犬も人と同じく癌(がん)にかかることがあります。かけがえのない愛犬をがんから守るためにも、がんの基礎知識を知っておくことが大切です。今回は、犬の腫瘍や癌についてご紹介します!
犬がなりやすい「がん」の種類とその症状について
肥満細胞腫
「肥満細胞腫」は、頭からしっぽまで、さらには体内にもできてしまう腫瘍です。腫瘍の形態は、イボ状から皮膚炎のようなものまで多岐にわたり、見た目だけでは判断ができません。3〜4才で発症するケースもあるため、若い年齢の犬も注意が必要な腫瘍です。
この病気にとくに注意したい犬種としては、ボストン・テリア、フレンチ・ブルドック、パグ、ジャック・ラッセル・テリア、ゴールデン・レトリーバーなどが挙げられます。悪性度があまり高くない腫瘍なら、外科手術で取りきれれば完治する可能性があります。ほかにもタイプが合った場合は、分子標的薬が使用できるケースもあります。
乳腺腫瘍
「乳腺腫瘍」には良性と悪性の両方があります。悪性腫瘍はいわゆる”乳がん”のことで、転移が早いタイプとそうでないタイプに分かれています。早い時期に避妊手術を行うことで発症率を下げることができることがわかっています。
症状としては乳房周辺にしこりが出ることが多いので、胸からお腹までよくさすって定期的に確認してあげることが大切です。また、メス犬だけでなくオス犬に発症する危険性もあり、未避妊のメス犬は特に注意が必要な病気です。
メラノーマ
「メラノーマ」は、爪の生え際や口内のほか、皮膚や目の中にまでできることのある腫瘍です。悪性度が高く、転移が早いためとても厄介。爪の生え際に腫瘍ができた場合は、歩き方に異変が起きたり、足先を頻繁に舐めたりするようになります。口内にできた場合は、口臭やよだれが多く出るようになり、噛み方がおかしいなどの症状があらわれます。シニア犬は特に注意したい病気で、外科手術が可能な場合には、腫瘍とその周辺を切り取ります。腫瘍が大きい場合には、放射線治療を行うこともあります。
肛門周囲腺腫
「肛門周囲腺腫」は、肛門のまわりにできる腫瘍で、去勢をしていないオスのシニア犬に多い病気です。良性の腫瘍であるものの、放置してしまうと膿が出たり、腫瘍が大きくなりすぎて手術が困難になる可能性もあります。
肛門まわりの腫瘍には、メス犬に多いと言われている「肛門嚢アポクリン腺癌」や、「肛門周囲腺癌」などの悪性腫瘍もあります。肛門まわりに「できもの」などを見つけたら、すぐに動物病院を受診するようにしてください。
脂肪腫
「脂肪腫」は、5~6才で発症することのある良性腫瘍。お腹やわき、股などにできやすい腫瘍で、皮膚全体が盛り上がっているような見た目が特徴的です。この病気でとくに注意したい犬種は、ゴールデン・レトリーバー、ビーグル、シェットランド・シープドッグなど。腫瘍が巨大化した場合は、手術で腫瘍を摘出します。
皮膚組織球腫
「皮膚組織球腫」は若い犬に多い良性腫瘍で、生後数ヶ月でも発症することがあります。症状は、頭や顔、首や足先などが突然大きく腫れ上がります。赤く腫れるのでとても痛々しい見た目ですが、放置していれば2~6ヶ月ほどで自然に治ります。そのため、基本的には手術や投薬は行いません。
がんの治療法の種類とは?
分子標的薬
これまでのがんの薬と言えば、がん細胞だけでなく正常な細胞までもが破壊されてしまうため、多くの犬に副作用が出ていました。しかし近年では、がん細胞だけを攻撃する「分子標的薬」の開発が進んでおり、肥満細胞腫に効く「分子標的薬」も日本で認可されています。
免疫療法
「免疫療法」とは、体に侵入したウイルスや細菌などを退治しようと働く、「自己免疫力」を活かした治療法のことです。犬自身の免疫細胞を増やして悪性腫瘍を退治するという仕組みのため、副作用がほとんどないと言われています。しかし具体的な成果が少ないため、現在も研究中の治療法です。
遺伝子検査
「遺伝子検査」は腫瘍の型を調べるための検査で、肥満細胞腫やリンパ腫などの悪性腫瘍が見つかったときに行われます。検査方法は腫瘍の一部を採取し、判明した型からどのような治療法や薬が適しているのかを見出します。ここ数年でリンパ腫は、かなり細かく型が分けられるようになりました。
メトロノーム療法
「一度に多くの薬剤を投与して腫瘍を抑える」という一般的な治療法に対して、「1回に投与する薬をグッと減らし、毎日または1日おきに各家庭で投薬する」療法が、「メトロノーム療法」です。この療法はあくまで悪性腫瘍の一治療法のため、根治は望めません。主に愛犬を家でゆっくりと過ごさせたい場合や、定期的に通院させるのが厳しいといった場合に採用されることがあります。
放射線治療
以前の「放射線治療」は、根治を目指して週に2〜3回照射するのが一般的でした。しかし犬への負担がかなり大きいため、現在は根治のためではなく、症状軽減のために週1回程度照射する方法が取り入れられるようになりました。さらに、腫瘍除去の手術中に放射線を照射する治療も行われています。
犬の腫瘍について知っておくべきこと
腫瘍は、シニア犬だけがなるものではない
腫瘍やがんと言えば、シニア犬がなりやすいイメージがありますが、生後数ヶ月で発症するケースもあります。特に「皮膚組織球腫」は、子犬~若年期に多い良性腫瘍です。発症例はそんなに多くありませんが、2~3才で肥満細胞腫や骨肉腫などの悪性腫瘍を発症した例もあります。
腫瘍の早期発見のコツとは?
日頃より全身の皮膚をよくチェックするようにして、炎症やできものがないかを調べるようにしましょう。年齢とともにできやすくなる口内の腫瘍は、歯磨きを習慣にしてしっかりチェックし、体内の腫瘍は定期検診で早期発見を心がけましょう。
腫瘍の予防方法とは?
オス犬の肛門周囲腺腫やメス犬の乳腺腫瘍などの性ホルモンが影響する腫瘍は、早期の去勢手術と避妊手術で発症率をかなり下げることができます。また、歯みがきを毎日の習慣にすることで、口腔内の腫瘍を予防できる可能性があります。
病気を早期発見するためには、日頃からの心がけがもっとも重要です。危機感を感じてビクビク過ごせとは言いませんが、若いころから常に病気に対するアンテナを張っておけば、日々のスキンシップやお風呂の時間などの意味合いも変わってくるでしょう。
出典/「いぬのきもち」16年12月号『良性腫瘍からがんまで 犬の腫瘍 最新情報』(監修:池尻大橋 ペットクリニック院長 遠藤美紀先生)
監修/加藤憲一先生(相模原プリモ動物医療センター院長)
文/maitaro
※写真はスマホアプリ「まいにちのいぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。