先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
動物病院が嫌いな犬は多い(猫も)。わが家もそうで、大吉は診察台に乗せるとあきらめて大人しくしているが、福助は病院に入ることすら全力で拒む。なんとか診察台に乗せても、隙きあらば飛び降りようとするし、獣医師が耳の中を見ようとしても暴れて絶対に見せない。
動物病院をいやがる福助
幸い、立ち耳で通気性がいいせいか、中耳炎などになったことはないのでいいが(大吉は垂れ耳だから梅雨時期によくなる)、最後まで悪あがきするので、聴診器や注射はがっちりガードしつつ少し宙に浮かせて「抵抗してもむだシフト」で挑んでいる。
それにしても、なぜそこまで動物病院がいやなのか分からない。診てもらっている『
横浜山手犬猫医療センター』の獣医師さんやスタッフはとても優しいし、いやがることを強引にやったりはしない。痛い思いをしたこともないはずなのに、なぜそれほど拒否るのか。毎回「大丈夫だよぉ」と言いながら触られても、何度も会っているのに、福助は決して信用しない。
福助に限らずそういう犬は多いらしいので、動物病院には犬にだけ分かる「負のオーラ」でも漂っているのだろうか。待合室にいる犬たちはだいたいみな不安そうだから、そういう感情が伝染するのだろうか。それとも特に理由はなく「ただなんとなく雰囲気がいや」なのか。
どんなに嫌がられても動物病院に連れて行く理由
いずれにしても、動物病院には定期的に連れて行く。先月は狂犬病予防注射で、今月は10種混合ワクチンの摂取(一度に両方摂取するのを避けた)と、ノミ・ダニ予防薬をもらうために。
幸いなことに、「カイチュウ博士」こと故 藤田紘一郎教授と共著(『富士丸のモフモフ健康相談室』実業之日本社刊)を出させてもらったことがあり、そのときにズーノーシス(人獣共通感染症)についていろいろ教えてもらった。
ズーノーシスの中でも怖いのは「狂犬病」と「オウム病」と「エキノコックス」だという。特に狂犬病は哺乳類すべてに感染可能で、発症すれば致死率はほぼ100%である。日本では撲滅されているだけで、そんな国の方が珍しい。全世界では、毎年3万5000から5万人が狂犬病によって亡くなっている。飛行機や船で簡単に行き来できる時代なので、いつ入ってきてもおかしくはない(実際2020年に日本で一例死亡例がある)。
でも予防薬で防げるのだから、打っておいたほうがいい。日本での狂犬病予防注射の接種率は7割程度、飼い犬の届け出のない犬も含めると、4割程度ともいわれている。危険性を考えるとかなり少ないが、もしものときに愛犬を守るため打っておくべきだと私は思う。
同様に混合ワクチンも打っておいた方がいい。それで「犬ジステンパー」、「犬パルボウイルス感染症」、「犬伝染性肝炎」、「犬アデノウイルス2型感染症」、「犬コロナウイルス感染症」、「犬レプトスピラ感染症」から守ってやれるのであれば。犬には自分でワクチンを打つ選択肢はないので、飼い主としてできることはやっておこうと思っている。
だからどんなにいやがられても、動物病院には連れて行く。毎回触診や年に1度は「血液生化学検査」も受けている。行く度に心底いやそうな顔をされるが、今のところ特別どこも異常なしなので、よかったよかった。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。