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【獣医師監修】犬の白内障 2021年治療体験談や目薬について解説
犬は「白内障(はくないしょう)」という目の病気にかかることがあるので注意が必要です。今回は、犬の白内障の症状や飼い主さんの体験談、原因、治療法(検査・通院頻度・治療費含む)、注意したい合併症、予防法について解説します。

石田 陽子 先生
石田ようこ犬と猫の歯科クリニック院長
麻布大学獣医学部獣医学科卒業
●経歴:ぬのかわ犬猫病院本院副院長/ぬのかわ犬猫病院中田分院院長 など
●資格:獣医師
●所属:日本小動物歯科研究会/比較歯科学研究会/日本獣医動物行動研究会
愛犬が白内障かも? 初期症状と飼い主さんの体験談
犬の白内障ってどんな病気? 初期症状とは?
白内障とは、本来透明であるはずの水晶体の一部または全体が白く濁り、徐々に視覚が失われていく目の病気です。初期のごく軽度の白内障では、レンズの部分がうっすらと濁ったように見えたり、小さな白っぽい点ができたりしますが、症状が進行するとだんだんレンズの色が真っ白になってきます。初期段階では犬の視覚にもほとんど影響がないので、飼い主さんが異変に気づけるケースは少ないでしょう。
飼い主さんが愛犬の白内障に気づいたきっかけ
では、飼い主さんは一体どうやって愛犬の白内障に気がつくのでしょうか? いぬのきもちでは、犬の白内障に関するアンケート調査(※)を実施し、愛犬の白内障に気づいたときの年齢やきっかけ、そのときの症状などについてお話をうかがいました。
※2021年5月実施「いぬのきもちアプリ」内アンケート調査(回答者数 176人)
白内障に気づいたときの愛犬の年齢は?

愛犬の白内障に気づいたきっかけ・そのときの症状とは?
白内障は、飼い主さんがおかしいと気がついて動物病院に相談することで発覚するほか、診察時に獣医師が気がついて説明されることが多いです。
- 「目が白くなってきたなあと思ってはいましたが、物にぶつかったり、おやつを渡しても気がつかなかったりしたことがあったので受診したところ、白内障と診断されました」
- 「何となく目が白くなっていたようなので、病院に行ったときに見てもらった」
- 「昨年から、毎年行っているアニマルドックに目の検査も追加して受けていたら、今年初期の白内障が見つかった。すごく初期とのことで症状はなく、経過を見ることになった」
- 「ほかの症状で病院に行ったときに、獣医師から目の状態から白内障だと言われた。少し白くなっている状態だった」
- 「家の中を歩いていて、イスの脚やテーブルの脚にぶつかることが増えた」など
白内障になりやすい犬種もいる? 白内障の主な原因とは
では、どうして犬は白内障になるのでしょうか? 犬の白内障の原因は大きく分けて2つあります。
原因(1)先天性白内障(遺伝性)
遺伝が原因で産まれたときから水晶体に濁りがあり、視力が著しく低いなどの症状が見られます。また、6才未満の若いときに白内障を発症する場合は、「若年性白内障」と呼ばれ、早い犬だと生後数カ月で発症するケースも。この場合も遺伝が原因と考えられています。
原因(2)後天性白内障(続発性)
遺伝以外のことが原因で発症する白内障のことです。
例えば、加齢が原因で発症する「老齢性白内障」や、糖尿病などの代謝性の病気が原因となる「代謝性白内障」、ケガなどで起こる「外傷性白内障」、ぶどう膜炎のようなほかの目の病気が原因で発症する「続発性白内障」などが、これに当てはまります。
白内障になりやすい犬種とは
遺伝的に白内障にかかりやすい犬種もいます。以下のような犬種は白内障にかかりやすいとされているので、該当する犬種を飼っている場合は、愛犬の様子をよくチェックしておくといいでしょう。
- トイ・プードル
- 柴
- アメリカン・コッカー・スパニエル
- シー・ズー
- グレート・デーン
- ミニチュア・ダックスフンド
- オーストラリアン・シェパード など
犬の白内障の検査・治療方法とは?
犬の白内障では、どのような検査・治療を行うのでしょうか?
どんな検査をするの?
動物病院で白内障の治療を行うときは、どのくらい見えているのかをチェックするための「視覚検査」や、水晶体の混濁の程度を調べるための「細隙灯(さいげきとう)検査」など、さまざまな検査を行います。ほかにも、白内障以外の病気にかかっていないかどうかを検査するため、眼圧検査、眼底検査や超音波検査をすることもあります。
治療法は大きく分けて2つ
内科的治療(目薬・内服薬)
内科的治療は、目薬や内服薬を用いて行います。白内障の治療に使う目薬として一般的に処方されるのは、ピレノキシン製剤(ライトクリーン・カリーユニ・カタリン)ですが、「白内障を治す」効果は期待できず、主に「進行を抑える」ことを目的に処方されます。
また、最近ではNアセテルカルノシン(シーナック・キャンシー・ドッグクララスティル)の目薬が、水晶体内の酸化を抑制するとして使用されることも。しかし今のところ、目薬や内服薬だけで白内障を完治させることは不可能と考えられています。
※Nアセテルカルノシンを含む目薬はピレノキシン系の目薬との併用は禁止となっています。
外科的治療(手術)
白内障の外科的治療では、濁った水晶体を超音波の振動で細かく砕いて取り除き、水晶体の代わりに人工レンズを挿入する手術を行います。
今のところ、白内障を完治させるには手術が有効な手段とされていますが、100%完治するわけではありません。また、術後に合併症を発症するリスクも否定できず、白内障の進行度合いや犬の年齢などによっては、手術を行うのが難しい場合も。
さらに、術後の管理(頻回の点眼、投薬、エリザベスカラーの装着、合併症の治療)が大変なため、犬の性格や飼い主さんの管理能力などを総合的に判断して、手術を行うか決定する必要があります。
なお、初期の白内障の場合は手術ではなく、定期的な検査と診察を行い、目薬を使って症状の進行を緩やかにする治療を行うのが一般的です。しかし、若年性の白内障では、症状の進行が早いケースも見られるため、手術を急ぐ場合もあるでしょう。
通院頻度や治療費はどのくらい?
手術を行う場合は、3~4日の入院後、投薬と点眼治療を行い、術後の状態や合併症の有無によって、1~2週間間隔で定期的な検査や診察を行います(1~2カ月程度)。
一方、手術をしない場合は、十分な効果が期待できなくても目薬などで少しでも進行を遅らせる治療を行うため、目の状態にもよりますが、2~3カ月に1回程度の通院が必要となるでしょう。
白内障の手術は、片目で20万~40万円程度の治療費がかかるほか、術前の眼科の精密検査、術後の通院、投薬、合併症がある場合はその治療などの費用が別途必要になります。両目の手術の場合は、50万円以上の治療費がかかるケースも少なくないでしょう。
飼い主さんに聞いた! 愛犬の白内障の治療体験談
冒頭でご紹介したアンケートでは、愛犬の白内障の治療法についても飼い主さんにお話をうかがいました。
愛犬の白内障についてどのような治療を行っている、または行っていましたか?

アンケート結果を見ると、全体の57%の飼い主さんが「目薬や内服薬などを用いた内科的治療」を行っていることがわかりました。なお、飼い主さんからは治療法を決めた理由について、以下のような回答がよせられています。
「目薬や内服薬などを用いた内科的治療」と回答した飼い主さん
- 「少しでも悪くなるのを遅らせたいと思いました」
- 「白内障が進行して、目が見えなくなったら可哀想だと考えたから」
- 「左目は見えていないが、右目が進行中。進行を遅らせる目薬を使っている。炎症が出てきたら目薬を追加予定です」
「治療は受けていない」と回答した飼い主さん
- 「目薬を嫌がって、さすことができないため諦めた」
- 「すごく初期で症状もまだなく、治療は必要なしと判断された。定期的に目の検査をして経過を見ることに」
- 「もう17才なので、治療が身体ともに負担になると考えている」
「外科手術」と回答した飼い主さん
- 「2才で発症。食べるよりフリスビーやボール遊びが好きだった。若かったので決めました」
- 「若年性のため進行が早かったので手術を受けた」
ちなみに、「その他」と回答した飼い主さんからは、「サプリメントを与えている」といった回答が多数よせられました。
アンケート結果からもわかるように、白内障の治療は飼い主さんが獣医師と相談し、愛犬の症状や年齢、点眼が可能かどうか、生活環境などから考えていくことが多いので、正解は一つではありません。目の状態が変化すれば、また選択肢を変えていく、というように考えるとよいでしょう。
犬の白内障が進行すると?
犬の白内障は進行度合いによって、以下の4つのステージに分類されます。
ステージ1「初発白内障」
水晶体が少し濁った状態。最初にもお話ししたとおり、この段階では犬の視覚にもほとんど影響がないので、飼い主さんが異常に気づけるケースは少ないです。
ステージ2「未熟白内障」
水晶体の濁りが少しずつ広がってきた状態。視覚障害は軽度なので、日常生活にはそれほど支障がありません。
ステージ3「成熟白内障」
水晶体全体が白く濁った状態。この段階になると、多くの飼い主さんが愛犬の目の異常に気づくでしょう。視覚がほとんど失われている状態のため、物にぶつかったり、薄暗い場所の散歩を嫌がったりするなどの症状が見られます。
ステージ4「過熟白内障」
水晶体のたんぱく質が溶け出し、多くの場合、目の中で炎症を起こしています。この段階になると目はほぼ見えていない、ちょっとした物音にも驚くようになるなど、性格にも変化が見られることが。また、合併症を発症する可能性もあるため、大変危険な状態です。
進行すると合併症を引き起こすおそれも
先述のとおり、犬は白内障になると視覚機能に影響が出るだけではなく、進行すると「ぶどう膜炎」や「緑内障」「網膜剥離」といった合併症を引き起こすことがあります。どれも危険な目の病気ですので、注意が必要です。
ぶどう膜炎
白目の部分が真っ赤に充血し、痛みのために目をショボショボさせたり、まぶたを震わせたりするようなしぐさが見られます。網膜まで炎症が広がると、視覚機能が低下し失明することも。
緑内障
眼圧がかなり高くなると結膜が充血し、角膜が白く濁って見えるほか、目そのものも膨らむため、いつもより目が大きく飛び出したように見えることがあります。また、頭痛で嘔吐や食欲の低下の症状が見られることもあるでしょう。眼圧が高いまま放置すると失明します。
網膜剥離
よく物にぶつかる、鼻で探りながら歩く、無表情になるなどの視覚障害の兆候が見られます。網膜剥離は早期に治療をすれば視力の回復が望める場合もありますが、白内障などの病気が原因の場合や、片目だけの網膜剥離では症状に気づきにくく、回復せずに失明するケースも少なくありません。
犬の目の病気については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
犬の白内障はサプリメント・食べ物などで予防できる?
犬の白内障の予防法は確立されていません。
しかし、糖尿病が原因で発症する白内障の場合は、高血糖が水晶体を白濁させ、血管や神経が劣化することで進行するというデータがあります。このことから、抗酸化作用や免疫力を高める作用のある食べ物・サプリメントなどで、白内障の予防が期待できるかもしれません。
なお、抗酸化作用や免疫力を高める作用のある成分としては、ビタミンE、ルテイン、プロポリス、アガリクス、β-カロテン、ビタミンCなどが挙げられ、これらの製剤が「白内障予防サプリメント」として発売されています。
そのほか、目に刺激を与えないよう、強い紫外線の下に長時間いさせない、ケガを誘発するような接触トラブルを回避するということも、白内障の予防には大切なことです。
犬の白内障は早期発見が大切! 気になる症状が見られたら動物病院へ
犬の白内障は驚くべきスピードで進行するタイプもあり、短期間で失明に至ることもあります。特に好発犬種や若いのに目に異変が見られたら注意が必要です。予防法が確立されていない以上、白内障の一番の対策は、早期発見しかありませんので、こまめに愛犬の様子や目の濁りをチェックし、必要があれば動物病院で検査するようにしましょう。
監修/石田陽子先生(石田ようこ犬と猫の歯科クリニック院長)
文/ハセベサチコ
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
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