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大吉との12年【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

8月17日で、大吉が12才になった。誕生日が分からないから推定の福助とは違い、大吉は一般家庭で生まれたので、間違いなく12年前のその日、大吉が誕生したことになる。12年前といえば、私は富士丸がいなくなった喪失感の谷底から2年経っても這い上がれず、ただぼんやり生きていた。

大吉と出会って変わった人生

そんなとき、また犬を迎えるつもりはなく、犬が好きだから「ただぼんやり」眺めていた『いつでも里親募集中』で出会ったのが大吉だった。そこからの復活ぶりは、これまでさんざん書いてきた通りだ(『また、犬と暮らして。』世界文化社参考)。
そんな大吉が、7才半で急死した富士丸を優に超えて12才になった。弟分の福助ですら、もう9才だ。どちらも立派にシニア犬の領域に入っているが、まだそれほど老いは感じない。大吉は、何もないのに後ろ足がプルプル震えることがあるが、獣医師によればそれは年齢的によくあることだし、そんなに気にする必要はないという。実際、まだ全力疾走できるし(福助より速くてしなやか)、未だに2頭でバトルしたりする。この前は、全身麻酔で歯石も取ったし、まだまだいける気がする。
山の家に行けば、動きが2才くらい若返り、顔を輝かせて走っているが、そのためにちょっと無理して手に入れたんだぞ、雑草の生い茂るところを頑張って草刈りしてドッグランを作ったんだぞ、プライベートドッグランを持っている犬なんてどれだけ贅沢か分かっているのか? と思うが本人たちは分かっていないんだろう。それでいいと思う。私がしたくてしたことだから。そう思わせたのが、大吉であり、福助というだけの話だ。

これからも一緒に

嬉しそうな顔で遊んでいる姿を見ていると、ときどきふと思う。あと何年こんな暮らしが続くのか。富士丸と暮らしていたときもそう思ったことはあったが、漠然としていて、現実味がなかった。でも、ある日突然、健康診断でなんともなかった富士丸が亡くなってから、いつ、何があるか分からないことを現実として突きつけられた。
その経験があるからだと思うが、心のどこかに恐怖というか、不安というか、今の状況がいつまでも続くと思うなよ、という影がある。なぜなら犬は人間とは違い、寿命が短いから確実に別れは訪れるからだ。
これも富士丸との別れを経験したからだと思うが、毎日掃除機をかけていることもまったく苦に感じない。むしろ、こんなに抜け毛をまき散らかしてくれてありがとう、とさえ思う。あの、掃除しなくていい日の、勝手に目から涙が溢れる悲しさを知っているからだろう。おそらく、というか確実に、またあんな思いをするのだろう。それがひたすら怖くて、富士丸を亡くした後、また犬を迎える気にはなれなかったが、今は違う。
大吉を迎えてよかったと心底思う。もちろん福助も。付け足しみたいで彼に申し訳ないが、まず大吉が来たことでもう1頭迎える気になり、福助が加わったわけだから、やっぱり大吉がきっかけだろう。そして、今の2頭と2人になったのだ。
あと何年、この暮らしが続くのだろう。唯一、救いなのはたぶん大吉(と福助)がそんな不安を感じていないことだ。前回、『「犬は今を生きる」わけではなく、未来を「予測」できる』と書いたが、あれはごく近い未来に限った話で、数年先など意識していないだろう。もっといえば、自分がいつかいなくなることさえ分かっていないだろう。それでいいと思う。大吉、生まれてきてくれてありがとう。そして、誕生日おめでとう。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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