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9年目を迎えて「穴澤賢の犬のはなし」

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9年目を迎えて

毎年10月1日の心境を書いてきたが、気が付けば今年で9回目となる。昨年も書いたかもしれないが、もう特に心境の変化はない。ただ、「あぁ、10月1日か」と思う。そして9年前のあの日の記憶が一瞬脳裏に蘇り、遠いことなのか近いのか、それもわからない感覚になっている。

そういえば最近、入院中のちょっと変な話を嫁から聞いた。これまで書いたように、3月に入院していたときの記憶が、ほとんどない。言動もおかしく、今思えば「それは本当に俺だったのか?」という気さえしている。たぶんケガにより、大脳皮質あたりが一時期ちゃんと機能していなかったのだろう。

手術から少し経って、一応話すことはできるようになった頃、嫁が病室に入ると、男性と女性が私のベッドのそばに立っていたそうだ。どちらも私が20歳の頃から付き合いのある古い友人だった。特に女性の方に会うのは10年以上ぶりで、かなり久しぶりだったと思う。

そのとき私は、つもる話など一切せず、女性から借りたスマホに顔を近づけて「かわいいなぁ、かわいいなぁ」と何度も言っていたという。気になった嫁が、友人に挨拶をしてから私が見ているスマホを覗き込むと、そこには富士丸の動画(youtube)が流れていたそうだ。それを繰り返し見ては、しきりに「かわいいなぁ」と言っていたらしい。

そんなことは、まったく記憶にない。というか、富士丸が亡くなってから写真は何度も眺めたことはあるが、動画だけは何年も見られなかった。かつて自分でBGMまで作ってアップした動画が何本かあるが、動いている富士丸を見るのが辛すぎて、そんな気になれなかったのだ。さらに私が人前で富士丸の動画を見て「かわいいなぁ」なんていうはずがない。

しかし入院中の私は、ずっと動画を見て「かわいいなぁ、かわいいなぁ」しか言っていなかったらしい。しかもすごく嬉しそうに。誰なんだそれは、と思う。気になったので、それはデビルマン顔の犬を見てかわいいと言っていたのか、それともちゃんと富士丸だと認識しているようだったか嫁に聞いてみたら「認識していたよ」と言うので、さらに驚いた。誰なんだよ、そいつは。

普段の私とは明らかに違うが、そんな状況でも奴のことは忘れていなかったのか。復活した今は、もちろんすべて覚えている。手触りが、懐かしく、愛おしい。今回のケガで記憶をなくさなくて、本当によかったと思う。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。株式会社デロリアンズ代表。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。
ブログ「Another Days」


大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雪と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。

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