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【獣医が教える】7歳からの犬の老化と病気の予防法

これまで何の心配もなく元気いっぱいに過ごしてきた犬に、老化や病気の心配事が出てくる時期が7歳頃からと言われています。人間よりも寿命が短く、はるかに早いスピードで年老いていく犬ですから、できるだけ健康に長生きしてもらえるよう、病気の予防や準備を先手で進めていくことが重要です。
今回は、犬にとってのシニア期のスタートである7歳というターニングポイントを切り口に、本格的な老化を迎える前にできる薬やワクチン、避妊去勢手術のことやフードなど日頃の注意点についてお話しできればと思います。犬は物言えぬ動物なので、この記事を通じて日頃からの体調管理に少しでも興味を持っていただき、それが病気の予防や早期発見につながればと願っています。

犬の年齢の考え方

犬は人間よりも寿命が短く、体感的な時間の流れ方も異なります。当たり前ですが、犬の7歳と人間の子どもの7歳は同等ではありません。犬は1歳で成犬になりますから、これを人間で言うところの20歳(成人)とします。それ以降、犬が1年歳をとるごとに人間で4年歳をとったと考え計算すれば、7歳の犬はおよそ44歳の人間と等しくなります。人間の44歳と言えば、生活習慣病や様々な病気と向き合っていかなければいけなくなる年齢です。7歳からの犬に対して、今まで以上に健康に気を遣うようにしなければならない理由が少しはお分かり頂けたかと思います。また、犬を健康診断に1年間連れていかないということは、人間が4年間健康診断をしなかったのと同じことになります。時間経過の重さとリスクが、犬と人間とで大きく異なることを理解しておいてください。
ただ、この計算式は全ての犬に当てはまる訳ではありません。大型犬の寿命は小型犬に比べると一般的に短く、犬種によっては10歳を迎えることが難しい犬種もいます。愛犬の体調に照らし合わせて注意深く観察しながら、あくまで目安として活用するようにしてください。

病気の予防の重要性について

「護身を極めた合気道の達人は、危険な場所にたどり着くことすらできなくなる」と聞いたことがありますが、獣医療の目指すところも同じです。病気にかかることなく未然に予防することが、獣医療の理想の形だと思います。
しかし、現代の医療技術ではまだ予防できる病気が限られており、すべてを防げる訳ではありません。ただ、防げる病気が増えてきている事は確かで、ひと昔前では想像できないほど犬の寿命は長くなっています。
今回は本格的なシニア期間に突入する手前の7歳にとって有効な手立てとして、以下で「予防」を柱に病気のリスクを取り上げていきます。

1.「薬」による予防

まずは、薬によって予防可能な症状について説明します。

フィラリア症

フィラリア症は、蚊が媒介する病気です。素麺のような形の寄生虫が心臓に寄生し、感染した動物を死に追いやります。この病気は無治療だと死に至りますし、治療方はあるものの、その過程で命に危険が及ぶこともある大変危険なものです。
室内飼いが増えたことや飼い主の意識の変化、そして予防薬ができたことなどにより、動物病院でフィラリア症を診断することもめっきり減りました。一回の内服で予防効果は1ヶ月持続し、初夏から初冬にかけて月1回の内服予防を続けるだけで、命を守れるようになりました。予防を徹底しなければいけない病気の第一と言えるでしょう。

ノミ・ダニの寄生

同じくノミやダニの予防も重要です。皮膚病などの観点からも予防は重要ですが、マダニが媒介する感染症も存在しており、種類によっては動物だけでなく人間が感染して死亡する事例もあります。月1回の内服、もしくは皮膚への液剤の滴下を月1回行うことにより予防できますので、こちらも忘れずに予防してあげてください。

ウイルスによる感染症

ウイルスによる感染症の予防も重要です。混合ワクチンを接種することで予防が可能です。ワクチン内容により予防できる病気は変わってきますが、免疫力が低下してくるシニア期では、その重要性はより高くなります。
また、考えるべきは、現在ウイルスを原因とする感染症に対する「予防薬」はあっても、効果的な「治療薬」はないという点です。予防薬がある病気というのは、裏を返せば感染してしまうと致命的であったり、治すことが大変な病気といえます。予防薬は定期的に続けなければいけない面倒さや、費用の面から避けられる方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、愛犬の健康にとって価値あるものです。感染して後悔する前に、ぜひ予防を徹底してあげてください。

2.「手術」による予防

病気の予防効果がある手術として、ここでは避妊・去勢手術について紹介します。
避妊・去勢手術は、無計画な繁殖によって殺処分される命を減らすという面で、とても有用な方法です。現在、広く受け入れられている方法ですが、この手術が避妊と同時にさまざまな病気を予防する効果を持っている事実は、あまり知られていない様に思います。
避妊・去勢手術によって予防できる主な病気は下記の通りです。

●避妊手術
避妊手術で予防できる病気の大きなものは、子宮蓄膿症と乳腺腫瘍です。
子宮蓄膿症は人間に馴染みのない病気ですが、犬ではよく見かける病気です。文字通り子宮の中に膿が溜まってしまう病気で、命を落としてしまうことも多い怖い病気です。避妊手術によって「子宮」と性周期をコントロールする「卵巣」をなくすことができるので、病気のリスクを回避することができます。
乳腺腫瘍は性ホルモンにより発生率が上昇します。性ホルモンを分泌する卵巣を摘出するので、避妊手術で発生率を下げることができます。
また、大型犬など胸郭が深い犬は、胃袋が捻れてしまう「胃捻転」という病気が多く、発症するとある日突然亡くなってしまうことがあります。一気食いを避けたり、食後に安静にするなどの工夫も大切ですが、避妊手術などでお腹を開ける機会があれば、同時に胃袋を固定する手術をするのもいいかもしれません。
一方で、最近はまだ一部の病院に限られますが、腹腔鏡による避妊手術も受けられるようになりました。腹腔鏡手術とは、数mmの小さな数カ所の穴からカメラや鉗子(かんし)を挿入して行う手術です。通常の開腹手術と違って、傷口が小さくて済むのはもちろんのこと、痛みや身体への負担の少ない低侵襲医療の一つです。気になる方は導入している病院を調べてみましょう。

●去勢手術
去勢手術でも、精巣腫瘍、前立腺肥大、会陰ヘルニアなどを予防することができます。去勢をしていない場合、7歳ではほとんどの犬が前立腺が肥大化しています。血尿や頻尿などの泌尿器症状が出てしまう前に、去勢手術をすることをお勧めします。

3.「健康診断」による予防

どのような動物も、一度も病気になることなく生涯を終えることはまず不可能でしょう。どれだけ病気の予防を徹底していても、いつかは病気になってしまうものです。長生きするために重要な事は、病気にならない様にすることよりも、病気をいかに早く見つけ、治療に取りかかれるかにかかっていると言っても過言ではありません。人間でも病気の早期発見の重要性は周知されるところで、犬においてもその重要性は高いと診療をしながら日々痛感させられています。
動物は自分の体調の変化を言葉で伝えることができませんし、もちろん自分で病院に行くこともできません。そのため常日頃から様子を見て、実際に体に触って異常がないかを確認することが大切です。また、定期的に動物病院へ健康診断に連れて行くことは、健康管理を担う飼い主に課せられた一つの義務と言っていいかもしれません。
では、具体的に健康診断にはどの様なものがあるのか、またどの様な健康診断が病気の早期発見において効果的なのか確認していきます。

血液検査

一般的に、動物病院で広く行われている健康診断といえば、血液検査だと思います。少しの採血で、各種臓器の機能や障害度を計測することができます。メリットは、短時間の採血だけで全身的なチェックをすることができることや、検査結果が獣医師の経験に左右されない客観的なデータが取れることです。同時にフィラリア症の感染の有無も調べられるので、春先から初夏にかけての血液検査による健康診断はとても一般的なものになっています。もちろんその際、採血だけでなく目や口、リンパ節の腫れの有無の確認や聴診など、各種身体検査はあたり前のこと、問診による健康診断も欠かせません。

では、これだけで病気の早期発見が可能かというと、不十分と言わざるを得ないでしょう。例を一つあげると、腎臓の一般的な血液検査マーカーは、腎機能の80パーセントが失われないと異常値を示しません。二つある腎臓のうちの片方がまるまる癌に侵されていても、もう片一方が機能していれば、血液検査に異常は検出されないのです。その他の臓器の血液検査マーカーも、初期病変の存在を反映することはほとんどなく、末期にならないと異常値を示してくれません。
以上のことから、血液検査のみでは安心できないことがご理解いただけたと思います。

画像検査

ではどんな検査が病気の早期発見に効果的なのかというと、ずばり画像検査です。画像検査とはレントゲンやエコー検査、CTやMRI検査のことで、体の様々な部分の大きさ・形・色の濃さ・動き方などを、見た目で評価して健康かどうかを判断する検査のことです。
メリットは、病気の早期発見にとても効果的である事と、全身を隅々まで細かく観察できることです。一方、デメリットは、検査に少し時間がかかることや、獣医師の経験によって診断の精度が変わることでしょう。
一般的に動物病院で健康診断として行われる画像検査は、レントゲン検査とエコー検査です。レントゲン検査は内臓だけでなく、骨の評価をすることもできますし、エコー検査は各種臓器を内部まで、またその動きも併せて観察することができます。一部しか癌化していない腎臓を見つけることもできます。
わたしは自分が飼っている動物の健康診断をする際は、血液検査に画像検査を必ず追加するようにしています。7歳からは癌の発生率がぐんと上昇します。どうか早期発見のために、画像検査を含めた健康診断をしてあげてください。

4.「日頃からの注意」による予防

シニア期以降の健康への気遣いは、なにもお薬や病院に頼ることだけではありません。日常生活において必要な変更を施すことが、健康を保つ上で重要になってきます。

フードを切り替える

フードの切り替えは、比較的簡単に導入できる、手間のかからない方法と言えるでしょう。シニア期に入り体が衰えてくると、運動量が減ります。すると筋肉は衰え、基礎代謝が低下します。そのため、今までと同じ量のフードを食べさせていると、体重は増加してしまいます。肥満になるとさまざまな病気を引き起こすリスクが高まるため、シニア食に切り替えてカロリーを制限し、体重を適正域にコントロールすることが大切です。
シニア食には、メーカーによって違いはありますが、高齢犬でよく見られる関節炎や皮膚病などを予防するための成分が入っていることも多いです。好き嫌いせず問題なく食べてくれるなら、シニアフードへの切り替えをおすすめします。また、いきなり切り替えると腸がびっくりして下痢になることがありますので、今食べているフードに少しずつ混ぜ込むような形をとってください。徐々にシニアフードの割合を多くしていき、1〜2週間で完全に切り替わるようにするのが良いです。

新鮮で十分な量の飲み水を与える

フード以外にも、新鮮なお水をいつでも飲めるようにしてあげてください。脱水になると、腎臓病を始めさまざまな病気を引き起こします。
また、体重の減少は筋肉量の低下もありますが、脱水によることも多いです。日頃から飲水量や体重の測定をしておくことで、体調の変化にすぐ気づけるようにしておきましょう。

「老化かな?」と思う変化を感じた時の注意点

ここまで、老化に伴う病気の予防について述べてきました。当然ですが、予防はできても、老化そのものを食い止めることは残念ながらできません。7歳以降の犬には、例えば、寝てばかりいる、歩きたがらない、反応が鈍くなる、太る、目が白っぽくなる、尿もれをする、白髪が増えて艶がなくなる、口臭がきつくなるなど、徐々に変化が見られるようになっていくでしょう。命あるもの、それは致し方のないことです。
ただし、犬に起こる変化を、単なる老化と決めつける考え方には注意が必要です。なぜなら、老化と思しき兆候はすべて、病気によって引き起こされる諸症状にも当てはまるからです。行動や体質の変化を「老化」の一言で済ませてしまうと、病気の初期症状として現れていた合図を見過ごすことになり、貴重な治療の機会を逃してしまうかもしれなのです。
老化を見取ろうとする際に大切なのは、「自分一人で老化と判断しない」ということです。冒頭にも述べたように、動物は自分の体のことを飼い主に説明することができません。むしろ本能的に、体調が優れないことを隠してしまうケースすらあります。そのため、もの言えない動物の代わりに、大きな病気かもしれないと疑ってあげることも飼い主の大きな義務の一つです。気になる変化が現れたら、獣医師に相談することを心がけてください。

まとめ

シニア期の始まりとはいえ、7歳という時期はまだ大きな変化もなく、まさか大きな病気にかかるなどとは想像もつかないかもしれません。しかし、この年齢から命に関わる病気にかかりやすくなることはまぎれもない事実で、実際に癌で命を落としてしまう子をみる機会も少なくありません。なにより悔しいのは、早く気づいていれば完治させられたというケースです。後悔のないよう、物言えぬ動物に変わって日々様子を観察し、健康診断にも定期的に連れて行ってあげてください。犬は1年で人間の4倍歳をとるということを踏まえると、年2回の健康診断も多くないと思います。
また、最後にも述べた通り、犬の行動や体質の変化を「老化」と決めつけないでください。何かの病気であっても、老化と似た症状が出ることがよくあります。何か変化があれば、まずは獣医師に相談をするようにしましょう。
犬の寿命は伸びていますが、ご家族の方が正しい知識を持って、日々体調の変化を注意深く観察するだけで、病気の早期発見の機会は増え、平均寿命をさらに伸ばす事ができるでしょう。この記事をきっかけに、「なぜもっと早く気づけなかったのか」と後悔される方がひとりでも減り、愛犬との幸せな時間が少しでも長く続くことを心より願っています。
監修/平野太陽先生(右京動物病院SAGANO院長)

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