ここでは、犬と、犬を取り巻く社会がもっと幸せで素敵なものになるように活動している方々をレポートします。
今回は、保護犬のトレーニングを介して若者の自立支援を行うNPO法人キドックス。2022年の広大な敷地に移転し、さらに進化した活動内容について紹介します。
人も犬も「孤立」しないように、困ったときに気軽に相談できるコミュニティの場でありたい
2022年にリニューアルされた「ヒューマンアニマルコミュニティセンター キドックス」を訪れてみると、そこはミニテーマパークのような楽しい施設に。約3300平方メートルという敷地には、広々としたドッグラン、冷暖房を完備した保護犬専用の犬舎、トリミングサロンやペットホテルほか、保護犬と出会えるカフェ、ペット同伴可のレストランまでもが完備。
新施設には、人と犬がともに楽しく過ごせる設備が充実
施設の建物に囲まれた中庭では、子どもたちが保護犬とふれあえる「キドックスどうぶつクラブ」などのイベントも定期的に開催されています。
ちなみに取材当日には15頭の保護犬たちが施設内で暮らしていましたが、そのほとんどは茨城県動物指導センターから引き取った犬たちとのこと。茨城県は関東でも群を抜いて野犬や捨て犬の問題が深刻で、センターは常に野犬や飼育放棄された犬たちであふれているのが実情です。上山さんはキドックスの専属ドッグトレーナーとともに茨城県のセンターに定期的に通い、トレーニングすることで譲渡につなげられる犬たちを引き取り、若者たちとともに家庭犬になれるまでトレーニングをして、お世話をしています。
「若者たちの努力によって人なれが進んだ犬たちは、『保護犬カフェ』にデビューとなります。最近やっと3頭の犬たちが新たにデビューできました(笑)。保護犬には元野犬のコも多く、譲渡できるまで1年以上かかるケースも少なくありません」と、上山さん。保護犬カフェには、譲渡を希望する人のほか、犬は迎えられないけれど保護犬たちとふれあいたい、という人も訪れます。
また、カフェ内では、1頭につき1組のゲストがふれあえるルールにしていると上山さんは説明。「一度に大勢の人に囲まれてしまうと保護犬たちは萎縮してしまうので、各客席を柵で囲って、お客様にはそれぞれ1頭の犬とだけ向き合ってもらうようにしています」。それによって、犬たちはスタッフ以外の人も少しずつ受け入れられるようになるとのこと。
一方、新たに開設されたトリミングサロンやペットホテルは、近隣に住む多くの愛犬家たちに利用されています。「愛犬と同伴可のレストランを併設したことで、たとえば愛犬をトリミングサロンに預けたあと、飼い主さんにはゆっくりランチを楽しんでもらうこともできます。また、愛犬とランチをしがてらここに来て、キドックスのスタッフと、愛犬についての相談など気軽に話していただけたらとも思っています」と上山さん。
こうした試みは、何よりも地域に住む愛犬家の皆さんとも積極的に交流していきたいという思いからだそう。そして上山さんは続けます。「人と犬の双方が幸せになるには、何よりも『孤立』をしないことなんです。たとえば、いま問題になっている多頭飼育崩壊でも、飼い主さんが気軽に相談できる場所が身近にあれば早い段階で防げるかもしれません……。また『終生飼育』するのは当たり前といっても、人生にはいろいろな局面があるので、愛犬を手放さざるをえない出来事があるかもしれない。そんなとき、飼い主さんがひとりで悩むことがないようキドックスが寄り添っていけたらと思っています」。
上山さんは、犬たちが幸せになるためには、しつけや適正飼育の面などで飼い主さんに厳しい目を向けるだけでなく、気軽に相談できる場所をつくることも大切、と話します。それが結果的に捨て犬を減らすことにもつながっていくとのこと。
次回はキドックスが目指すこれからの活動についてレポートします。
出典/「いぬのきもち」2024年10月号『犬のために何ができるのだろうか』
写真/田尻光久
写真提供/NPO法人キドックス
取材・文/袴 もな
※保護犬の情報は2024年8月2日現在のものです。