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犬の寝顔を見て思うこと【穴澤賢の犬のはなし】

無防備に寝ている大吉と福助を見ていると「お前ら、のんきだなぁ」と思う。ちょっとくらい揺すっても起きない。気が付いたとしても、動かない。ひどいときは、本当に布団の上で体を伸ばした無防備な格好で、鼻をスピスピいわせながら寝ている。動物としての警戒心はないのか、と思う。昔はこうではなかった。
わが家には子どもの頃から犬がいたが、彼らが寝ている姿を見た記憶がない。父親の方針で家にはあげず、犬は玄関が定位置だった。今なら不憫に感じるが、当時の地元大阪はそういう風潮だったし、犬の方も家にあがったことがないから、そういうものだと思っていたのかもしれない。それで私が玄関に近寄ると、寝ていたとしても必ず起きた。本能的に警戒していたのか、かまってもらえると喜んでいたのかは定かではない。
それでも小学生になるかならないかくらいの私は犬と一緒に寝てみたくて、玄関に段ボールを敷いて横になったりしてみたが、犬はくっついて寝てくれないし、玄関の床は冷たく肌寒いから結局諦めて自分の部屋に帰ったりしていた。すると犬は安心して自分の犬小屋へ入っていた気がする。
たまに何か要求があると吠えたりしていたが、犬が何を考えているか明確にはわからなかったし、犬もこちらをわかっていなかったのだろう。それでも特に困ることはしなかった。同年代の人はわかると思うが、今から30年か40年くらい前はそういう距離感だった。
犬の寝顔をちゃんと見たのは、富士丸と暮らしてからだった。その頃はもう大人だったから一人暮らしの1DKで「同居状態」だったが、犬も寝言をいうのだとはじめて知った。四六時中顔を合わせているから、そのうちお互いに相手が何を考えているかわかるようになってくる。ただ、富士丸はベッドにあがってくることはあったが、本気で寝るときは自分の寝床へ移動していた。
そして今、冒頭に書いたように大吉と福助は普通にベッドでもソファーでも自分のベッドでもどこでも熟睡する。普段は家の中もすべてフリーだから、仮に「玄関にいてね」と言ったとすると「なんで?」という顔をするだろう。
昔が悪くて今が良いというつもりはないが、この30年ほどで人と犬の距離は驚くほど近くなったと思う。私は彼らが何を考えているのかだいたいかるし、犬も驚くほど空気を読んでいると感じる。そして今の距離感は、私が子どもの頃からやりたかったことなんだと改めて思う。ここまで警戒心がないのは犬としてどうかと思うが。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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