飼い主さんが触ろうとしたら、その手に噛みついたり、激しく吠えたてたり……。「どうしたらいいだろう?」と思わず飼い主さんが頭をかかえてしまうほどの犬の激しい行動は、「問題行動」とされ、専門的な治療が必要なことがあります。犬の行動理論と獣医療の両面からアプローチして、こうした問題行動の解決を目指すのが「行動治療」です。ここでは、万一のときに必要になる行動治療について解説します。
問題行動とは、飼い主さんが「困った!」と感じる愛犬の行動
ひと口に犬の問題行動といっても、小さな困りごとから、まわりを巻き込んでトラブルなるようなものまでさまざまですが、たとえば次のようなものがあります。愛犬の行動に少しでも疑問を感じるときは受診を検討してみてもよいでしょう。
おもな問題行動例
・物を壊したり、食いちぎったりする「破壊行動」
・うなって威嚇したり、噛みついたりする「攻撃行動」
・しっぽを追う、体をなめ続けるなど同じ行動を繰り返す「常同障害」
・激しく、吠えたてる「咆哮問題」
・飼い主さんの姿が見えなくなると吠えたり、物を壊したりする「分離不安」
・ほかの動物を怖がったり、雷や花火でパニック状態になる「恐怖症」
こうした行動は、大きくふたつに大別できます。ひとつは、「脳神経や精神的な障害が原因となる異常行動」。もうひとつは、「犬が危険を察知して攻撃する」「退屈で物を壊す」など“犬にとっては正常な行動であっても人間社会では問題となる”行動です。行動治療を受けるケースの多くは後者。飼い主さんを悩ませる犬の行動自体はあくまで表面上のもので、行動治療では、そうした行動を起こさせるきっかけとなることがらや状況、飼い主さんの接し方などを細かく分析し、原因を明らかにしていきます。問題行動の原因はさまざまで、社会化の不足、ストレスや満たされない生活環境、飼い主さんの犬の本能に対する理解不足や間違った対応によって悪化していることもあります。
原因を探り、獣医師と飼い主さんが協力して治療する
行動治療では、無駄吠えや分離不安、噛みグセなど、人と犬が暮らすうえで生じる困りごとやストレス行動を治療するために、まずは獣医師が飼い主さんへの細かな問診と愛犬への診察を行います。そうしてできた治療目標や治療方針をもとに獣医師と飼い主さんが協力しながら治療を行っていきます。獣医師の役割は、問題行動の原因をわかりやすく説明し、治療のゴールを確認したうえで、適切で実行可能な治療方法を提案すること。そして、飼い主さんの役割は、愛犬への接し方や意識を変えたり、環境を整えたりといった治療そのものを実践すること。かかりつけの獣医師やドッグトレーナーと連携をとりながら進めることもあります。2週間に1回くらいのペースで経過を確認しながら、治療を進めていきます。根気と毎日の積み重ねが愛犬の困りごとを解決するカギとなります。症状の程度にもよりますが、半年~1年ほどで治療を終えるケースが大半です。
いかがでしたか。あまり聞きなれない「行動治療」ですが、獣医療にはこうした専門分野があることを知っておくと安心ですね。吠えグセや噛みグセに困ったときの助けになる治療法です。
参考/「いぬのきもち」2017年9月号『犬の「行動治療」はじめてガイド』(監修:荒田明香先生 東京大学附属動物医療センター行動診療科特任助教)
文/犬神マツコ