犬は興奮するだけで呼吸がハァハァするものですが、のどや心臓が悪くなると、呼吸に異常が出るといわれます。そんな愛犬の呼吸の異常に気付くには、どんな行動やしぐさに注意して観察したらいいのか、どのような病気が心配なのか、獣医師に解説してもらいました。
犬の正常な呼吸は…
健康な犬は、1分間に小・中型犬20~30回、大型犬10~15回呼吸をするといわれます。ところが血液中の酸素量が急激に減少すると、それを補うためにハァハァと速い呼吸になるのです。
犬の呼吸に異常が見られたら、呼吸器疾患や循環器疾患かも
酸素を体内に取り込み、不要な二酸化炭素を体外に排出するのが呼吸器の役割です。呼吸器に異常があると、呼吸が浅く速くなったり、ハァハァしたり、セキをしたりと、犬の呼吸の様子に変化が見られます。呼吸の異常は呼吸器疾患だけでなく、心臓など循環器疾患でも起こりますから、愛犬の呼吸の様子をよく見て、いち早く異変に気づけるようにしたいですね。
犬の呼吸器疾患が疑われる症状は?
・セキが出る
・鼻水が出る
・興奮するとセキが出る
疑われる呼吸器疾患は?
・咽頭炎…のどが何らかの原因で傷ついたり、鼻炎や口内炎など周辺部位の炎症やウイルス感染からのどに炎症が起こる病気。薬や吸入器で治療します。
・気管支炎…空気の通り道の気管支に炎症が起きる病気の総称。子犬やシニア犬がかかりやすいといわれます。炎症を抑える治療と、点滴や吸入器で気道粘膜を湿らす治療を行います。
・肺炎…呼吸器疾患の悪化により、炎症が肺にまで到達してしまった状態をいいます。子犬やシニア犬がかかりやすいといわれます。エックス線では炎症が白く映ります。このエックス線検査のほか、胸部の聴診により肺の異常が見つかります。
・気管虚脱の悪化…先天性や肥満などで気管がつぶされ、空気が通りづらくなる病気の気管虚脱が悪化し、気管支炎や肺炎などの二次的な病気にかかることが。ポメラニアンやパグなどの小型犬や短頭種や、ラブラドール・レトリーバーなどの大型犬がかかりやすいといわれます。
犬の循環器疾患が疑われる症状は?
・朝方、気温の低いときにセキをする
・呼吸がいつもより速い
・少しの運動でハァハァする
疑われる循環器疾患は?
僧房弁閉鎖不全…心臓の左心房と左心室の間にある僧房弁が完全に閉じなくなり血液が逆流する病気。セキや呼吸困難を引き起こします。マルチーズ、トイ・プードル、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなどがかかりやすいといわれます。
・心臓疾患が肺水腫を起こすことも
僧房弁閉鎖不全などがきっかけで肺の中の血流が滞ると、肺に水がたまって呼吸が苦しくなる肺水腫を併発することがあります。
拡張型心筋症…心臓が肥大し、心筋が薄くなる原因不明の病気。進行するとセキや呼吸困難のほか、最悪は突然死するケースも。ドーベルマン、アメリカン・コッカー・スパニエル、グレート・デーンなどがかかりやすいといわれます。
犬の呼吸器疾患を予防するには?
犬の呼吸器疾患は、冬に発症しやすいといわれます。それは冬特有の「乾燥」から。通常、鼻からのど、気管支までは粘膜で保護されています。粘膜は、外から入ってきた細菌やウイルスをからめとって体内に入れない働きをしています。しかし、乾燥した環境では粘膜の抵抗力が下がって粘液の分泌量が少なくなり、細菌やウイルスが気道に付着しやすくなるため、呼吸器疾患が起こりやすくなるのです。ですから、呼吸器疾患を防ぐには、なるべく乾燥させないことが肝要です。そのためには、室温は18~24℃、湿度は50~60%を目安にし、加湿器なども使って、犬を極端に乾燥した室内にいさせないようしましょう。
犬の循環器疾患を予防するには?
心臓を中心に、全身の血液を巡らせるポンプの役割を果たすのが循環器。循環器疾患は、血圧の急変が原因なことが多いので、予防するには、血圧を急上昇させないことが大事です。そのためには、「寒暖差をできるだけなくす」「長時間寒い場所に犬をいさせない」ようにしましょう。具体的には、
・寒暖差をできるだけなくす…散歩やお出かけの際は、リビング→玄関で5分ほど待機→外へというように、少しずつ気温の変化に犬を慣れさせ、急激な寒暖差を避けるようにして。
・長時間寒い場所にいさせない…寒い環境に長時間いると、自らの体を温めようと血圧が上がり、心臓に負担がかかります。ですから、冬場などはなるべく暖かい時間帯に散歩に行くなどするようにして。
呼吸器の異常は、熱中症やフィラリアが原因のことも
熱中症の初期症状でも、犬の息づかいが荒くハァハァするときがあります。これは、体温を下げようと、鼻と口両方で呼吸して水分の蒸発を増加させているから。また、フィラリアの急性症状で、呼吸困難になって犬が倒れ込むケースも。いずれも、重症化すると命にかかわるので、しっかり予防策をとることが肝要です。
まとめ
愛犬の呼吸が変だと、荒い息づかいやセキなどが見られ、比較的発見しやすいもの。人だと「様子を見よう」と思うような症状が、犬だと重症の場合もありますから、呼吸の異常が見られたら、躊躇することなく早めに受診したいですね。
出典:『いぬのきもち』2015年1月号「冬に発症しやすい5大疾患」(監修:東京動物医療センター 副院長 南直秀先生)