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空気を読む犬の能力【穴澤賢の犬のはなし】

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。

その場に漂う雰囲気をぶち壊したりせず、そこに合わせた態度をすることを「空気を読む」というが、かねてから犬はこの能力が高いと感じる。子犬時代はどんなときでも遊んり騒いだり、オレがオレがアピールがすごいが、成長するに従って次第に周囲を観察して、なんとなくその場の雰囲気を察するようになる。

犬は急激に精神年齢が大人になる

それは人間も似たようなものだが、犬はその成長スピード異常に早い。人間だと19、20歳なんて周囲なんか関係なく騒ぐし、少しは大人になったかなと思うのが30代後半だったりする(私の場合)。
それに対して、どんなワチャワチャした犬でもだいたい3才くらいで落ち着き始め、5才を過ぎる頃にはおバカなことは一切しなくなり、7才くらいでどこか達観したような表情を見せることがある。単純に寿命と関係しているのかもしれないが、それにしても短い学習期間でよくそんな風になれると思う。
先代犬の富士丸もそうだった。幼い頃は留守番時の破壊活動に悩まされたが、3才くらいで自然に収まり、5才を過ぎた頃には二日酔いで苦しむ私を見る目に、完全に精神年齢で追い抜かれたと実感したものだ。
大吉と福助も、やっぱりそうだ。福助に関しては9才になる今も「大人っぽさ」はまったくないが、空気は読めるし、手を焼かされることは一切ない。幼い頃から優等生タイプだった大吉は、もう何も言わなくてもだいたい伝わるし、状況から先を読んだりもする。
たとえば、出掛けるなんてひとことも言ってないのに、私が出掛ける支度をしていると、「どっか行くの?」と期待した顔で見てきたりする。すごいと思うのは、大吉は私がひとりで出掛けるときと、自分たちも一緒に出掛けるのかどうかが分かっているようなのだ。
その証拠に私が1人で出掛けるときは、全然反応しない。けれど、一緒に出掛けるときは「もしかして」という目で見てくる(福助は大吉の反応を見て気付く)。そして、だいたい正解なのだ。私は1人でも犬連れでも服装はだいたい同じだし、荷物だってほとんど変わらない。散歩用のバッグを持ったりしたらさすがに分かると思うが、もっと前の段階から、察するのだ。どこで判断しているのか謎すぎる。
ほかにも、何気ない日常でもこんなことがある。私が晩酌しているとき大福はずっと隣で寝ているが、そろそろオシッコでもさせに外に出ようか、と思うとムクッと起きて「行く?」という顔をするのだ。何も言ってないのに。寝ていたのに、いったい何を感じ取っているのだろう。

犬と長年暮らすと分かる空気を読む力

こういうことは、犬と長年暮らしている人なら感じることがあるのではないだろうか。犬は空気や雰囲気、ときには人の心情さえ読める能力があるのではなかと思う。特に空気を読むということについては、人間よりも能力が高い気がする。
状況から判断して先を読む力すらある大吉だが、まだまだ甘いなと思うこともある。先を読む範囲がごく狭く、すぐ後にやってくる近い将来しか予測できないらしい。
8月末頃に、山へ完全移住することにしてバタバタ荷物を整理し始めて家中がえらいことになっているが、まだ何も気が付いていないようだ。
思うに、彼らが移住したことに気がつくのは、八ヶ岳の山の家から鎌倉市腰越の自宅に帰らなくなってしばらく経った頃だろう。「もうずっとこっちで暮らすんだよ。お前らもその方いいだろう」と言ったときの、大吉と福助がどんなリアクションするのか楽しみだ。



プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

ブログ「Another Days」
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大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。
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