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患者さんの心を癒す“セラピードッグ”になった元保護犬たち

ここでは、犬と、犬を取り巻く社会がもっと幸せで素敵なものになるように活動している方々をレポートします。

今回は、東京慈恵会医科大学附属病院が2019年より開始した、元保護犬による「慈恵犬セラピー」について、その活動内容と3頭の犬たちの活躍ぶりを紹介します。

元保護犬によって結成された「慈恵犬セラピー」は多くの患者さんの心の癒しに

嘉糠洋陸先生。東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター・実験動物研究施設長、熱帯医学講座教授。2015年「慈恵犬」によるドッグセラピーの構想を立ち上げ、その後実現に向けて尽力。2019年に正式に活動を開始。
嘉糠洋陸先生。東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター・実験動物研究施設長、熱帯医学講座教授。2015年「慈恵犬」によるドッグセラピーの構想を立ち上げ、その後実現に向けて尽力。2019年に正式に活動を開始。
東京都港区にある東京慈恵会医科大学附属病院(以下、慈恵医大附属病院)では、「慈恵犬セラピー」と呼ばれる元保護犬による「ドッグセラピー」が行われています。「ドッグセラピー」とは、人と犬がふれあうことによって人の精神的な安らぎやストレスの軽減を促す「動物介在療法」のひとつです。
 
現在、「慈恵犬」と呼ばれる3頭の犬たちは、慈恵医大の正式な職員として、毎週木曜日に附属病院の外来棟の出入り口で外来患者さんをお出迎えし、ふれあいセラピーでは多くの患者さんの心をなごませています。また小児科病棟に入院中の子どもたちには、タブレット端末を通してリモートセラピーを行っています。犬たちは、元は不遇な環境に置かれた保護犬でしたが、今は病院のスタッフたちが新しい飼い主となり、毎日丁寧なケアを受け、それぞれが活躍の場を与えられ生き生きと仕事をこなしています。
慈恵犬第1号のそらまめちゃん(推定6才)の愛称はまめちゃん。ちょっと人見知りだけど芸達者でマテが得意
慈恵犬第1号のそらまめちゃん(推定6才)の愛称はまめちゃん。ちょっと人見知りだけど芸達者でマテが得意

元保護犬をセラピー犬として育成するプロジェクトが始動

ボスくん(7才)は1才のころ、郡山市保健所から迎えられ、今はムードメーカーとして院内の人気者に
ボスくん(7才)は1才のころ、郡山市保健所から迎えられ、今はムードメーカーとして院内の人気者に
人と犬の双方が幸せになれるこの慈恵犬セラピーのプロジェクトを立ち上げたのは東京慈恵会医科大学(以下、慈恵医大)の実験動物研究施設長を務める嘉糠洋陸先生です。2015年に同プロジェクトを立案してから実現に至るまでには4年の歳月がかかったそうです。
「そもそもの発端は、慈恵医大では犬を実験動物として使うことを動物愛護の観点から廃止したことに始まります。中止が決定されてからは、それまで使用してきた研究施設内の広い犬舎も不要になりました。そこで、この犬舎を有効活用して、セラピー犬を一から育成できれば、と思い立ったんです。セラピー犬が常に院内にいれば継続的に患者さんがドッグセラピーを受けられますし、将来的に入院患者さんの早期離床(術後などに早くベッドから起き上がれること)、早期退院の一助になればと考えたのです」と嘉糠先生。
2018年に慈恵犬デビューしたナッツちゃん(推定4才)は少しビビリ。片方の垂れ耳がチャームポイント
2018年に慈恵犬デビューしたナッツちゃん(推定4才)は少しビビリ。片方の垂れ耳がチャームポイント
まず、セラピー犬候補になる犬は愛護センターに収容されている保護犬から選ぶことに。これは、保護犬たちの命も同時に救うことができるという理由から自然に決まりました。そして嘉糠先生は、各自治体の愛護センターなどに相談しましたが、「法人への譲渡は実績がない」などの理由から何度も断られてしまったそう。

「あきらめずに2年くらい、関東近郊の保護シェルターや愛護センターに片っぱしから連絡してみました。すると、福島県郡山市保健所が私たちの趣旨に賛同してくれて、保護犬を譲渡してくれることに。保護犬の譲渡条件のなかでも重要なのが『終生飼育』です。当大学の実験動物研究施設には職員が365日休みなく交代で勤務するので、常に犬たちの状態を見守り、世話をすることができます。そして、大学と附属病院の医師やスタッフ全員が犬たちの飼い主となり、大切に育てていくことを約束させていただきました」
 
こうして記念すべき第1号の慈恵犬となったのは、2017年に郡山市保健所から迎えられた生後4カ月の「そらまめちゃん」でした。最初はとても怖がりでしたが、嘉糠先生の自宅で数日間を過ごしたあとは、先生の研究室にデビュー。嘉糠先生は、大学内の各施設や研究室にそらまめちゃんを連れていき、誰に会っても物怖じしないよう人慣れの訓練をしたそうです。
生後間もなく段ボールに入れられて捨てられていたそらまめちゃん。子犬のころ慈恵医大に来ました
生後間もなく段ボールに入れられて捨てられていたそらまめちゃん。子犬のころ慈恵医大に来ました
「セラピー犬になるためにはいろいろな訓練を積む必要があると思われていますが、私の考えは『噛まなければそれでよし』なんです(笑)。なぜなら、家庭犬として暮らす犬たちは、いっしょにいるだけで飼い主さんの心を癒してくれますよね。慈恵犬たちも、多少の欠点はあっても、人を信頼して寄り添ってくれる存在になってくれればそれで充分だと思っています」と嘉糠先生は話します。
 
そして、2019年までにそらまめちゃんに続いて、郡山市保健所からはブルドッグのボスくん(当時1才)、そしてナッツちゃん(当時生後4カ月)が迎えられました。
ナッツちゃんは子犬時代、路上を一頭でさまよっていたそう。生後4カ月のころ迎えられました
ナッツちゃんは子犬時代、路上を一頭でさまよっていたそう。生後4カ月のころ迎えられました
次回は、3頭の元保護犬たちがセラピードッグとしてデビューするためのトレーニングをレポートします。
出典/「いぬのきもち」2023年8月号『犬のために何ができるのだろうか』
写真/田尻光久
写真提供/東京慈恵会医科大学
取材・文/袴 もな
※保護犬の情報は2023年6月7日現在のものです。
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