犬が吐くとストレス? それとも病気? などと心配になるかたも多いでしょう。そこで今回は、犬の嘔吐とストレスの関係や、犬のストレスの原因、危険な嘔吐の見分け方、嘔吐を症状とする危険な病気、犬が吐いたときの対処法などについて解説します。
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犬はストレスで吐くの?
犬の体には「自律神経」という神経があります。この自律神経には、交感神経と副交感神経があり、お互いがバランスを取りながら内臓の動きや血液の循環、呼吸の回数などをコントロールしています。
しかし、自律神経はストレスの影響を受けやすく、犬が何かしらのストレスを感じるとバランスが乱れてうまく働かなくなり、さまざまな不調が見られることが。その不調のひとつに、「嘔吐」が挙げられます。
犬は自律神経が乱れて胃の働きをコントロールできなくなると、嘔吐のほか、よだれがたくさん出る、食欲不振などの症状が見られるので注意しましょう。
どんなストレスを感じると犬は吐くの?
嘔吐などの体調不良の原因となる犬のストレスには、以下のようなものが挙げられます。
肉体的な苦痛
当然ですが、どんな理由があっても、体罰は絶対にしてはいけません。“飼い主さん=痛いことをする怖い人”と学習し、飼い主さんの存在そのものが犬のストレスになることが。また、長時間ゴハンや水を口にできない状況になると、犬は生命の危機を感じ、肉体的にも精神的にも大きなストレスを感じます。
精神的な不安・プレッシャー
犬はよく飼い主さんのことを観察しているため、家族間でケンカが起こると不安になり、ストレスを感じることが。また、苦手なしつけの練習を延々とさせられることも、犬にとっては大きなプレッシャーとなり、ストレスの原因となります。
犬らしい行動の制限(擬人化)
人の社会で暮らすためにしつけは必要ですが、ニオイかぎを一切させない、十分な運動時間を与えないといった“犬らしい行動”の制限はストレスの一因に。また、人の言葉だけでしつける、嫌がっているのに洋服を着せるなど、人としての振る舞いを要求するのも、犬にとってはストレスです。
不快な生活環境
寝床とトイレが近すぎる狭いハウスや、掃除を怠った不衛生な飼育環境などは、犬のストレスの原因に。また、寒い・暑い・床がすべって歩きにくいなどの環境も、犬にとってはとても苦痛になります。
環境の変化
犬は環境の変化が苦手な動物です。そのため、引っ越しをしたり、ペットホテルに預けられたりすると、ストレスを感じてしまうことが。また、飼い主さんの出産で家族が増える、新しい犬を迎え入れる、知らない人が家に来るといったことなども、犬のストレスになります。
長時間の留守番
長時間の留守番で不安や孤独を感じることも、犬にとってはストレスです。また、一日中一緒にいるなど、飼い主さんとの関係が密になりすぎると、犬はちょっとした留守番でさえも不安になり、ストレスを感じてしまうことが。
なお、留守番中に頻繁に嘔吐したり、問題行動を起こしたりする場合は、「分離不安症」という病気にかかっているおそれもあるので注意が必要です。次の章では、犬の分離不安症について詳しく見ていきましょう。
留守番中の嘔吐の原因? 犬の「分離不安症」とは
分離不安症とは?
飼い主さんと離れて過ごす不安から、精神的・肉体的に不安定になり、さまざまな問題行動を起こしてしまう病気です。
分離不安症の主な症状
【留守番中】
下痢・嘔吐/部屋の中を散らかす・ものを壊す(破壊行動)/トイレ以外の場所で排泄をする/遠吠え・出かけた後でも吠え続ける/自分の足などを噛む(自傷行動)など
【帰宅時・在宅中】
飼い主さんの帰宅時に興奮しておしっこをする(うれション)/いつも飼い主さんの後をついて歩く/飼い主さんの姿が見えなくなるとパニックになる/飼い主さんが外出しようとすると大きな声で吠えるなど
分離不安症の主な原因
分離不安症の原因は、「飼い主さんが帰ってこなかったらどうしよう」「留守番中に何か危険なことが起きたらどうすればいいの」という不安な気持ちです。
また、飼い主さんと強い依存関係にある犬は分離不安症になりやすく、そのほか、ネグレクトや過去の恐怖体験、環境の変化、加齢や認知症なども、分離不安症の原因として考えられています。
分離不安症の主な治療法
分離不安症は、犬の精神的疾患である「不安障害」のひとつですから、一度専門医に相談することをおすすめします。治療には、精神安定剤や向精神効果のあるサプリメントによる薬物療法に加え、問題行動を改善する行動療法を併用することが一般的です。
犬の「吐く」には3つの種類がある
犬は人に比べると吐きやすい動物です。これは、犬が四足歩行の動物で、胃が横向きになっていることが理由のひとつ。また、犬の「吐く」には「嘔吐」「吐出(としゅつ)」「嚥下(えんげ)困難」の3種類があり、それぞれ考えられる原因は異なるため、覚えておくといいでしょう。
嘔吐
食べてから時間が経った後に吐くことを、「嘔吐」といいます。吐いたものがある程度消化されているのが特徴で、胃液のみを吐くことも。嘔吐の場合、原因は胃や腸にあると考えられます。
吐出
食べ物を飲み込んで、すぐに吐き出すのが「吐出」です。吐いたものは消化されていません。何の前触れもなく起こったり、強く飛ばすように吐いたりするのが特徴で、原因は胃腸ではなく、喉や食道にあると考えられるでしょう。
嚥下困難
「嚥下困難」とは、食べたものを飲み込めずに吐きだしてしまうこと。上手く飲み込めていないので、吐出と同じように、食べ物は消化されずに出てくるのが特徴です。原因は口腔内や喉、食道にある可能性が考えられます。
犬の嘔吐物の色でわかることは?
犬が吐いたときは、嘔吐物の色や内容物などを観察することで、原因がわかることもあります。
透明~白い嘔吐物の場合
水・唾液・胃液は、基本的に透明です。これらを吐くときは、空腹やストレス、胃酸過多や逆流性食道炎などが原因として考えられます。
黄色~緑色の嘔吐物の場合
人もそうですが、胆汁は黄色や緑色をしています。空腹によって胆汁が逆流した場合や、胃腸の働きが悪くなっているのが原因として考えられます。
ピンク色~薄い赤色の嘔吐物の場合
ピンク色~薄い赤色をした嘔吐物が出たときは、血液が混じっている可能性が高いです。口の中が切れているだけならあまり問題がありませんが、食道炎になっているおそれもあるので注意しましょう。
濃い赤色~赤黒い・黒い嘔吐物の場合
この色の嘔吐物の場合、血液と思ってほぼ間違いありません。胃潰瘍(いかいよう)や腫瘍、胃の粘膜からの出血などが原因として考えられます。なかでも嘔吐物が黒いときは、危険度が非常に高いといえるため、すぐに動物病院を受診してください。
犬の危険な嘔吐の見分け方
先述の通り、犬は比較的吐きやすい動物なので、「吐いた=病気」とは限りません。しかし、吐く回数や状態、吐いたものなどによっては、すぐに治療が必要になるケースもあるため、飼い主さんの判断が重要になってきます。
少し様子を見てもいい場合
- 起床時に透明なものを吐くなど、空腹で吐いたと考えられる場合
- 早食いしたあとに未消化のフードを吐き出した場合
- 乗り物酔いが原因で吐いたと考えられる場合
- 吐いた後でも元気があり、その後も吐く様子がない場合 など
これらの場合は、安静にさせてしばらく様子を見ていてもOKです。ただし、少しでもいつもと様子が違う場合、また、繰り返す場合は、すぐに動物病院を受診するようにしてください。
すぐに動物病院に行ったほうがいい場合
- ぐったりしていて明らかに元気がない
- 誤飲や誤食をした可能性がある
- 発熱や下痢など、嘔吐以外の症状がある
- 1日に何度も嘔吐する
- 嘔吐物に血が混じっている
- 嘔吐物から、便臭などの異臭がただよっている など
このような場合は、犬が病気にかかっている可能性が高いため、すみやかに動物病院を受診しましょう。その際、嘔吐物を容器に入れて持参すると、診察の手助けになることもあります。難しい場合は、写真を撮っておくのもよいでしょう。
嘔吐を症状とする主な犬の病気
嘔吐を症状とする犬の病気は非常に多く、挙げればきりがありません。しかし、以下のような病気は緊急性が高いため、注意が必要です。
胃拡張・胃捻転症候群
胃の中でガスが大量に発生すると胃が膨らみ(胃拡張)、その影響で胃がねじれてしまう(胃捻転)ことが原因で発症する病気です。嘔吐のほか、ゲップや痛みなどの症状があり、放置すると内臓の壊死や多臓器不全で死に至ることも。
大型犬に多く見られる病気で、加齢やストレス、食後の急な運動、食べ過ぎ、早食い
などが原因として考えられます。命に関わる緊急性の高い病気のため、一刻も早く動物病院を受診しましょう。
ウイルスや細菌による感染症
犬がウイルスや感染症にかかると、嘔吐の症状が見られることがあります。犬がかかる感染症には、コロナウイルス性腸炎やレプトスピラ症、犬パルボウイルス感染症などがあり、どれも最悪の場合死に至る危険な病気です。
しかし、これらはいずれもワクチンで予防できますので、愛犬の命を守るためにも、必ず予防接種を受けるようにしましょう。
胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)
胆嚢粘液嚢腫は、胆嚢内にゼリー状の粘液(ムチン)が過剰にたまることで胆嚢が拡張し、胆汁の分泌障害や胆嚢破裂を起こす病気です。早い段階では症状が出にくく、飼い主さんが見逃しやすい病気ですが、進行すると嘔吐や食欲不振、黄疸の症状が出ることもあります。
ミニチュア・シュナウザー、ポメラニアン、ビーグル、シェットランド・シープドッグなどの犬種は発症しやすいといわれているので、年に1回のエコー検査を受けるなどして対策しましょう。
誤食・誤飲
病気とは少し違いますが、うっかり異物を飲み込んで腸閉塞などを起こすと、嘔吐することがあります。また、ねぎ類やチョコレートなど、犬にとって毒になるものを誤って食べてしまうと、中毒を起こして嘔吐することも。どちらの場合も大変危険ですので、すみやかに動物病院を受診してください。
そのほか、犬はすい炎や胃腸炎といった消化器系の病気や、腎臓や肝臓の病気などが原因で吐くことが多いです。どの病気も放置すると危険ですので、早めの受診を心がけましょう。
犬が吐いたときの対処法
犬が吐いた後は、基本的には半日くらい飲まず食わずで、安静に過ごさせましょう。吐き気がおさまっているようなら、水や消化のよいものから少しずつ与えてみてもいいでしょう。お腹が空いているだろうと、いきなりたくさん食べさせてしまうと、また吐いてしまうおそれがあるので要注意です。
繰り返しになりますが、危険と思われる吐き方をした場合は、なるべく早く動物病院を受診してください。「ちょっと心配だけど、どうしようかな……」と悩んだときは、かかりつけの獣医師に電話をするなどして、指示を仰いでみてもいいでしょう。
ただの嘔吐と見過ごすのはNG!気になることがあれば動物病院へ
犬の嘔吐は、状況によっては危険を伴うことも少なくありません。心配な場合は自己判断することは避け、かかりつけの獣医師に相談しながら、適切な対処をするようにしましょう。
参考/「いぬのきもち」2016年10月号『そのしぐさで早期発見してあげて“なにか変!?”で気づく愛犬の病気』
「いぬのきもち」2017年2月号『手遅れになる前に発見したい!飼い主さんが気づきにくい犬の病気15 ドッグドック体験レポートつき』
監修/いぬのきもち相談室獣医師
文/ハセベサチコ
※写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。