犬の骨折や脱臼、じつは特別な状況で起こるわけではなく、抱っこしていて愛犬を落とした、フローリングの床で愛犬が滑ったなど、よくあるシーンで発生するんです。犬の骨折・脱臼の特徴や起きやすい場面、骨折・脱臼しやすい部位などを獣医師の枝村一弥先生に聞きました。
落下や飛び降りによる2才以下の小型犬の骨折が圧倒的に多い
「骨折で受診したうちの75%が2才以下の犬で起きています」(枝村先生)。行動が落ち着かなかったり、活発に動き回ったりする時期に起こりやすいのです。抱っこやソファ、テーブルなど高いところからの落下が原因です。とくに、トイ・プードルやポメラニアンなどの小型犬に多く見られます。また、成犬の骨折では、散歩中にリードを離してしまうなどして起きた交通事故によるものも原因になります。
シニアも注意! 骨の強度が低下し骨折のリスクアップ!!
加齢とともに骨の強度が低下し、筋肉量も減ることから、シニア犬は骨折のリスクが高くなります。最近の研究から、骨をつくる体内のカルシウム濃度が10才を超えると下がることがわかり、シニア犬の骨折リスクがデータからも裏づけられています。
●骨折しやすい犬
トイ・プードル/ポメラニアン/イタリアン・グレーハウンド/チワワ/ヨークシャー・テリア など
人に踏まれたり、ドアにはさんだりして折れやすい中手骨と尾椎
中手骨(前足の指と足首の間の骨)や尾椎(しっぽの骨)の骨折は、飼い主さんが足を後ろに引いたときに誤って踏んでしまったり、周囲を確認せずにドアを閉めてしまったりしたことが原因になることが多いです。
高所からの落下で折れやすい橈・尺骨
犬で圧倒的に多いのが、前足にある橈・尺骨(ひじと前足首をつなぐ骨)の骨折です。骨折の多くが、高所からの落下や飛び降りで起きるため、着地する前足が骨折しやすいのです。
交通事故で折れやすい背骨・大腿骨・骨盤
背骨や大腿骨、骨盤も骨折しやすい部位で、成犬の骨折で見られることが多いです。交通事故のような強い衝撃を受けたことが原因になります。
滑る、転倒による脱臼が多く、若い犬とシニア犬に目立つ
脱臼は、関節がはずれて骨が正常な位置からずれてしまっている状態のことです。犬では、股関節、肩関節、肘関節が脱臼しやすい部位です。フローリングのような床の上で足を滑らせたり、転んだりして、足が体の外側に向かって横滑りしたり、ひねったりしたときに起こりやすいようです。動きが活発な若い犬に多いですが、筋力が落ちて関節がゆるみやすいシニア犬にも起こりやすいです。
●脱臼しやすい犬種
トイ・プードル(股関節・肩関節脱臼)/ポメラニアン(股関節脱臼)/柴(股関節脱臼)/小型犬(肘関節脱臼)など
転倒や滑って脱臼しやすい股関節
滑りやすい床で転んだ際に脱臼することがあります。また、屋外でボールを思いっきり追いかけたり、ドッグランで全速力で走ったりしているときに転倒し、股関節に強い力が加わると脱臼することもあります。
足を横滑りさせて脱臼しやすい肩関節・肘関節
ソファや机などの高所から飛び降りて着地した床が、フローリングのように滑りやすいと脱臼のリスクがアップ。着地した際、前足が滑って外に開き、脱臼してしまうのです。
犬の骨折・脱臼は、日常のよくあるシーンで発生しやすいからこそ、起こりやすい場面や部位を知っておきましょう。
お話を伺った先生/日本大学動物病院院長。枝村一弥先生
参考/「いぬのきもち」2024年9月号『犬の骨折と脱臼』
文/伊藤亜希子