ここでは、犬と、犬を取り巻く社会がもっと幸せで素敵なものになるように活動している方々をレポートします。
今回は、動物病院でありながら元野犬だった保護犬を受け入れ、SNSを駆使して、譲渡まで行う、大師前どうぶつ病院の活動について紹介します。
元野犬をはじめとした数多くの保護犬たちの命を救い譲渡まで行う
東京都足立区にある大師前どうぶつ病院(以下大師前)は、保護活動を行う動物病院として、数多くの動物たちの命を救ってきました。2017年の開業以来、保護・譲渡してきた犬や猫は約150 頭に上ります。保護犬の多くは山口県から迎える元野犬というのも特徴で、大師前で手厚いケアをしたあと、おもにSNSやネットの譲渡サイトで、新しい飼い主さんへ譲渡しています。
院長の中島渉先生とスタッフの絵美さんご夫妻は、以前に勤務していた動物病院で出会い、お互い動物愛護への情熱があったことから意気投合したそう。その後お二人は結婚。保護活動にも力を注ぐ動物病院を開業することを目指し、2017年にその夢を実現しました。
保護犬もペットの犬もみんな幸せになれる動物病院
待合室は、光がいっぱい差しこむ開放的な空間にして「訪れる飼い主さんと愛犬が不安な気持ちになることなく、癒されるような動物病院にしたかった」と絵美さんは話します。
腫瘍認定医の資格ももつ夫の中島先生は、愛犬の深刻な病気に悩む飼い主さんの気持ちに寄り添った診断と診療を心がけ、また、動物病院を極度に怖がるような元保護犬の診察にも慣れていることから、さまざまなタイプの飼い主さんから厚い信頼を得ています。そして、一般の飼い主さんの診療を終えたあとに、院内で保護している動物たちの健康チェックや、病気をもっている犬の治療などを行うようにしています。そのため、いつも仕事が終わるのは午後10時を回るそうです。
「開業当初は、患者さんの数も少なく余裕があったため、一度に8頭の野犬の子犬を山口県から迎えたことも。最近は、なるべく無理のない頭数を迎えるようにして、譲渡につなげるようにしています」と中島先生。
そもそも、なぜ山口県から野犬を積極的に引き取ることになったのかを伺うと、「たまたま山口県に懇意にしているボランティアさんがいて、数多く生まれてくる野犬の子犬や、放浪する成犬の問題に必死に取り組んでいるのを、少しでも助けたかった」とのこと。とくに山口県周南市の野犬問題は全国ニュースになるほど深刻で、県内の行政や保護団体だけでは保護しきれず、県外からのサポートが不可欠になっているそうです。
「元野犬の保護犬は人に懐きにくく、怖がりで扱いが難しいといわれますが、適切な接し方をしていけば決してそんなことはないんです」と絵美さん。大切なのは『譲渡後、新しい家に慣れるまでは絶対に叱ったり、無理にトレーニングを行ったりしないこと』『子犬のうちはお留守番の時間はできるだけ短くして、常にそばにいるようにしてあげる』そして、『徐々に犬が心を開いて人を信頼するようになってから、トレーニングを開始する』のが鉄則だと絵美さんは言います。保護犬を譲渡したあとは、飼い主さんからの相談にはいつでも乗るようにして、丁寧なサポートを心がけてもいます。
次回は、大師前どうぶつ病院の日常と保護犬の魅力を伝えるSNSついてレポートします。
※保護犬の情報は2023年8月7日現在のものです。
出典/「いぬのきもち」2023年10月号『犬のために何ができるのだろうか』
写真/尾﨑たまき
写真提供/大師前どうぶつ病院
取材・文/袴 もな