犬は警察犬や盲導犬として人を助けたりすることもできることから、賢いイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。では実際、犬はどのくらい賢いのでしょう? 今回は「犬の知能」について、ドッグトレーナーの西川文二先生と京都大学大学院文学研究科教授の藤田和生先生に解説していただきました。
撮影/佐藤正之
ズバリ犬の知能の定義はないが、人の知能でいう「思考力」「学習能力」などのさまざまな能力が犬にもあると考えられる
藤田先生、西川先生ともに「犬の知能の正確な定義はない」とのことですが、そもそも人の知能とは「適応力」「抽象的思考力」「学習能力」「問題解決能力」など、物事を理解したり判断したりする力のことを指します。動物にも同じような意味で考えることが多く、さまざまな調査や研究が行われ、犬の知能についても少しずつ解明されてきています。
一般的に犬は人でいう3才児未満くらいの知能をもつといわれている
犬は2単語の組み合わせが理解できるが、数や時間などの抽象的な概念を理解できないことなどから、3才児未満くらいの知能をもつといわれています。「カナダの心理学者スタンレー・コレン氏は、犬は2才半くらいの知能をもつといい、アメリカの心理学者ジョン・ピリー氏は、3単語を理解できるかもという研究結果から〝3才未満〞といっています。以上の話から、犬の知能は人の2才半〜3才未満と考えられるでしょう」(西川先生)。
犬は抽象的な概念を理解しないが、行動の流れを覚えるのは得意
イラスト/西イズミ
「犬は数の有限・無限、時間など、抽象的な概念を理解するのが難しいといわれています。なのに『食事の時間になると吠える』など、時間がわかるかのような行動をするのは、飼い主さんが〝キッチンに行く→棚からフードボウルを出し……〞といった一連の行動を観察し、記憶しているから。また、人にとって〝価値がある/ない〞も抽象的な概念で犬には理解できないので、イタズラには注意が必要です」(西川先生)
犬は死を理解しないから、未来の心配もしない
イラスト/西イズミ
「人が死を理解するのは3~4才ごろ。犬は数の有限・無限や時間を理解しないので、自分の命に限りがあることもわかりませんから、死を恐れません。体調の悪さから多少の不安はあると思いますが、未来を心配せず、過去も振り返らず(記憶はありますが)、今を懸命に生きています」(西川先生)
「チンパンジーは将来使うための道具をとっておくことがわかっていて、犬も未来に対する準備行動ができるのかを研究中です」(藤田先生)
鏡のテスト(自己認識)は犬にはちょっと難しい
イラスト/西イズミ
「自分をどこまでわかっているかを調べる〝鏡のテスト〞があります。気づかれないよう顔に白い粉をつけ、鏡を見てそれに気づいて自分で取るかどうかのテストを、3才以降の人やチンパンジー、イルカはできますが、犬はできないことから、犬の知能は3才児未満といわれます」(西川先生)
犬は相手の立場に立たないとわかりにくい感情を理解できない
イラスト/西イズミ
「恥ずかしい・罪悪感・軽蔑など、相手の立場に立たないとわかりにくい感情は、人だと3才以降に理解できるのですが、犬は理解できません。ですから、留守中に限ってそそうをしても、嫌がらせではないんですよ」(西川先生)
犬は2~3単語の組み合わせを理解できる
イラスト/西イズミ
「〝ボール+トッテ〞など、犬は動きを伴う合図(動詞)や、場所や物を指し示す合図(動詞)としての言葉の、2単語の組み合わせを理解できる(3単語の可能性もあり)といわれています。ただし、単語を〝音〞として聞き取っていて、意味を深く理解しているわけではないようです」(西川先生)
1,000語以上覚えた犬がいる!
「アメリカの心理学者ジョン・ピリー氏の愛犬チェイサーが、おもちゃの名前を1,000語以上覚え、区別することができたそう。ただこれは1日4〜5時間のトレーニングを3年ほど続けた結果。犬も1,000語覚えられる知能をもっていることが証明されましたが、これだけがんばる飼い主さんの忍耐とスキルもすごいですね」(藤田先生)
いかがでしたか? まだまだ解明されていないことも多い「犬の知能」について、今後も新たな発見があるのを楽しみにしたいですね。
お話を伺った先生/Can ! Do ! Pet Dog School代表 西川文二先生、京都大学大学院文学研究科教授 藤田和生先生
参考/「いぬのきもち」2018年4月号『犬の知能に迫る』
イラスト/西イズミ
写真/佐藤正之
文/いぬのきもち編集室