ここでは、犬と、犬を取り巻く社会がもっと幸せで素敵なものになるように活動している方々をレポートします。
今回は、開業以来多くの保護犬の命を救ってきた東京都の「なないろ動物病院」服部真澄院長の取り組みについて紹介します。
なないろ動物病院院長服部真澄先生。日本大学農獣医学部獣医学科卒業後、各地の動物病院で勤務医として臨床経験を積み、2013年に「なないろ動物病院」を開業。今年3才になる愛犬のコールくんは動物病院の看板犬で、先生のよきパートナー
数多くの保護犬たちに手厚い医療を提供し、新しい家族への譲渡まで行う
文京区千駄木にある「なないろ動物病院」は、いつも地元の愛犬家の人々に頼りにされている存在
東京都の千駄木にある「なないろ動物病院」では、一般診療のほか、不遇な環境からレスキューした保護犬に手厚い医療を施し、新しい飼い主さんを探す活動を行っています。2013年の開業以来、全国の動物保護団体と協力して救ってきた保護動物は約200頭に上ります。
動物病院の入り口には、そのとき募集している保護犬と保護猫の情報が貼られ、目にした人が応募することも
「私の場合、最初から愛護活動に熱心だったわけではなく、もともとは野生動物の獣医師になることが夢でした。それには臨床経験を積む必要があったので、まずは犬や猫などのペットの診療を行う小動物臨床獣医師として動物病院に勤務したのが始まりです」と服部先生。
その後、たまたま勤務医として在籍した2軒目の動物病院が、動物保護団体をサポートし、保護犬の診療にも積極的だったそうで、服部先生はこのとき初めて保護犬の置かれる現状を知ったとのこと。
「動物病院で飼い主さんのいない保護犬の診療を受け付けるところは多くはないんです。少しの医療を施せば救われる命はたくさんあるのに、どうして保護犬はペットの犬と同じように医療を受けることができないのか、疑問に思ったんですね」
この経験から、将来は保護動物も救う動物病院を自身で開業しようと決意したそうです。
念願だった保護活動も行う動物病院を開業
2013年、念願の動物病院を開業。その運営が軌道に乗ってからは、協力する保護団体から月に2頭くらい動物病院として保護犬を預かることに。服部先生は、一般の診療時間外の昼休みなどに保護犬の治療やケアを行うため、無理のない頭数で、しっかり医療面のケアをしていくことを心がけています。
「保護団体から来る保護犬は、ボランティアさんではケアしきれない健康状態の悪い犬もいます。獣医師だからこそ、そうした犬たちを助けるべきだと思っているので、健康に問題がある犬でもできるだけ受け入れるようにしています」
動物愛護を推進する獣医師として、不幸な命を増やさないよう、譲渡前の犬猫には必ず避妊・去勢手術をします
たとえば、多頭飼育崩壊現場から救出された犬は、被毛が糞尿で固まり、健康状態も悪く、心に傷を負っているケースが少なくないとか。服部先生は、まずは健康チェックを念入りに行い、汚れた被毛はすべてカットして洗い、避妊・去勢手術、予防接種、駆虫など必要な医療処置を行います。その後、人とふれあうことにも慣れさせたうえで、譲渡が可能と判断したら、新しい飼い主さんを募集するそうです。
募集は、動物病院の入り口に掲げる貼り紙やホームページ、自身が発信するSNSで行います。この方法で新しい飼い主さんはほぼ見つかるとのこと。ただし、今までに受け入れた保護犬のなかには、認知症を発症しているシニア犬、完治する見込みのない病気を抱えた犬などがいて、そうした犬たちは、なないろ動物病院で最期まで面倒をみることにしています。
「たとえ短い犬生でも、最期は人のぬくもりを知り、穏やかなときを過ごしてもらいたい」と服部先生はやさしく語ります。
悪徳ブリーダーのもとから保護されたという当時のちぃちゃん(マルチーズ)
ちぃちゃんはその後の余生を「なないろ」で穏やかに送ったそうです
次回は、服部先生の心の支えになっている看板犬コールくんのこと、「保護犬をつくらない」ための飼い主さんへの啓蒙活動についてレポートします。
※保護犬の情報は2022年6月7日現在のものです。
出典/「いぬのきもち」2022年8月号『犬のために何ができるのだろうか』
写真/田尻光久
写真提供/なないろ動物病院
取材・文/袴 もな