ホントにあった、犬にまつわる事件簿を紹介!
過去に実際に起こった犬がらみのトラブルと、それに対して裁判所から下された判決について解説します。同じような事件が起こった場合の参考になります。
今回ご紹介するのは、東京地方裁判所で平成27年3月19日に判決が出た事例です。
※この記事の解説は、ひとつの例にすぎず、まったく同一の解決・判決を保証するものではありません。個々の事件の判決については裁判所に、解決策はその当事者に委ねられます。
お話してくれたのは……渋谷 寛先生
弁護士/渋谷総合法律事務所。ペット法学会事務局次長。動物の医療過誤訴訟を担当するなど、ペットと法律の問題に力を注ぐ。共著に『Q&A ペットのトラブル110番』(民事法研究会)など。
交通事故で脊髄損傷になり、車いすに!
犬1頭・猫3頭のために毎日ペットシッターを呼んでいた
事件が起きたのは、交通量の多い高速道路。合流路から侵入してきたBさんの車がAさんの車に接触し、その衝撃で、Aさんは脊髄損傷を起こしてしまいます。事故後も、Aさんにはしびれや麻痺などの後遺症が残り、車いすでの生活を余儀なくされました。入退院や、リハビリのための通院が続いたAさんは愛犬1頭と愛猫3匹のお世話を、ペットシッターにお願いします。ひとり暮らしで、ほかにお世話を頼める人がいなかったAさんのペットシッター代はふくれ上がり、裁判で請求したペットシッター代は、なんと595万円にのぼりました。
事故後から症状固定の間のみ、ペットシッター代を認めた
ペットシッター代のほかにも、治療費や車いす代など、各種の損害請求が行われた裁判。争点になったのは、Aさんの後遺症の程度でした。Aさんは、上半身の麻痺のために複雑な動作がしにくくなったと主張しましたが、裁判所は、Aさんが携帯電話の操作など、ある程度複雑な行動もできていたという証言を採用。ペットシッター代に関しても、事故後から症状固定(症状が回復も悪化もしなくなること)までの期間の、1日1時間に限り、計157万円あまりの代金ぶんだけ認めると判断しました。ただし、Aさんにはすでに保険会社から4100万円あまりが支払われており、損害賠償額をすべて合わせてもその額を下回るため、Aさんのこの裁判での請求は認められませんでした。
判決は……157万円あまりにかぎり、事故に関係のある損害として認められた
飼い主さんが万一の事故にあったり、病気にかかったときに、気になるのが愛犬のお世話。とくに、このケースのようにひとり暮らしの飼い主さんは、いざというときのために、信頼できるペットサービスや、愛犬のお世話をしてくれる知人を日ごろから見つけておきましょう。
参考/『いぬのきもち』2016年5月号「ホントにあった犬の事件簿」
イラスト/別府麻衣