犬の平均寿命は延びつつあり、なかには20才というご長寿犬も。そのぶん症例が目立ってきている病気もあるといいます。そこで日々多くの犬を診ている獣医師の松木薗麻里子先生と酒巻江里先生に、近年目につく病気について伺いました。今回は現在の生活様式、飼い主さんのライフスタイルや意識の変化といった「今どきの環境が影響して増えた病気」をご紹介します。
【アトピー性皮膚炎】きれいすぎる生活環境などが影響して症例数が増加
近年は昔に比べて衛生環境がよくなりすぎて、子犬期に細菌などへ感染する機会が減少。すると免疫機能が充分発達せず、結果としてアレルギー疾患が増えたといわれています。それに比例して、アレルギー性皮膚炎の一種であるアトピー性皮膚炎も増加。完治が難しい病気なので、症例数がより目立つと考えられます。
アレルゲンを避けて保湿を徹底。近年はステロイド以外の薬も
遺伝的な素因もあるため予防は難しいです。発症後はアレルギーを起こす物質(アレルゲン)との接触を避け、薬用シャンプーと保湿を心がけたスキンケアで皮膚のバリア機能を高めます。現在はステロイド以外のかゆみ止めも出てきました。
【誤飲・誤食】コロナ禍前と同様に飼い主さん不在の時間が増え、誤飲するケースが増加
勤務スタイルがコロナ禍前の状態に戻って、今は愛犬を留守番させて出勤する飼い主さんが増加。それに伴い留守番中の誤飲・誤食が増えたよう。なかには留守番カメラで誤飲・誤食を発見し、仕事を切り上げてあわてて受診しに来るケースも。また、スマホを見ながらの散歩が多いのか、散歩中の誤飲も多いそうです。
口にされたくないものは犬から絶対に見えない・届かない場所へ
犬から見えるところ、届くところに危険なものを置かないのは大前提で、引き出しや扉はチャイルドロックをつけるなど、イタズラ対策の徹底を。万が一何かを飲んだら、自分でなんとかしようとせず、すぐに獣医師の指示をあおいで!
【尿石症】室内トイレ派が増えてオシッコの異変に気づきやすくなった
尿石症はオシッコの中に結晶ができる病気で、排尿と同時に結晶が出てきてキラキラ光って見えることが。室内での排泄が根づいた今、「トイレシーツについたオシッコがキラキラしている」と結晶に気づいて受診するケースが増えたそう。
散歩でのどを渇かせるなどして水をたっぷり飲ませる習慣を!
尿量が減ると結石ができやすくなるので、水を飲ませてオシッコを出すことが大切。最近は温度管理された室内で一日中過ごして飲水量が足りない犬が多いので、しっかり散歩するなどの工夫を。治療は食事療法のほか結石を取る手術も。
【歯の破折】口内ケアの際に歯の異変に気づく人が増加
歯が折れる破折は、ひどいと歯の中心の歯髄が露出して、痛みを伴ったり、感染症を起こすことが。今どきの飼い主さんは愛犬のオーラルケアへの意識が高く、口内チェックが習慣になったため、見えにくい奥歯の破折にも気づけるようになったのでしょう。
犬用の市販品でもかたいものは与えない
牛の蹄や、かたすぎるデンタルケアグッズは与えないで。噛ませるなら、ゴム製おもちゃや、なめてやわらかくなるおやつに。与える際も与えっぱなしではなく、ほどよいところでおしまいにする習慣を。治療は、折れた部分に充填材を施すことも。
【膵炎】専用薬が普及し、胃腸炎とは区別して診断・治療されるように
膵炎は、消化酵素を分泌する膵臓に炎症が起きる病気で、胃腸炎と同様に食欲不振や嘔吐、下痢などの症状が出ます。ここ数年、膵炎用の治療薬が登場し、検査技術も向上したことで、膵炎を胃腸炎と区別して診断、治療することが増えました。
脂肪分の多い食べ物は避けるのが鉄則
原因がよくわからないことも多いですが、脂肪分の多い食べ物を食べて発症することもあるので注意。発症してしまったら、専用薬や吐き気止めなどで内科治療を行いつつ、低脂肪食に切り替えます。
今どきの環境が影響して増えた病気をご紹介しました。飼い主さんが意識することで予防できるケースが多いので、ぜひ役立ててくださいね。
お話を伺った先生/フジタ動物病院医長・獣医師。松木薗麻里子先生 同獣医師・酒巻江里先生
参考/「いぬのきもち」2024年11月号『今、気をつけたい犬の病気12』
イラスト/セツサチアキ
文/いぬのきもち編集室