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「認知症の犬」に見られる主な症状5つ なりやすい犬種や年齢、治療・予防法について獣医師が解説
動物医療の進歩など、犬の高齢化が進み、認知症を患う犬が増えてきています。飼い主さんは「愛犬もいずれ認知症になるかもしれない」と思って、今からでも知識を深めておくとよいと思います。
この記事では、犬の認知症とはどういうものなのかについて、いぬのきもち獣医師相談室の先生が解説します。
犬の認知症の予兆とは?
——犬の認知症は、どのような予兆が見られるのでしょうか?
いぬのきもち獣医師相談室の獣医師(以下、獣医師):
「愛犬が認知症になった飼い主さんの体験談を伺うと、下記のような行動が見られるようです。
どれも『いつも』『毎日』ではなく、『時々』『その日だけ』だったといい、当時は『あれ、おかしいな? でも年のせいかな』と感じて過ごしている飼い主さんがほとんどです。
後に、動物病院で犬が認知症と診断されてから 、『今思えばあの行動が予兆だったのかもしれない』と思い出す程度のようです」
——認知症に気づくことは、簡単なことではないのですね。
獣医師:
「認知症の症状が進行すると判断できるのですが、初期症状はささいなものです。異変が見られても、その後はふだんどおりの様子に戻ることが多く、飼い主さんが気づかないこともあります。過去のちょっとした違和感が、じつは予兆だったということが多いようです」
認知症の犬に見られる症状
——犬が認知症になると、具体的にどのような症状が出てくるのでしょうか?
獣医師:
「ここでは認知症の犬に見られる主な症状をいくつか取り上げます」
①見当識障害
獣医師:
「慣れている場所で迷子になったり、知っているはずの人を認識できなかったり、障害物を避けられないなどの見当識障害が見られます」
②飼い主さんに対する認識や関係性の変化
獣医師:
「撫でられたり遊ぶことに興味がなくなったり、コマンドへの反応性が低下するなど、飼い主さんに対する認識や関係性の変化が出てきます」
③睡眠・覚醒時間の変化
獣医師:
「日中の睡眠が増えて夜間に起きているようになったり、長時間起きているかと思えば逆に長時間寝るなど、睡眠・覚醒時間の変化が見られます」
④排泄の変化
獣医師:
「トイレ以外の場所で排泄するようになったり、失禁してしまうなど、排泄の変化が見られます」
⑤活動性の変化
獣医師:
「単調に鳴き続けたり、夜鳴きをしたり、グルグルと同じ方向に回り続けたり、隙間にはさまっても後退できず出られなかったりなどの行動や、食欲の増加・減退など活動性の変化が見られます」
——さまざまな症状が見られるのですね。
獣医師:
「主な症状を挙げましたが、これらすべてが認知症を診断するために必要な症状ではありません。症状は一貫性があるとはされておらず、個体差が見られます」
認知症になりやすい犬の傾向
——認知症になりやすい犬に特徴はありますか?
獣医師:
「国内の調査では、認知症の83%が日本犬(日本犬系雑種、柴犬、日本犬を含む)とされていますが、どの犬種でも発生するといわれています。日本犬は、症状が強く出やすい傾向があります」
——何才くらいから、認知症になりやすいのでしょうか?
獣医師:
「アメリカの調査によると、11~12才の犬の28%、15~16才の犬の68%に何らかの症状が認められています。国内の調査では11才から発症し、13才から急増するとの報告があります」
犬の認知症の治療について
——犬が認知症になったときの治療法には、どのようなものがありますか?
獣医師:
「人の認知症と同様に、残念ながら犬の認知症も根本的な治療法はありません。症状は徐々に進行する傾向のある病気です。そのため、早期発見・早期治療が症状の進行を抑える重要なポイントとなります」
——具体的に、どのようなことで進行を抑えていくのでしょうか?
獣医師:
「認知症の治療や予防策としては、抗酸化物質を含む食事やサプリメントや、犬の不安を軽減したり睡眠リズムを戻すためのサプリメント、鎮静薬や抗不安薬などがあります。
いずれも効果には個体差があるので、どの治療が愛犬に合うか見つかるまでに時間がかかることもあります。認知症の初期症状や治療開始時は食事やサプリメントから始めることが多く、これらで症状がしばらく落ち着くコもいます」
——夜鳴きで悩む飼い主さんもいると聞きますが、なにか対処法などはあるのでしょうか?
獣医師:
「犬の夜鳴きが始まると睡眠導入剤を希望する飼い主さんもいらっしゃいますが、数時間しか効果がないことや、いずれ効かなくなることもあります。
また、寝たきりを早めてしまい認知症が進むこともありますので、かかりつけの獣医師とよく相談して決めたほうがよいでしょう。
認知症の治療の目的は、治すことではなく症状の進行をできる限り遅らせること、犬と飼い主さんが残された時間を幸せに過ごせるように生活の質や関係性を維持することです。ぜひ、かかりつけの獣医師と相談してみてください」
犬の認知症の予防について
——犬の認知症を予防するために、飼い主さんが日頃からできることはありますか?
獣医師:
「たとえば、毎日同じ時間に同じごはん、同じ散歩道、昼寝し放題などの単調な生活は、認知症になるリスクがあると考えられます。
たまには散歩道を変えてみたり、足ツボのつもりで砂利道を歩いてみたり、他の犬や人との触れ合いの機会を設けてみたり、飼い主さんとゲームをして遊んでみたりなどして、刺激のある生活を取り入れるとよいでしょう」
——サプリメントなどの取り入れはどのように考えればよいでしょうか?
獣医師:
「日本犬系は7才頃から、他の犬種でも10才頃から、抗酸化物質の含まれた食事やサプリメントを始めることをおすすめしています。脳によいとされるDHAやEPAの効果も期待できるようです」
愛犬のささいな変化にも気づけるようにしよう
——犬の認知症について、飼い主さんが覚えておくとよいことはなんでしょうか?
獣医師:
「飼い主さんに犬の認知症の知識があると、小さな変化にも気づきやすく、早めに対処や治療が始められます。獣医師も、診察の短い時間で認知症と判断することは容易ではありません。
一緒に暮らしている飼い主さんが、小さくても犬の異変のサインに気づくこと、そしてその情報の積み重ねがあると、とても心強いです。獣医師にとっても、認知症か他の病気なのかを診断する大切な判断材料となります」
——飼い主さんも、犬の認知症について理解が深められるとよいですね。
獣医師:
「飼い主さん向けに犬の認知症や介護に関するセミナーもありますし、ブログもたくさんあります。他の飼い主さんから体験談を聞くことも勉強になると思います」
愛犬が認知症になったとき、ひとりで抱え込まないように
——犬の認知症では、介護する飼い主さんの負担も大きいと聞きます。
獣医師:
「そうですね。犬の認知症では、とくに夜鳴きが始まるとご家族の心身に負担がかかることもあります。実際に近所からの苦情が不安で引きこもってしまう方や、犬の安楽死を考える方もいらっしゃいます」
——夜鳴きの対策は何かできないのでしょうか?
獣医師:
「最近は犬の認知症も広く認識され、サポートしてくれる施設やグッズも増えてきました。飼い主さんが疲れてしまう前に、動物病院やペットホテル、ペットシッター、デイケアサービスなどをうまく利用してほしいと思います。
夜鳴きが原因で近所迷惑が心配なようであれば、一言ごあいさつをしておくとトラブルを避けることもできます」
——愛犬の介護は大変ですが、飼い主さんもひとりで悩まないでほしいですね。
獣医師:
「そうですね。いずれ愛犬とのお別れのときはきますが、最後の認知症の時期が大変すぎて、愛犬の元気だった頃の楽しかった思い出が薄れてしまうことは、寂しいものです。ひとりで抱え込まず、周りに相談しながら介護と向き合っていけることを願っています」
(監修:いぬのきもち・ねこのきもち獣医師相談室 担当獣医師)
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
取材・文/sorami
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