先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
8月17日で大吉が14才になった。5、6才くらいまではおめでとうという気持ちが大きかったが、年々薄れていき、今では「そんなに早く年をとらなくていいよ」と思うようになった。それでも無事に14才を迎えてくれたことは素直にうれしい。
生き方が変わった大吉との出会い
大吉には救われたというか、大袈裟ではなく生き方を変えてくれたと思う。
富士丸 との突然の別れから2011年11月までは灰色の世界を生きていたけれど(詳しくは「またね、富士丸。(集英社文庫)」参照)、大吉を迎えたことで色彩が戻り、あれよあれよという間に復活し、ライターをやりながら『
DeLoreans 』というブランドを立ち上げたりした。
暮らす環境も、渋谷区初台から足立区扇大橋に引っ越し、そこから鎌倉市腰越に移り住み、2023年11月には八ヶ岳(原村)に移住した。これらはすべて大吉がいなければ実行していなかったと思う。
山への移住は想定外だったが、あまりの暑さに犬と暮らす限界を感じたからだ。もちろん福助の影響もあるが、彼も大吉がいなければ迎えてはいなかっただろう。
あのとき保護犬・保護猫募集のWebサイトで白い子犬に目が止まらなければ、また犬と暮らすと必ず別れが来ることに躊躇して連絡していなければ、まったく違う生き方をしていただろう。とはいえ、人生なんてだいたいそんなものだが、私にとって大吉との出会いが転機であったことは間違いない。たぶん犬と暮らす人の多くは、愛犬に対して似た感覚を抱いているのではないかと思う。
これからも大吉と一緒に
大吉は懐が深く温厚で優しく、けれど自分より体が大きい大型犬に怯むこともなく、かといってけんかを売ったり買ったりもしない。「犬は飼い主に似る」説が間違いだと実証している。唯一、雷と花火が苦手でブルブル震えるが、そういう情けない一面があるのもかわいい。
お前たちとあと何年一緒に過ごせるか。頭の片隅にはいつもそんな思いがある。富士丸との別れを経験しているから余計にそう感じるのかもしれない。そのため半年に一度は「血液生化学検査」を受けさせているが、今のところ異常は何もない。だから安心できるというわけでもない。
大福が元気なうちに山に家を持ちたいという目標は達成した。2拠点生活から完全移住するとは思っていなかったが、それはそれで良かったと思っている。さて、彼らが喜ぶことで、次は何をするか。実はもう決めている。
キャンピングカーを手に入れて、彼らと行き当たりばったりの旅がしたい。でもそれを叶えるにはたくさん越えないといけないハードルがある。だからそれをすでに実現している人を街で見かけると「いいなぁ」という目で眺めている。
※犬用のケーキです
大福が元気なうちに叶えられるか。すぐには無理だけど、それまで元気でいてくれますように。大吉、本当にありがとう。誕生日、おめでとう。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から
「DeLoreans」 というブランドを立ち上げる。
ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。