世界で猛威を振るう人の新型コロナウイルス感染症は、いまだ収束せず、ウイルス感染の怖さを示しています。
犬にも有効な治療法がなく、ワクチンでしか予防できないウイルス感染症もあります。今回は、感染源についての基礎知識と、予防ワクチンがない感染症・SFTS(重症熱性血小板減少症候群)について、獣医師の野矢雅彦先生に解説していただきました。
イラスト/ナカオテッペイ
犬だけに感染するものや、飼い主さんに感染するものも
ウイルスは、目に見えない非常に小さな微生物で、犬の体内の細胞に入って増殖し、感染症を起こします。ウイルスには種特異性といって、特定の動物の体内でしか増殖できないものもあり、犬にしか感染しないウイルスも多く存在します。その一方、人と犬とが同じウイルスに感染する人獣共通感染症もあります。
発生地域が広がったり、コロナ禍で増えたものも
北海道のみに発生していたエキノコックスが本州で見つかったり、西日本エリアが中心だったSFTS(重症熱性血小板減少症候群)が北上してきたりと感染地域が広がっているものも。また、コロナ禍のペットブームで増えたジアルジア、ゲリラ豪雨などによる洪水で危険性が増す犬レプトスピラも注目されます。
セキやクシャミから感染
セキやクシャミを引き起こす呼吸器系のウイルス感染症では、セキなどの際に飛び散る飛ひ沫まつに含まれるウイルスによって感染します。
<おもな感染症>
・ケンネルコフ
・ジステンパー など
虫から感染
ノミ、ダニ、蚊などの虫に吸血される、それらを犬が食べるなどで感染。最近は人への感染もあってマダニが問題に。
<おもな感染症>
・SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
・Q熱 など
病原体に汚染されたものから感染
感染した犬のオシッコやウンチ、感染した犬と共有している食器などから感染。ウンチを踏んだ足をなめる、感染した犬となめあうなどで感染することもあります。
<おもな感染症>
・パルボウイルス
・犬伝染性肝炎
・犬コロナウイルス
・犬レプトスピラ
・ジアルジア
・ブルセラ症 など
ネズミから感染
寄生虫が体にすみついているネズミから感染します。ネズミの糞尿と接触したり、ネズミを食べたりしてうつります。
<おもな感染症>
・エキノコックス
・犬レプトスピラ など
犬から人へ感染する人獣共通感染症もあります
感染した犬のウンチやオシッコ、唾液などから人にも感染する人獣共通感染症があります。子どもや高齢者、抵抗力が低下する病気を抱えている人が感染すると重症化するものも。
予防ウイルスがない! ウイルス感染症【SFTS】
イラスト/ナカオテッペイ
ウイルスをもったマダニに吸血されると感染
SFTSウイルスをもったマダニに吸血されると感染するウイルス感染症です。おもな症状は元気消失、食欲不振、黄疸、発熱など。致死率は犬約30%、猫約70%という怖い病気です。予防ワクチンがないため、マダニから愛犬の身を守ることが大切。
SFTSに感染した犬から人にうつることも
人もマダニから感染しますが、SFTSに感染した犬の唾液、ウンチ、オシッコ、血液などから感染したケースも。高齢になるほど、亡くなるリスクが高まります。
感染症を防ぐためにできる4つのこと
1.ワクチン接種、ノミダニ予防は大事です
散歩に行く、ドッグランで遊ぶ、自然豊かな場所に出かけるなど、犬はさまざまな感染症のリスクにさらされています。愛犬を感染症から守り、広げないためにもワクチン接種、ノミダニ予防は重要。ワクチン接種のタイミングや種類は、居住地域や生活スタイルなどに合うよう、かかりつけ医に相談しましょう。
2.愛犬と飼い主さんとの濃厚接触を避けましょう
愛犬とのスキンシップは大切ですが、愛犬とのキス、食器の共用、食べ物を口うつしするといった濃厚接触は、犬から人へ感染症をうつすきっかけにもなります。また、愛犬とのスキンシップのあとは石けんで手洗いをし、ウンチやオシッコを処理する際には手袋を着用しましょう。
3.アウトドア先で愛犬のリードをはずさないで
愛犬を連れてアウトドアを楽しむ際には、愛犬のリードをはずしてフリーにしないようにしましょう。野生動物の排泄物を踏んだり、狩猟本能に火がついてネズミを食べてしまったりすると、感染症にかかるリスクが高まります。
4.野生動物とのふれあいは距離を保って
野生動物は、感染症の病原体をもっているおそれがあります。愛犬と接触させないよう、野生動物を見かけたら、近づきすぎずに見守る程度にしましょう。また、野生動物の死骸や弱っている野生動物にも、手を触れないように気をつけて。
イラスト/ナカオテッペイ
お話を伺った先生/ノヤ動物病院院長 野矢雅彦先生
参考/「いぬのきもち」2022年2月号『犬の感染症』
イラスト/ナカオテッペイ
文/伊藤亜希子