなっていった。
そう、肉体的にも精神的にも、鉄は本来の姿に生まれ変わったのです(おそらく)。
長い道のりでしたが鉄は今、人生、いや犬生の絶頂期を迎えている。それは間違いない。
この状態が長続きすることを、私は願ってやみませんが、はてさていつまで続くことやら。
なんてたって、人間ならすでに後期高齢者ですからね。

西川文二氏 プロフィール
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