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犬は飼い主の言うことではなく「おやつ」の言うことを聞いている?|連載・西川文二の「犬ってホントは」vol.36

「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
今回は、犬のしつけにおやつを使うことについて、疑問に思っている人は必見! 「オスワリ」「マテ」などのしつけで犬にごほうびを与えると、「犬は自分の言うことではなく、食べ物の言うことを聞いているのでは……?」と思ったことはありませんか? ホントのところはどうなのかがわかります(編集部)

前回の続きというわけではありませんが、今回もフードのお話を。
すでに当コラムでお話しているように、私がプロとして活動を始めたのは1999年。当時の犬のトレーニングの専門家といえば大多数が訓練士さんたち。
私たちJAHA認定の家庭犬しつけインストラクターは、訓練士さんたちのお客さんを奪うとされ、彼らから「あんなのは飼い主の言うことを聞いているわけではない。食べ物の言うことを聞いているだけ」と、揶揄されたものです。
もちろんそんなことはないわけで、トレーニングのみならず犬との好ましい関係を望むのであれば、フードを用いない手はないのです。

服従関係を望むのならフードはいらないが

コンパニオン・ドッグに育てるためのトレーニングとは、人間社会で遭遇するであろう物や事に慣らし、好ましい行動をたくさん教えること。
動物が行動をどう獲得し習慣化していくかをつまびらかにした「学習の心理学」。そこで明確にされているのは、「結果的にいいことが起こる行動の頻度が高まる」「結果的に嫌なことがなくなる行動の頻度が高まる」ということです。
前者は例えば、お尻を地面につけたときにいいことが起これば、犬はお尻を床につける行動を積極的に行うようになります。この「いいこと」の代表例がフードということです。犬がお尻を地面につけたときにフードを提供することで、犬にオスワリを教えていけるわけです。
後者は、首が絞まっていく首輪(チョークカラー)を犬に装着し、その首輪につけたリードを上に引き上げていき、犬のお尻が地面についたら、首を締めるのをやめる。この方法でもオスワリという行動自体を、教えてはいけるのです。
ただ、この方法で築くことができるのは、「支配ー服従」という犬との関係。犬も飼い主も幸せという関係、共生関係を築くことはできないのです。
チョークカラーを用いても、オスワリの行動自体は教えていけるが、好ましい関係は築けない

犬が集中し、あげると喜ぶモノ

「お尻を地面につけたときに」というのは、実際のトレーニングでは「お尻が床につくように導き」ということになります。
フードは、その導くということも可能にするわけです。
もちろん、犬が興味を持ち集中し、与えると喜ぶものであれば、フードでなくても構いません。
例えば、おもちゃ。
ただ与えたおもちゃは取り返さないと、次のいいこととして使えません。毎回取り返す必要もあります。
それと、飲み込むと危険ですからおもちゃはある程度の大きさを必要とします。それは、持っていることを目で確認させることを意味します。
フードの利点は、手に隠れ視覚的な確認をさせないですみ、与えるとすぐになくなる、という点です。
犬が集中し、与えると喜ぶ、さらに手に隠れ、すぐになくなる。20年以上探しているが、フード以外いまだ見つかっていない

フードはいわゆる犬へのプレゼント

飼い主家族に気に入られ、家族の一員として迎え入れられた子犬。しかし、犬がその家族を気に入っているかは「?」です。要は、飼い始めの子犬と飼い主家族との関係は、いわば片思いの関係のようなものです。
片思いを両思いの関係にしたいと思ったら、プレゼントをあげる。喜ぶことをしてあげる。嫌がることはしない。
このプレゼントの代表がフードということです。
両思いになれば、声をかけることも、見ることも、触ることも、すべていいこととなります。
そして、そうした関係を築くことができれば、もうプレゼントに頼る必要はないのです。
そう、フードは好ましい関係づくりのための欠かせないツール。
トレーニングを通じて報酬のフードをたくさんあげることは、プレゼント攻勢を片思いの相手に仕掛けるのと同じ。まぁそういうことです。
さて、事あるごとに首を閉められ、無理やり言うことを聞かされる。叱られる。そんな相手と両思いの関係になることができるでしょうか?
まぁ言うまでもないこととは思いますが・・・。
文/西川文二
写真/Can ! Do ! Pet Dog School提供
https://cando4115.com/index.html

西川文二氏 プロフィール

公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can ! Do ! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『イヌのホンネ』(小学館新書)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!柴犬ぐらし』(西東社)など。愛犬はダップくん(14才)、鉄三郎くん(10才)ともにオス/ミックス。
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