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不幸な犬を増やす間違った叱り方|連載・西川文二の「犬ってホントは」vol.5

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「いぬのきもちWEB MAGAZINE」より新たにスタートした連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。

さて、今回は、犬の殺処分を減らすため、保護された犬たちを新しい家族に迎えてもらうという活動のなかで見えてきた問題。人を本気で噛む犬は引き取られことは難しく、悲しい結果になる現実も。では、なぜ、人を本気で噛む犬がいるのでしょう。(編集部)


90年代に世の中に広まった犬の叱り方があります。「マズルをつかむ(噛む)」「仰向けに押さえつける」「首根っこをつかみ上げる(噛んで持ち上げる)」。この3つは母犬たちがやっているから犬に伝わる……とされていました。
当連載で、2000年以前の犬の常識、しつけの常識は間違いだらけという話をしてきています。はてさて、これらの叱り方はどうなのでしょうか。真実か否か?

知っていますか? 環境省からのアナウンス

「適性譲渡のための飼い主教育」。環境省が作成した小冊子です。43ページに、「マズルを噛む」「仰向けに押さえつける」が紹介されています。もちろん、決してやってはいけないこととして、です。
環境省が取りまとめとなり、改正動物愛護法が作られたのは2005年。この法律ができたことで、犬の販売方法などさまざまなことが変わっていきました。なかでも大きく変わったことのひとつに「殺処分減少への取り組み」があります。里親探しに力をいれるようになっていったのです。
里親探しに力を入れるなかで、ひとつの問題が見えてきました。人間を本気で噛みつく犬たち。彼らには、どうしても新しい飼い主を見つけることができない。 
そして、本気で噛む犬は過去に先の罰を受けていた可能性が見られる、ということが。
ちなみに、首根っこを持ち上げる行為に関しては、行動学者のキャンベルが彼の著書で調査結果らしきものを記したことがあります。もちろん、母犬がやっているという根拠はない、というお話としてです。

↑環境省「適性譲渡のための飼い主教育に「おすすめできない叱り方」として紹介
環境省「動物の適正譲渡における飼い主教育」より

なぜ本気で噛むようになってしまうのか 

動物がどう行動を獲得し習慣化していくかは、学習の心理学で解き明かされています。たとえば、「母犬を強く噛んだら噛み返された。結果、母犬を強く噛む行動が減っていく」。これは、結果的に嫌なことが起きた行動の頻度は減っていく、正の罰という行動原則に則っています。
しかし、この正の罰には、「攻撃性を高めていく」リスクがあることも、動物の行動研究のなかでわかっているのです。
結果的に嫌なことがなくなる行動の頻度を高める。負の強化といい、これも学習の心理学で解き明かされている、動物たちの行動原則のひとつです。噛まれるリスクを排除したいのなら、嫌なことは起こさない、嫌がることは無理にしない、ということなのです。

環境書のホームページからダウンロードできる
環境省「動物の適正譲渡における飼い主教育」より

リスクのない方法があるのなら、そちらを選択する

昔は「下半身を鍛えるにはウサギ跳び」が定番でしたね。でも、スポーツに科学的なアプローチが導入されるようになった現在、ウサギ跳びはやりません。膝を痛めるリスクがあるからです。そして、それに変わるリスクのない方法が今はわかっているからです。
リスクのない方法を選択する。科学的なアプローチを導入するのであれば、叱る行為も然り。昔は叱るしか犬の行動の改善方法を知らなかっただけ。でも学習心理学にのっとれば、叱らなくても困った行動はリスクなく改善できる。
だったら、子犬が甘噛みしてきたらどうする? 叱らないでいいのか? そんな声も聞こえてきそうですね。では、そのあたりの話を次回にいたしましょう。

文/西川文二
写真提供/Can ! Do ! Pet Dog School

西川文二氏プロフィール

公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can ! Do ! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『イヌのホンネ』(小学館新書)、『うまくいくイヌのしつけの科学』(サイエンス・アイ新書)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)など。愛犬はダップくん(14才)、鉄三郎くん(10才)ともにオス/ミックス。

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