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犬の「アナフィラキシー」の危険性とは? 原因、症状、対処法を獣医師が解説
「アナフィラキシー」という言葉を耳にする機会が増えているかと思いますが、犬のアナフィラキシーがどういうものかを知っていますか?
犬のアナフィラキシーは何が原因なのか、どのような症状が見られ、どのような危険性があるのか、いぬのきもち獣医師相談室の先生が解説します。
犬のアナフィラキシーとは?
アナフィラキシーとは、アレルゲンの体内への摂取に伴って免疫系が過剰に刺激され、それに伴うさまざまな症状がみられる免疫反応の一種です。食べる、吸い込む、触れる、刺されることなどによって、アレルゲンが体内に入ります。
アレルギー症状の中でも、アレルゲンの摂取直後から数十分以内という短時間のうちに全身性に、そして急速にアレルギー反応に伴う諸症状が発症する状態を指します。
アナフィラキシーは、発症そのものがごく稀ではあるものの、通常のアレルギー反応とは発症後の症状の悪化の速度が全く異なり、とても早く進行するのが特徴です。
また、症状が急速に重症化することも少なくないため、発症後は速やかに、適切に対応しないと命にかかわる場合もあるため、注意が必要です。
犬のアナフィラキシーの症状とは?
アナフィラキシーに伴う主な症状としては…
などが挙げられます。嘔吐や下痢などの消化器の症状が見られることも稀にありますが、実際には急速な皮膚や粘膜の症状、血圧の変化がまず起こりやすい傾向があります。
顔の腫れについて
顔の腫れの症状は、顔の皮膚全体が腫れて厚みが急速に増し、輪郭や顔貌(顔の姿)が全く変わってしまうほど大きな変化をする症状です。
まぶたの強い腫れで目をきちんと開けない様子になったり、鼻先(マズル)や上唇が腫れあがって別の犬に見えるくらいに、顔の形が変わるような変化をすることもあります。
症状の進行は、顔全体がごく短時間で急速に腫れる場合もあるものの、まずまぶたや唇など、粘膜の境目に近い部位から部分的に症状が出始め、時間の経過とともに徐々に顔全体に症状が広がる経過をたどることもあります。
特に症状の出始めのタイミングでは、まずまぶたの症状が目立って見えることもあるため「まぶたの縁の不自然な盛り上がり」や「目の開きにくさ」として、変化に気づく場合もあります。
気道の腫れについて
気道の腫れは、外見からだとなかなか直接気づきにくい症状ですが、気道内の粘膜の腫れに伴って空気の通る部分が狭くなるため、呼吸のしにくさの症状が強まる傾向があります。
パンティングなどの呼吸の粗さやゼイゼイするような喉鳴り、咳やえづく様子が見られることもあり、さらに悪化すると呼吸困難に至るため、注意が必要です。
膨疹(蕁麻疹)について
膨疹(蕁麻疹)は、通常の湿疹とは異なりきれいな円形ではなく、ゆがんだ水玉模様のような赤い斑点状の盛り上がりが、皮膚の広範囲に広がるようにあらわれる傾向があります。特に、お腹などの皮膚の薄い部位に目立って見られることもあります。
被毛に隠れて見つけにくい場合もありますが、通常は痒みや違和感を伴う場合が多く、体をしきりに引っ掻く素振りから気づく場合もあるでしょう。
血圧の低下について
血圧の低下の症状が起こった際には、急激にぐったりし、舌や口の中の粘膜の色が白っぽく変化し、薄い紫色になるなどの症状が見られます。
アナフィラキシーの諸症状の中でも、特に血圧の低下が見られた場合は、その後急激にショック症状に至る場合がほとんどですので、より迅速な対応や手当が必要になります。
犬のアナフィラキシーショックとは?
また、アナフィラキシーの症状が見られた際には、その後続けて、もしくは同時に「アナフィラキシーショック」という症状が起こる場合があります。
これは、先述のアナフィラキシーの諸症状に続けて、急速なショック症状が起こる状態です。具体的には…
といった症状があらわれます。
ショック症状を起こした際にも、もちろんすぐに適切な手当てをする必要がありますが、適切な手当てをしたとしても命にかかわる場合もあります。
そのため、アナフィラキシーを疑う症状が見られたら、まずは速やかに適切な手当てを受け、さらなる症状の悪化を防ぐ対応がとても重要になります。
アナフィラキシー発症の要因は?
アナフィラキシー発症の要因としては、理論上は通常のアレルギーと同様に、アレルギー症状を起こすきっかけになる物質「アレルゲン」を体内に取り込むことが、発症のきっかけになります。
そういった点からは、口にする食べ物、吸い込む可能性のある環境中の微細な粒子、投薬やワクチン接種、毒のある昆虫による刺傷、毒のあるヘビによる咬傷など、生活環境の中のさまざまなものが発症の要因になる可能性があると言えるでしょう。
ただし実際の症例としては…
といったこともあるため、アナフィラキシーの原因となるアレルゲンについて正確に特定できない場合も、少なくないものと思います。
犬にアナフィラキシーの症状が見られたときの対応は?
愛犬にアナフィラキシーを疑うような症状が見られたら、比較的元気な様子であっても、速やかに動物病院を受診し、適切な手当てを受けましょう。
特に、血圧の低下やアナフィラキシーショックの場合など、愛犬が急にぐったりする症状がすでにある場合は、その後急速に状態が悪化し、死に至る危険性もある状態と考えます。このような際には、とりわけ迅速に動物病院を受診しましょう。
様子を見てしまうと、後で症状が悪化する場合も
血圧低下やアナフィラキシーショックなど、ぐったりする様子を伴う場合以外の症状の際には、「気づいたらすでに症状が出ていた」など、発症の正確なタイミングがわからないケースも実際にはあるかと思います。
また、膨疹や顔の腫れなど、アナフィラキシーを疑う諸症状はあるものの、見た目にはぐったりする様子もなく、元気に見える場合もあるかもしれません。
そのような状況であっても、そのまま様子を見るのは愛犬の体に負担をかけ、後に症状が悪化する危険も伴います。症状のさらなる悪化やショック症状の回避のため、気になる症状がある際には、やはり速やかにアナフィラキシーに対する適切な治療を受けることが求められます。すぐに動物病院を受診しましょう。
アナフィラキシーを起こしやすい犬に特徴はある?
アナフィラキシーを起こしやすい傾向がある犬については明確な定義などはなく、また元々アレルギー体質がない犬でも、突然発症する場合もあります。
ただし、特定のアレルゲンに対してアナフィラキシーを起こしたことがある場合は、以後もそのアレルゲンに対して、アナフィラキシーを起こしやすいリスクが考えられます。そういった点からは、過去にアナフィラキシーを起こしたことのある犬は、より慎重な対応が求められます。
アレルギー体質の犬は注意して見てあげよう
また、アナフィラキシーは「食事性アレルギー」などほかのアレルギー性疾患とは細かな発生のメカニズム異なるものの、やはり愛犬自身の免疫機能が関わるアレルギー反応の一種でもあります。
そのため、愛犬に元々アレルギー疾患などの体質がある際にも、念のため体調の変化をよく見てあげるほうが安心かと思います。
特に新しく接触するものや口にするもの、初めての薬を使用する際などには、その後の体調の変化がないか、飼い主さんが気にかけてあげる習慣を持つとよいでしょう。
「突然、アナフィラキシーを発症する可能性がある」と覚えておこう
本来アナフィラキシーは、発症の可能性が高い疾患ではないため、アナフィラキシーの症状を経験することなく生涯過ごせる犬も、実際には少なくないことだと思います。
しかし、「突然、アナフィラキシーを発症することがある」ということを飼い主さんは心に留めていただき、実際に気になる症状がないかどうか、個々の犬ごとに日頃から気をつけてあげるようにしましょう。
犬のアナフィラキシーは予防できるの?
特定のアレルゲンに対してアナフィラキシーを起こした経緯がある場合は、そのアレルゲンを避ける対応で、以後のアナフィラキシーの予防をします。
正確なアレルゲンまではわからないものの、特定の状況でアナフィラキシーの症状が起こった経緯がある際にも、その状況そのものを避けて症状がでないように配慮する対応が求められます。
また、避けるのがどうしても難しい場合や、アレルゲンが不明な状況で症状を繰り返してしまう場合などは、万一の際の症状を抑える対応や治療について、あらかじめかかりつけの病院で確認や相談をし、できる準備をしておく場合もあるかと思います。
アナフィラキシーを起こしたことがない犬への予防は?
今まで一度もアナフィラキシーを起こしたことがない愛犬に対しては、過剰に心配しすぎる必要はないものの、万が一アナフィラキシーが起こった際には、より速やかに適切な治療を受ける対応がとても重要になります。
そういった点からは、飼い主さんがアナフィラキシーの諸症状についてまずはきちんと知り、心配な症状が見られた際により速やかに対応できるよう、生活の中で無理なくできる範囲の工夫や準備をしておくことがおすすめです。
ワクチン接種の際は接種日程を考慮しよう
たとえば、定期的なワクチン接種の際には、午後と次の日も動物病院に受診が可能なようなスケジュールをあらかじめ整えておきましょう。
実際の接種は午前中に受けるなどの配慮をすることで、万が一、接種後のアナフィラキシーやその他の不調が起こった際にも、相談や受診がしやすくなります。
犬に刺激を与えてしまうスプレーや煙の使用を控えよう
日常生活の中でできることとしては、スプレー状の製品や煙の出るものなど、愛犬にとって刺激になってしまう可能性のあるものは、心配があるようなら使用そのものを控えるなどの配慮をしましょう。
散歩中に起こりうるアナフィラキシーを避ける対策は?
また、お散歩中に起こりうるアナフィラキシーのリスクを下げる対応としては、草むらなどの場所を避けたり、ハチなどに刺されないように気をつけるといった対応になります。
しかし、あまり行動を制限しすぎると愛犬のストレスになってしまう可能性もあるため、その点に対する飼い主さんの思いやりも大切かと思います。
アナフィラキシーを避ける対応は、飼い主さんと愛犬とがお互いにつらくなく受け入れやすい範囲で実施し、それと合わせてお散歩後には愛犬の様子に変わりがないか、その都度確認してあげるとよいでしょう。
もしものときのために、夜間救急やかかりつけ以外の病院も調べておこう
万が一の際に対応をしやすくする準備としては、夜間やかかりつけの動物病院の休診日などに受診できる病院について、あらかじめ調べておくことをおすすめします。アナフィラキシーだけでなく、さまざまな不調の際にも早めの対応ができるので安心です。
(監修:いぬのきもち・ねこのきもち獣医師相談室 担当獣医師)
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
取材・文/sorami
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