犬と暮らす
UP DATE
犬の食事大全 〜基礎知識から市販・手作りフードの留意点まで〜
人に飼われている犬の食事は、数十年前に比べ大きく変わりました。昔は人間の食べ残した食事を与えるような家庭も多かったのですが、今では多種多様なフードが作られ、飼い主の食に対する意識も高まってきています。今回は、食事の基礎知識(栄養素・カロリー・食物アレルギーについて)を丁寧に解説したうえで、ライフステージや体格を考慮した食事の与え方、さらにはドッグフードや手作りフードのメリット・デメリットとその留意点にまで触れるなど、食事にまつわる情報を幅広くご紹介していきます。
見津 友啓 先生
パティ動物病院院長
麻布大学獣医学部獣医学科卒業
●資格:獣医師
●所属:ASC登録医/日本小動物歯科研究会/日本獣医麻酔外科学会/日本獣医皮膚科学会
●WEBページ:パティ動物病院スタッフ紹介/パティ動物病院オフィシャルブログ
食事の重要性
実際に、人間において大きな問題となっている生活習慣病の原因の大部分は、偏った食生活によるものと言われています。また、偏った食事でなくても、体質や罹っている病気によって適した食事・適さない食事があることが分かっています。
犬や猫においても、同様のことが言えます。
具体的な例で言えば、誤った食事の与え方で犬が肥満になってしまった場合、関節に負担を与えて関節炎を引き起こしたり、脂質の代謝異常を起こし肝臓・胆嚢胆管疾患や尿石症の原因になったり、心臓や血管に負担をかけ心臓病を悪化させたり、呼吸器を圧迫して低酸素状態が常態化してしまうことが考えられます。
また、動物にも食物不耐性や食物アレルギーがあり、お腹を壊したり皮膚や毛並みに影響が出たりします。
腸のリンパ管拡張症の犬には脂肪を抑えた食事が望ましいですし、腎臓病ではある程度蛋白質やリンの含有量を抑えた食事が良いとされます。
今あげた例は氷山の一角であり、ありとあらゆる病気に食事は関係しています。だからこそ、食事に対する正しい知識が健康を保つうえで必要になってくるわけです。
食事にまつわる基礎知識
必要な栄養素
栄養素は大きく6つに分けられ、6大栄養素として知られています。
6大栄養素には、水、炭水化物、蛋白質、脂肪、ミネラル、ビタミンが数えられます。
1.水:身体の大部分を構成し、代謝反応や物質の輸送に必要不可欠。
2.炭水化物: 単糖と呼ばれる物質が複数結合したもので、動物が栄養素として利用する主な単糖はブドウ糖。
3.蛋白質: アミノ酸が複数結合したもの。アミノ酸には身体にとって必要不可欠なものが複数あり、これらは必須アミノ酸と呼ばれる。必須アミノ酸の種類は動物種によって異なる。
4.脂肪: 脂肪酸とグリセリンから構成される。脂肪からはとても多くのエネルギーを引き出すことができる。脂質と呼ばれることもある。
5.ミネラル: 有機物に含まれる水素・炭素・酸素・窒素以外の必須元素のことを指し、哺乳類では18種類以上の元素が必須とされる。
6.ビタミン: 「脂質でも蛋白質でも炭水化物でもない有機物であること」「食餌に含まれること」「正常な生理機能のためにわずかな量しか必要でない」「食餌中に含まれていないと欠乏症が出ること」「正常な機能を果たせる量を体内で合成できない」といった条件を満たす物質を指す。ビタミンはライフステージによって要求量が異なる。動物種によっては身体で合成されるものもあるので、すべてのビタミンがすべての動物に必須という事ではない。
水を除いて5大栄養素とするのは聞いたことがあるかと思いますが、栄養素の定義から水も立派な栄養素となります。
炭水化物・蛋白質・脂肪はエネルギー源になったり身体の構成成分として働き、ビタミンは主に代謝の化学反応に不可欠な存在です。水や一部のミネラルはエネルギー供給以外のすべてに関わってきます。
6大栄養素のうち水以外は様々な物質が含まれ、数多くの必須栄養素が見つかっています。ほとんどの栄養素では食事中の最小要求量が確立されています。こういった必須栄養素の摂取量が摂取最小必要量を下回れば欠乏症となり、多すぎると過剰症になるわけです。
実際にはミネラルやビタミンの一部はmg、1/1000mg単位での必要量になるので、炭水化物・タンパク質。脂肪の量を多すぎず少なすぎずバランスよく調整した上で、ミネラルやビタミン調整していくことになります。
また、厳密には必須栄養素ではないですが、食物繊維は腸内の環境を整えるので必須栄養素の吸収やお腹の健康の維持に重要です。
適切なエネルギー摂取量の指標
RER(Kcal/日)=70×{体重(kg)の0.75乗}
もしくは体重が2kg~45kgであれば
RER=30×体重(kg)+70で求めることができます。
*体重の0.75乗の計算は√(ルート)のボタンがある計算機で体重を3回かけた後に√を2回押します。
例)体重4kg 4×4×4をして√ボタンを2回押す
RERをもとにライフステージや犬の状態で1日の必要エネルギー量を計算します。
食物アレルギーとは
犬に多い食物アレルギーの症状としては、皮膚炎や下痢・嘔吐といった消化器症状が挙げられます。人の食物アレルギーで良く知られている蕁麻疹や呼吸困難、顔がパンパンに腫れて命に関わる症状を引き起こすこともあるアナフィラキシーショックなどの症状が犬に起こることは比較的少ないです。
蕁麻疹やアナフィラキシーショックは、Ⅰ型アレルギーに分類されます。これは、アレルギーの原因物質であるアレルゲンと呼ばれる蛋白質を摂取してから、皮膚反応が15~30分で最大に達するアレルギー反応です。また、アレルゲンの摂取をやめれば、速やかに症状が消失します。
犬に多い皮膚炎や消化器症状を引き起こすアレルギーは、主にⅣ型アレルギーに分類されると考えられています。この反応はアレルゲンが摂取されてから1日~数日後に反応が最大になります。アレルゲンの摂取をやめてからアレルギー反応が落ち着くまでも数日かかります。そのため、Ⅳ型アレルギーでは症状が出るまでに色々食べてしまっていたり、疑わしいアレルゲンを取り除いても症状がすぐに消えないため、アレルゲンの特定が難しくなります。
ちなみに、アレルゲンになる蛋白質は、より小さい蛋白質に分解したり、アミノ酸まで分解するとアレルギー反応を起こさなくなります。診断のために蛋白質が完全に分解されたアミノ酸のみを含むフードもありますが、価格は高くなります。
血液検査で反応を起こしやすいと考えられる食品を調べることはできますが、精度は完全ではないため、犬において食物アレルギーの診断やアレルゲンの特定には、飼い主の注意深い観察力が必要になります。
犬への食事の与え方
基本的な食事の与え方
基本的には、理想体重で1日に必要な総カロリー量を計算し、その量になるように食事を2〜3回に分けて与えていきます。犬の場合、お腹が空きすぎると黄色い液体を吐くことがあります。とりわけ朝ごはん前に吐くことが多いので、朝・夕・寝る前といったタイミングに分けて食べさせるのが良いでしょう。
おやつは肥満の原因になるので、必要最小限に抑えるのが好ましいです。デンタルガムなども意外にカロリーが高いので、気を付ける必要があります。一度太ってしまうと減量には相当苦労することが多いので、太らせないことが大切です。かといって、太らせるのが怖いがために、必要以上にカロリーを抑える必要はありません。
ちなみに、犬は猫と異なり雑食動物です。栄養素を体内で処理する上で、肉のみからでは効率良く代謝することができず、植物性のものも取り込むことで効率良く代謝できる仕組みになっています。そういう意味では、犬にも我々人間に近い栄養バランスを当てはめることができます。
ライフステージに合わせた食事
全目的用のフードでは、特に栄養素を必要とする成長期や繁殖期に合わせていることが多いので、栄養素が過剰になります。多すぎても少なすぎても健康を損なうのが栄養素ですから、犬の状態に合わせた食事が必要です。
詳しい話をすると、ひとつのライフステージで記事が1つ書けてしまうくらいの情報量になるため、今回は飼い主の皆様がともに過ごす機会の多い家庭犬の成長期・若齢期・成齢期について大まかな指標を話していきましょう。
※繁殖期や妊娠期、新生子期から離乳期、スポーツドッグやワーキングドッグについては注意点が多くなるので、かかりつけの動物病院で聞いていただくのをお勧めします。
●成長期(離乳~若齢期)
いわゆる子犬の期間です。一生の上で、特に栄養素を必要とする時期のひとつでもあります。ただし、大型犬や超大型犬においては、最大成長速度を促すような食事は骨格が変形するリスクが高まり、寿命が短くなることが分かっている犬種もあるため、闇雲にいっぱい食べさせればいいというものではありません。また、まだ体が小さく一度に食べられる量が少ないので、できるだけ小分けにして食べさせる必要があります。
この時期は、去勢手術や避妊手術を受けることが多いです。こういった手術を受けると、生殖器官が身体から取り除かれることで代謝量が減ります。去勢や避妊手術後は、摂取カロリーを少し減らしてあげましょう。
●若齢期(1~5歳から7歳、犬種による)
成長は完了しており、比較的病気も少ない時期です。運動量や避妊去勢の有無、犬種によって変わってきますが、一般には最も標準的な推奨給与量を与える時期といえます。
●成齢期(中齢からシニア期にかけて)
6歳から8歳くらいになると、中齢期に差し掛かります。人で言うと40代半ばから50代に差し掛かるあたりです。病気が増えてくるとともに代謝が衰えてくるため、必要なエネルギー要求量が減ってくる時期でもあります。そのため食事を若齢期のものから変更することが望ましいです。
病気が出てくる時期なので、病気が見つかった場合は病気に合わせた食事を獣医師に相談するのが良いでしょう。
カロリー過多は良くないですが、筋肉量は病気になった際の予後に関係することが分かっているので、筋肉量を維持できるだけの栄養は欠かせません。消化機能も落ちてくるのでその辺も考慮していきましょう。
体格に合わせた食事
大型犬では先述したように成長期の給餌量に注意が必要です。また、太ってしまった場合関節に多大な負担をかけてしまいます。一気食いさせたり食事直後に運動させると、胃拡張捻転を起こしてしまうこともあると言われています。
●小型犬
散歩が少なかったりもらうおやつが多いといった理由で、大型犬より肥満気味な犬が多いです。エネルギー摂取量には特に気を使いましょう。
小型犬は歯周病がひどくなりやすいので、できればドライフードの方が良いですが、しっかりと歯磨きといった口腔ケアをしてあげるようにしましょう。
ドッグフードのメリット・デメリットと選び方
ドッグフードのメリット
ドッグフードのデメリット
次に、添加物や原材料にさまざまなものが使われているという事です。これゆえ、食物アレルギーなどのアレルゲンを特定することが難しくなることがあります。
最後に挙げられるデメリットとしては、飽きが挙げられます。
嗜好性も考えられて作られてはいますし、比較的犬はグルメなことは多くないのでデメリットにならないことも多いですが、同じものをあげ続けることが多いので飽きてしまったり、体調が悪く食欲が落ちていると食べてくれないことがあります。また、あんまり多量にまとめ買いしてしまうと、風味が落ちたり湿気ったりして嗜好性が落ちたり、カビが繁殖して食中毒を起こすこともあるため注意が必要です。
選び方
グラム当たりのカロリー量が最も高く、より少ない量で水以外のすべての必須栄養素を効率よく摂取することができるのは、ドライフードになります。金銭面でも、ドライフードは比較的他のタイプより優れています。また他のタイプのフードに比べて、やや歯石がつきにくいという特徴もあります。基本的にはドライフードで1日の栄養素をまかなうのが良いでしょう。
他のタイプはドライフードに比べ嗜好性が高く、水分含有量が多い分グラム当たりのカロリー量は少ないです。ドライフードに加えたり、おやつとして与えるなど、補助的に使うのが良いでしょう。減量時に食事のかさ増しにも使えます。
ライフステージに合ったドッグフードを、適正量食べさせるようにしましょう。適切なものが分からない場合は、ペットショップの店員さんや獣医師に相談しましょう。
手作りご飯のメリット・デメリットと注意点
手作りご飯のメリット
さらに、味付けを抑えていても、手作りフードの方が嗜好性が良いことが多いです。愛情を込めて作られている分、おいしいのかもしれませんね。病気用のフードを食べない時などは自分で調整して、おいしくて病気にあった食事を作ることもできるでしょう。
手作りフードのデメリット
最大の問題点としては、ドッグフードに比べると栄養がアンバランスになりがちであるという事です。大部分の自家製フードのレシピは、個々の食品の平均栄養素含量を利用してコンピューターにより大まかに計算されたものが多く、確実性を保証するものではありません。そのため、ビタミン剤等で補足する必要があるかもしれません。このように、一般の方が栄養バランスの整った食事を作ることはとても難しいことではありますので、たまのお楽しみやおやつなどに留めておくといいでしょう。
手作りフードの注意点
また、ドッグフードでも起こりえますが、材料によって便の性状が著しく変化することがあります。
後は人と同じ調理器具を使う場合、人で無害でも犬にとって害のある食品の成分が混入する恐れがあるので、調理器具は専用のものを用意するほうが安心です。
手作りフードに使う食品の安全性の管理にも気を付けましょう。
まとめ
●水、炭水化物、蛋白質、脂肪、ミネラル、ビタミンの6大栄養素が食事には必要不可欠
●犬には食物アレルギーがある。アレルゲンの特定は一般的に難しく、診断には飼い主の注意深い観察力が必要
●犬の年齢や運動量、罹っている病気に合わせた食事を選ぶことが、犬の健康を維持する上で特に大切
●ドッグフードは手軽に健康管理できるので主食は「総合栄養食」が基本。原材料を完全に把握できないことがある
●手作り食は知識があれば応用性があるが、手間やコストかかり栄養面で確実性に欠ける
食事は、健康維持の大切な要(かなめ)です。より長く愛犬が元気でいられるよう、改めて犬の食事について考えてみてはいかがでしょうか。
小動物の臨床栄養学 第5版 岩崎利郎 つじ本元(つじはしんにょうに十)監訳
監修/見津友啓先生(パティ動物病院院長)
合わせて読みたい
「犬が食べると、危険な食材は?もし食べてしまったときの対処法まで」
「【獣医師が解説】犬に食べさせてもいいもの」
UP DATE