ホントにあった、犬にまつわる事件簿を紹介!
この連載では、過去に実際に起こった犬がらみのトラブルと、それに対して裁判所から下された判決について解説します。同じような事件が起こった場合の参考になります。
今回ご紹介するのは、東京地方裁判所で平成28年1月19日に判決が出た事例です。
※この記事の解説は、ひとつの例にすぎず、まったく同一の解決・判決を保証するものではありません。個々の事件の判決については裁判所に、解決策はその当事者に委ねられます。
お話してくれたのは、渋谷 寛先生。
弁護士/渋谷総合法律事務所。ペット法学会事務局次長。動物の医療過誤訴訟を担当するなど、ペットと法律の問題に力を注ぐ。共著に『Q&A ペットのトラブル110番』(民事法研究会)など。
経営者の飼い犬に指を噛まれて、従業員が重症を負った!
従業員の待機場所まで犬が出入りできる状況だった
Aさんは従業員のなかでも特によくBさんの愛犬の世話をしていて、送り迎えをしたり、オスワリなどのしつけを行ったりしていました。ガソリンスタンドでの事務所の入り口近くには犬小屋が設置されていて、犬はそのそばの支柱につながれていました。従業員の待機場所もそのそばに設けられていて、つながれた犬が移動できる範囲内でした。ある日待機場所のイスに座っていたAさんが飲み物を取ろうと振り返って手を伸ばすと、その手に犬が激しく噛みつき、Aさんは右手中指を切断するという大ケガを負い、後遺症まで残ってしまいました。
愛犬が人によく噛みつく犬と知りながら、充分な危険防止策を講じなかったBさん。Aさんは、事故の責任はBさんにあるとして、慰謝料などの損害賠償を求め、Bさんと、ガソリンスタンドを経営するBさんの会社を訴えたのです。
Bさんの過失が認められたものの、無防備だったAさんにも一部過失が
裁判では、従業員の待機場所に移動可能な所につなぐだけでは、犬が人に噛みつく危険を防ぐのに不充分だったとして、Bさんの過失が認められました。しかし、噛まれる危険性を認識しながら、犬の近くで無防備に手を伸ばしたAさんにも過失があると判断。約980万円の損害賠償額からAさんの過失分の3割が減額されました。
雇用主に損害賠償約690万円の支払いが命じられた!
犬の社会化が不充分だと、さまざまなものを警戒し、今回の事例のように人に危害を与えてしまうことも。また、多くの見知らぬ人や車がそばを行き交う場所では犬は安心して過ごせず、常に周囲を警戒して攻撃性が高まってしまうこともあります。できるだけ早い時期からさまざまな人や物に慣れさせ、落ち着ける静かな居場所を用意することで安心感を与えて、穏やかな犬に育てましょう。
参考/「いぬのきもち」2017年4月号「ホントにあった犬の事件簿」
イラスト/macco