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【獣医が教える】7歳からの犬の老化と病気の予防法
これまで何の心配もなく元気いっぱいに過ごしてきた犬に、老化や病気の心配事が出てくる時期が7歳頃からと言われています。人間よりも寿命が短く、はるかに早いスピードで年老いていく犬ですから、できるだけ健康に長生きしてもらえるよう、病気の予防や準備を先手で進めていくことが重要です。
今回は、犬にとってのシニア期のスタートである7歳というターニングポイントを切り口に、本格的な老化を迎える前にできる薬やワクチン、避妊去勢手術のことやフードなど日頃の注意点についてお話しできればと思います。犬は物言えぬ動物なので、この記事を通じて日頃からの体調管理に少しでも興味を持っていただき、それが病気の予防や早期発見につながればと願っています。
平野 太陽 先生
右京動物病院SAGANO
麻布大学卒業
奈良動物二次診療クリニック第6期研修修了
●資格:獣医師/宅地建物取引士
●所属:京都市獣医師会/日本動物病院協会/日本獣医画像診断学会/日本獣医がん学会/日本獣医腎泌尿器学会
犬の年齢の考え方
ただ、この計算式は全ての犬に当てはまる訳ではありません。大型犬の寿命は小型犬に比べると一般的に短く、犬種によっては10歳を迎えることが難しい犬種もいます。愛犬の体調に照らし合わせて注意深く観察しながら、あくまで目安として活用するようにしてください。
病気の予防の重要性について
しかし、現代の医療技術ではまだ予防できる病気が限られており、すべてを防げる訳ではありません。ただ、防げる病気が増えてきている事は確かで、ひと昔前では想像できないほど犬の寿命は長くなっています。
今回は本格的なシニア期間に突入する手前の7歳にとって有効な手立てとして、以下で「予防」を柱に病気のリスクを取り上げていきます。
1.「薬」による予防
フィラリア症
室内飼いが増えたことや飼い主の意識の変化、そして予防薬ができたことなどにより、動物病院でフィラリア症を診断することもめっきり減りました。一回の内服で予防効果は1ヶ月持続し、初夏から初冬にかけて月1回の内服予防を続けるだけで、命を守れるようになりました。予防を徹底しなければいけない病気の第一と言えるでしょう。
ノミ・ダニの寄生
ウイルスによる感染症
また、考えるべきは、現在ウイルスを原因とする感染症に対する「予防薬」はあっても、効果的な「治療薬」はないという点です。予防薬がある病気というのは、裏を返せば感染してしまうと致命的であったり、治すことが大変な病気といえます。予防薬は定期的に続けなければいけない面倒さや、費用の面から避けられる方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、愛犬の健康にとって価値あるものです。感染して後悔する前に、ぜひ予防を徹底してあげてください。
2.「手術」による予防
避妊・去勢手術は、無計画な繁殖によって殺処分される命を減らすという面で、とても有用な方法です。現在、広く受け入れられている方法ですが、この手術が避妊と同時にさまざまな病気を予防する効果を持っている事実は、あまり知られていない様に思います。
避妊・去勢手術によって予防できる主な病気は下記の通りです。
●避妊手術
避妊手術で予防できる病気の大きなものは、子宮蓄膿症と乳腺腫瘍です。
子宮蓄膿症は人間に馴染みのない病気ですが、犬ではよく見かける病気です。文字通り子宮の中に膿が溜まってしまう病気で、命を落としてしまうことも多い怖い病気です。避妊手術によって「子宮」と性周期をコントロールする「卵巣」をなくすことができるので、病気のリスクを回避することができます。
乳腺腫瘍は性ホルモンにより発生率が上昇します。性ホルモンを分泌する卵巣を摘出するので、避妊手術で発生率を下げることができます。
また、大型犬など胸郭が深い犬は、胃袋が捻れてしまう「胃捻転」という病気が多く、発症するとある日突然亡くなってしまうことがあります。一気食いを避けたり、食後に安静にするなどの工夫も大切ですが、避妊手術などでお腹を開ける機会があれば、同時に胃袋を固定する手術をするのもいいかもしれません。
一方で、最近はまだ一部の病院に限られますが、腹腔鏡による避妊手術も受けられるようになりました。腹腔鏡手術とは、数mmの小さな数カ所の穴からカメラや鉗子(かんし)を挿入して行う手術です。通常の開腹手術と違って、傷口が小さくて済むのはもちろんのこと、痛みや身体への負担の少ない低侵襲医療の一つです。気になる方は導入している病院を調べてみましょう。
●去勢手術
去勢手術でも、精巣腫瘍、前立腺肥大、会陰ヘルニアなどを予防することができます。去勢をしていない場合、7歳ではほとんどの犬が前立腺が肥大化しています。血尿や頻尿などの泌尿器症状が出てしまう前に、去勢手術をすることをお勧めします。
3.「健康診断」による予防
動物は自分の体調の変化を言葉で伝えることができませんし、もちろん自分で病院に行くこともできません。そのため常日頃から様子を見て、実際に体に触って異常がないかを確認することが大切です。また、定期的に動物病院へ健康診断に連れて行くことは、健康管理を担う飼い主に課せられた一つの義務と言っていいかもしれません。
では、具体的に健康診断にはどの様なものがあるのか、またどの様な健康診断が病気の早期発見において効果的なのか確認していきます。
血液検査
では、これだけで病気の早期発見が可能かというと、不十分と言わざるを得ないでしょう。例を一つあげると、腎臓の一般的な血液検査マーカーは、腎機能の80パーセントが失われないと異常値を示しません。二つある腎臓のうちの片方がまるまる癌に侵されていても、もう片一方が機能していれば、血液検査に異常は検出されないのです。その他の臓器の血液検査マーカーも、初期病変の存在を反映することはほとんどなく、末期にならないと異常値を示してくれません。
以上のことから、血液検査のみでは安心できないことがご理解いただけたと思います。
画像検査
メリットは、病気の早期発見にとても効果的である事と、全身を隅々まで細かく観察できることです。一方、デメリットは、検査に少し時間がかかることや、獣医師の経験によって診断の精度が変わることでしょう。
一般的に動物病院で健康診断として行われる画像検査は、レントゲン検査とエコー検査です。レントゲン検査は内臓だけでなく、骨の評価をすることもできますし、エコー検査は各種臓器を内部まで、またその動きも併せて観察することができます。一部しか癌化していない腎臓を見つけることもできます。
わたしは自分が飼っている動物の健康診断をする際は、血液検査に画像検査を必ず追加するようにしています。7歳からは癌の発生率がぐんと上昇します。どうか早期発見のために、画像検査を含めた健康診断をしてあげてください。
4.「日頃からの注意」による予防
フードを切り替える
シニア食には、メーカーによって違いはありますが、高齢犬でよく見られる関節炎や皮膚病などを予防するための成分が入っていることも多いです。好き嫌いせず問題なく食べてくれるなら、シニアフードへの切り替えをおすすめします。また、いきなり切り替えると腸がびっくりして下痢になることがありますので、今食べているフードに少しずつ混ぜ込むような形をとってください。徐々にシニアフードの割合を多くしていき、1〜2週間で完全に切り替わるようにするのが良いです。
新鮮で十分な量の飲み水を与える
また、体重の減少は筋肉量の低下もありますが、脱水によることも多いです。日頃から飲水量や体重の測定をしておくことで、体調の変化にすぐ気づけるようにしておきましょう。
「老化かな?」と思う変化を感じた時の注意点
ただし、犬に起こる変化を、単なる老化と決めつける考え方には注意が必要です。なぜなら、老化と思しき兆候はすべて、病気によって引き起こされる諸症状にも当てはまるからです。行動や体質の変化を「老化」の一言で済ませてしまうと、病気の初期症状として現れていた合図を見過ごすことになり、貴重な治療の機会を逃してしまうかもしれなのです。
老化を見取ろうとする際に大切なのは、「自分一人で老化と判断しない」ということです。冒頭にも述べたように、動物は自分の体のことを飼い主に説明することができません。むしろ本能的に、体調が優れないことを隠してしまうケースすらあります。そのため、もの言えない動物の代わりに、大きな病気かもしれないと疑ってあげることも飼い主の大きな義務の一つです。気になる変化が現れたら、獣医師に相談することを心がけてください。
まとめ
また、最後にも述べた通り、犬の行動や体質の変化を「老化」と決めつけないでください。何かの病気であっても、老化と似た症状が出ることがよくあります。何か変化があれば、まずは獣医師に相談をするようにしましょう。
犬の寿命は伸びていますが、ご家族の方が正しい知識を持って、日々体調の変化を注意深く観察するだけで、病気の早期発見の機会は増え、平均寿命をさらに伸ばす事ができるでしょう。この記事をきっかけに、「なぜもっと早く気づけなかったのか」と後悔される方がひとりでも減り、愛犬との幸せな時間が少しでも長く続くことを心より願っています。
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