元気だとばかり思っている愛犬がじつは体の見えない部分に痛みを抱えていたら……。そんな犬の〝隠れ痛み〞の正体と症状の見抜き方について、獣医師の枝村一弥先生に解説していただきました。
犬の〝隠れ痛み〞に気づき対処してあげるのは飼い主さんの役目
イラスト/haradaRica
犬も、病気やケガをすると人と同じように痛みを感じます。しかし犬は痛いところがあっても言葉で伝えることができません。さらに野生のころから備わっている敵に襲われないための防衛本能で、痛みや不調を隠そうとすることも、私たちが犬の痛みに気づきにくい原因となっています。
ぱっと見ではわからない犬の隠れた痛みを見抜くには、毎日をともに過ごす飼い主さんの観察が何よりも大切。病気の早期発見につながる痛みについて知っておきましょう。
犬の痛みは“急性痛”と“慢性痛”の2種類
軽度から重度まで痛みの程度はさまざまですが一般的に痛みは「急性痛」と「慢性痛」の2種類に分けられます。ケガや病気、手術などによる一時的な痛みで、治癒とともになくなる「急性痛」に対して、痛みが長期間続いているような場合は「慢性痛」として考えられています。また、異変に気づきやすいのが急性痛、一見ではわからない慢性痛といわれています。
【急性痛】治癒とともに消える一時的な痛み
傷や炎症といった、見てわかりやすい症状が出るほか、痛い部分を頻繁になめる、触ろうとすると吠えたり怒ったりするなど、犬の様子や反応から痛みを発見しやすいケースが多いです。
急性痛の原因としては以下が挙げられます。
●ケガなどの外傷
● 熱傷(やけど)
● 胃腸炎などの内科疾患
● 手術後 など
【慢性痛】長期間続く継続的な痛み
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関節、脊椎、神経といった、体の見えない部分で生じる疾患が原因となることが多い慢性痛。気づかないうちに発症し、受診することがないまま痛みが慢性化することも。
慢性痛の原因としては以下が挙げられます。
● 変形性関節症
● 変形性脊椎症
● 膝蓋骨脱臼
● 股関節形成不全 など
じつは多くの犬が隠れた〝慢性痛〞を抱えています
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犬全体の20〜25%、5頭に1頭近くが継続的な痛みを伴う関節炎を患っているという報告もあります。日本大学動物病院の調査では、来院した犬のうち、12才以上の犬の45%に変形性関節症または変形性脊椎症が見られたという調査結果が。じつは隠れた慢性痛を抱えている犬はとても多いのです。
慢性痛の元凶、関節炎を起こすおもな原因として以下が挙げられます。
●加齢
年をとると骨と骨をつなぐ関節部分の軟骨が徐々にすり減り、関節のこわばりや痛みといった症状が。10才を超えると加齢による関節炎が増加します。
●肥満
重い体重を支えなければならず、背骨や関節などに負担がかかります。年齢や犬種にかかわらず、肥満は関節炎のリスクを高めます。
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●過度な負担
運動不足は万病のもとですが、他方で、運動のしすぎ、ジャンプや段差による足腰への強い衝撃も関節を痛める原因に。
●ほかの病気
ケガや脱臼、関節の病気にかかっていると関節の軟骨に変化が起こり、関節炎を招いて、関節の機能が低下します。
愛犬に「いつもと違う」行動の変化が見られたら〝痛み〞を疑ってみましょう
とくに傷や炎症がある様子もないのに、愛犬の行動に変化が見られたら、慢性痛が隠れている可能性大。足を引きずるなど、動物病院でその症状が再現できない場合でも、愛犬の様子を動画で撮影あいておくとよいでしょう。動画があれば実際の様子がわかるので診察がスムーズになります。
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慢性痛を見抜く10のチェックポイント
実際に慢性痛をもつ犬の行動の調査研究や、飼い主さんへのアンケートをもとにした「慢性痛を見抜く10のチェックポイント」をもとに、愛犬の行動を観察してみましょう。わずかな症状かもしれませんが注意深く観察することが必要です。
ポイント1 散歩に行きたがらなくなった。散歩に行っても走らなくなり、ゆっくりと歩くようになった
とくにシニア犬がトボトボ歩いていても、足腰が衰えたからしかたないと思われがち。体のどこかが痛い、動かすのがつらいなど関節の病気が原因の痛みがあるのかもしれません。
ポイント2 階段や段差の上り下りを嫌がるようになったり、その際の動作がゆっくりになった
階段や段差を上り下りするには、犬の足腰、背中などに大きな負担がかかります。痛みがある部分をかばって動作がゆっくりになっている可能性があります。
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ポイント3 家の中や外であまり動かなくなった
歩けないほどではないけれど、動くたびにちょっと痛い、といった慢性痛の症状は犬にとってつらく感じるもの。しだいに動きたがらなくなったり、元気がなくなったりします。
ポイント4 高いところへの上り下りをしなくなった
ジャンプの動きや高低差のある場所への移動は、関節や骨にダイレクトに衝撃が伝わるため、慢性痛があると自然と避けるようになります。
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ポイント5 立ち上がるのがつらそうに見える
痛みがある部分を動かさない動作になります。立ち上がれない状態に気づくころにはかなり悪化していることも。
ポイント6 元気がなくなったように見える
ゴハンは食べていてもいつもに比べてなんとなく元気がない、また体の動きが悪いときはどこかに痛みを感じている可能性があります。
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ポイント7 飼い主やほかの犬と、またはおもちゃなどで遊ばなくなった
痛みがあると遊んだり体を動かすことに消極的になります。足腰の痛みから動くことがおっくうになり、そそうをしがちになるケースも。
ポイント8 尾を下げていることが多くなった
ピンと立っていたしっぽがダランと下がっているといった症状には、腰の病気に加え、坐骨神経痛の症状が疑われることがあります。
ポイント9 跛行(はこう)がある
痛みや違和感があると、足を引きずったり、ケンケンをしながら歩くように。痛みのある足を地面につけずに、上げたままの状態でいることも。
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ポイント10 寝ている時間が長くなった、もしくは短くなった
体に痛みがあると、夜の眠りが浅くなり、そのぶんを昼間の睡眠で補おうとするため、日中寝ている時間が長くなるといった傾向があります。
いかがでしたか? ぜひ、早めに動物病院で受診するためのヒントとして役立ててくださいね。
お話を伺った先生/獣医師。博士(獣医学)。小動物外科専門医。日本大学生物資源科学部獣医学科獣医外科学研究室教授 枝村一弥先生
参考/「いぬのきもち」2022年5月号『犬の“隠れ痛み”を見抜くヒント』
イラスト/HaradaRica
文/ヨシノキヨミ