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“カイチュウ博士”藤田教授に聞いてみた(Vol.1)【穴澤賢の犬のはなし】

かつて自分のおなかでサナダムシに「キヨミちゃん」という名前をつけて「飼って」いた経歴もある藤田紘一郎さんは“カイチュウ博士”として有名ですが、実は寄生虫だけでなく、免疫学の権威でもあります。

昔から藤田教授のファンだった私は『富士丸モフモフ健康相談室(実業之日本社)』という共著の中で、動物と人間の共存について色々なことを教えてもらったことがあります。今回は久々に藤田教授を訪ねて、また色々質問してきました。
藤田紘一郎(フジタ・コウイチロウ)
1939年、中国・旧満州生まれ。東京医科歯科大学医学部卒、東京大学医学系大学院修了。医学博士。東京医科歯科大学名誉教授。人間総合科学大学人間科学部教授。NPO自然免疫健康研究会理事長。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。『原始人健康学』『水の健康学』『パラサイト式血液型診断』(新潮社)、『笑うカイチュウ』(講談社文庫)、『免疫力を高める快腸生活』(中経の文庫)、『アレルギーの9割は腸で治る!』(だいわ文庫)など著書多数。

第1回 ウンチは働き者たちの証

腸内細菌は人によって違う

穴澤:お久しぶりです。7、8年ぶりくらいでしょうか。いやー、お元気そうで何よりです。

藤田:80歳になったのに、相変わらず働いていますよ(笑)。穴澤君も元気そうだね。

穴澤:なんとかやってます。その節はインドネシアの出張に動向させてもらって、本当にありがとうございました。あれからインドネシア料理が大好きになりましたよ。

藤田:それは良かった(笑)。ものすごく喜んで食べていたものね。

穴澤:それと、今は大吉と福助という2頭のミックス犬と暮らしているんですよ。富士丸と同じく「いつでも里親募集中」というサイトで出会ったんですが。

藤田:ほぅ、また犬と暮らしているんですね。
穴澤:今日は、腸内環境や免疫やアレルギーことなどについて、藤田教授に改めて教えてもらおうと思いまして。

藤田:はいはい、なんでも聞いてください。
穴澤:免疫力って、腸内環境が7割、メンタルが3割と言われているじゃないですか。それって、犬も同じなんですかね?

藤田:だいたい同じだと思いますよ。腸内細菌の種類は違いますけど。

穴澤:種類は違うと思うんですが、犬の腸内にいると善玉菌なんだけど、それがヒトに入ったら悪玉菌になる、ということはないですよね。

藤田:それはないですね。そもそも住める腸内細菌って、種によってはもちろん、個体差もあるんですよ。だから、犬の腸内細菌がヒトに入って暮らせるなんてことはまずないし、もっといえば穴澤君の腸内細菌が私に入って住めるとも限らないんです。
穴澤:そうなんですか?

藤田:ヒトの場合、その人の腸に住める腸内細菌の種類は決まっていているんです。

穴澤:それは人それぞれ違うと?

藤田:違います。たとえば乳酸菌にも色々あって、動物性の乳酸菌もあれば植物性の乳酸菌もあるわけです。モンゴルで生まれ育った人は、ヨーグルトとかチーズをよく食べるから動物性の乳酸菌。対して、味噌、漬物、醤油が多い日本人は植物性の乳酸菌が多いというように。

穴澤:定着できない菌はどうなるんですか?

藤田:ウンチと一緒に排出されます。だから、生きて腸まで届く乳酸菌とかよく聞きますが、生きて届いたところで住めるとは限らない(笑)

腸内細菌は1歳半で決定する

穴澤:ものすごく種類の多い菌の中で、僕の腸に住めるやつは限られているということなんですね。

藤田:菌の種類はものすごく多いんですが、門でいうと5つ(※)くらいしかないです。

※門とは生物を分類するグループ枠のこと。菌の場合、一つの「門」の中に多様な細菌がいることになる。ここで挙げている5つとは、フィルミクテス門・アクチノバクテリア門・プロテオバクテロイテス門・バクテロイテス門を指す

穴澤:それはいつ決まるんですか?

藤田:だいたい1歳半で決まります。なぜ1歳半かはわかっていないんですが、調査によるとそうなんですよ。それまでの期間にどれだけ多く菌に接するかで変わります。

穴澤:というと?

藤田:赤ちゃんって、なんでも口に入れたがるじゃないですか。そうやってたくさんの菌と接することで腸内細菌の種類や量が変わってくるんです。
穴澤:あれって、意味のある行動なんですか。

藤田:あるんです。生まれてすぐの赤ちゃんの腸内環境はそれぞれ違うんですが、悪い場合でもいい場合でも生後3カ月ほどでだいたい同じになる、リカバリー期間があることがわかっています。

穴澤:なぜなんですか?

藤田:それがわからない。でもその後の育て方で、清潔な部屋でなんでも除菌して育てた方が腸内細菌は少くて、なんでも舐めるのを自由にさせた赤ちゃんの方が腸内細菌は多くなるんです。それで1歳半くらいで住める菌と住めない菌が決定するようです。

穴澤:それはもう変わらないんですね。

藤田:変わりません、種類はね。全体の量は増えたり減ったりしますが。

穴澤:それは何が決めているんですか? 腸内細菌って、ようは部外者ですよね?なのに共存しているということは、免疫系が「君はいてもいいよ」と判断しているんですかね。

藤田:菌を選別しているのはIgA抗体だと思うんですが、詳しいことはわかっていないんですよ。

ウンチの意外な正体

穴澤:よく善玉菌、悪玉菌といいますが、そんな両極端に分かれているわけではなく、だいたいはどちらでもない日和見菌(ひよりみきん)なんですよね。

藤田:そうですよ。だいたい善玉菌も1割、悪玉菌も1割くらいで、あとは日和見菌です。

穴澤:それで善玉菌と悪玉菌のどちらかが優勢になると、日和見菌たちが優勢な方へ傾くという。

藤田:そうそう、日和見菌が善玉菌側に傾いた状態が「良い腸内フローラ」です。それに善玉菌をいくら増やそうとしても、2割以上には増えないんです。反対に悪玉菌を増やそうしても同じように2割以上には増えない。これも、なぜかわからない。

穴澤:えぇ、そうなんですか。

藤田:腸内細菌の全体量が上がったり下がったりはしますよ。でも腸内細菌とか免疫系は、まだまだわからないことが多いんですよ。

穴澤:とにかく、免疫力を高めるには善玉菌を優位にしつつ、日和見菌を増やす。

藤田:そうです。腸内細菌は腸粘膜と共に免疫を作っているんです。そして、腸内細菌も腸粘膜も1日で死んじゃう。

穴澤:1日で?

藤田:免疫を作っているのは小腸なんですね。免疫だけじゃなくて、ホルモンやビタミン、幸せ物質なんかも作っているんです。それは小腸粘膜と腸内細菌の共同作業なんです。そして、大腸には腸内細菌がいっぱいいて、待機しているんです。

穴澤:そいつらが小腸に逆流するんですか。

藤田:腸内細菌はほとんど大腸にいるんですよ、100兆個くらい。小腸にいるのは1万個くらいで少ないんです。その彼らが小腸との共同作業で、免疫を作ったりする大事な工場なんです。それで小腸で働いた腸内細菌は1日で死んじゃうんです。その死骸が、ウンチです。

穴澤:えぇ!
藤田:ウンチの半分が死んだ腸内細菌、残りの半分が死んだ小腸粘膜です。小腸粘膜はそうやって絶えず死んで新しくなってるわけです。

穴澤:そんなに絶えず入れ替わっていたとは。

藤田:だから大腸ガンはあるのに、小腸ガンはないでしょう?

穴澤:大腸の粘膜は長く生きるからガンにもなるということなんですね。知らなかった。でもウンチには食べ物も含まれますよね?

藤田:それは5%くらいです。

穴澤:あとは吸収されているんですか?

藤田:えぇ、ほとんどは。食物そのものがウンチに混ざってることがありますが、あれは分解、吸収できなかった、ということなんです。

穴澤:それはヒトも犬も同じなんですか?

藤田:基本的には同じですよ。だから立派なウンチが出たら、それは腸内細菌と小腸粘膜が働いてくれた証なんです。ヒトの場合、死骸になった彼らが働いて免疫を作って、ビタミンBを作って、幸せ物質のドーパミンやセロトニンができるわけですよ。
(つづく)
※次回は「若さと体型は腸内細菌で変わる?」



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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