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【獣医師監修】犬の乳腺腫瘍の治療としこりの見つけ方、手術しない選択肢は?

犬の乳腺腫瘍は良性と悪性の確率が50%でメス犬の発生率が多い病気です。悪性の場合、早期発見とステージが低い段階での切除手術が予後に大きくかかわってきます。腫瘍科の獣医師が、乳腺腫瘍の治療方法やしこりの見つけ方、手術をしない選択についても解説します。

綿貫 貴明 先生

 獣医師
 相模原プリモ動物医療センター第2病院副院長

 日本大学生物資源科学部獣医学科卒業

●資格:獣医師/獣医腫瘍科認定医II種

●所属:日本獣医がん学会

●主な診療科目:一般診療(外科・内科)/腫瘍科/整形外科

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犬の乳腺腫瘍はどんな病気?原因は?

【獣医師監修】犬の乳腺腫瘍の治療としこりの見つけ方、手術しない選択肢は? いぬのきもち
makotomo/gettyimages
最初に、犬の乳腺腫瘍がどのような病気なのか、その原因についてみていきましょう。

乳腺腫瘍とは

乳腺腫瘍は、犬に5対ある乳腺の一部や乳腺の周辺にしこりが発生する病気です。良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)があり、それぞれの確率は50%だといわれています。

悪性の場合は、肺や脳などに転移して命に関わることもありますし、良性であっても徐々に大きくなって破裂したり、悪性に変わるケースもあります。

しこりは形や大きさ、硬さなどの進行具合もさまざまで、小さいものから急に大きくなるものまであり、どの段階でも良性腫瘍と悪性腫瘍の両方の可能性があります。しかし、見た目だけでは判断できないことも多いので、しこりが見つかった時点で早期の治療が必要となります。

乳腺腫瘍の原因となりやすい犬の特徴

犬の乳腺腫瘍の直接的な原因は不明ですが、卵巣から分泌される女性ホルモンが大きく関わっていることがわかっています。

このことから、メス犬の場合、避妊手術を行っていない(卵巣から女性ホルモンが分泌されている)高齢犬や出産経験のある犬は発生率が高くなるともいわれています。ただし、オス犬でも乳腺腫瘍ができる場合があります。

乳腺腫瘍の症状

秋にジャンプする犬
Vincent Scherer/gettyimages

乳腺付近のしこり

乳腺付近にできる腫瘍は他にも種類があり、また、乳腺腫瘍にも良性と悪性がありますが、大きさや外見、触診からは腫瘍の種類を特定することができないため、摘出して組織の病理検査を行う必要があります。

愛犬の乳腺付近に、皮膚表面ではなく乳腺のある皮下に1㎝程度の硬いコリっとしたしこりを見つけたら、乳腺腫瘍を疑い、動物病院を受診することが大切です。

乳腺腫瘍は、しこりの形や硬さ(硬い/軟らかい)、発生場所(皮膚表面/皮下)、自壊(皮膚が破れたり、炎症や化膿を起こしている状態)の有無、固着(腫瘍が周囲組織である皮膚や筋肉にくっついて離れない状態)の有無、腫瘍が成長する速度など、発生の仕方はさまざまです。

最初は指先ほどの小さいものでもそのままにしておくと徐々に大きくなり3〜5cm以上になることもありますが、大きくなればなるほど完治しにくくなるのは他の腫瘍と同じです。

また、約半数は多発する傾向にあるので、しこりをひとつ見つけたら乳腺全体をよく触ってみて他にもしこりがないかをチェックしたほうがよいでしょう。

良性の場合

良性の乳腺腫瘍は、一般的にしこりの摘出としこりのある乳腺の切除手術を行うことで完治(根治)します。

悪性の場合

悪性の乳腺腫瘍は、しこりと乳腺の切除を行いますが、発見や治療の開始が遅いと、すでにリンパ節や肺に転移が起こっているケースもあり、手術後に抗がん剤治療を行う場合もあります。

悪性の場合は、しこりが急に大きくなったり、破裂(自壊)する場合もあります。また、しこりがある状態を放置していると腫瘍が多発したり、巨大化して手遅れになると余命に関わることもあるため、乳腺付近のしこりを見つけた段階で、放置せずに治療を開始する必要があります。

その他にも、悪性の中には、乳房の出血や痛みを伴いながら急速に症状が進行する炎症性乳癌があります。炎症性乳癌は乳腺炎と間違われやすく、手術も不適応で死亡率が高いので注意が必要です。

転移をしている場合

乳腺腫瘍は、ひとつの乳房だけでなく複数の乳房付近に多発的にしこりが発生することもありますが、悪性の場合、がんが肺やリンパ節、臓器などに転移をする「遠隔転移」を起こすこともあります。

この場合は、リンパ節が腫れたり、胸水や腹水が溜まるといった症状もみられます。乳腺腫瘍は肺転移やリンパ節転移を起こしやすいといわれているので注意が必要です。

乳腺腫瘍の治療法

【獣医師監修】犬の乳腺腫瘍の治療としこりの見つけ方、手術しない選択肢は? いぬのきもち
乳腺腫瘍の切除手術前の様子
写真/プリモ動物病院提供

経過を観察する場合

診察では、しこりを発見した現時点での大きさや形、硬さ、皮下で動くか動かないか(皮下の筋肉とくっついているか)、出血があるかなどを確認しますが、どんどん大きくなっていないかなど経過を観察しながら、獣医師と話し合って手術を行うタイミングを検討するとよいでしょう。

手術前の事前検査

手術前は、レントゲン検査や超音波検査で転移の可能性の確認と、血液検査など一般的な手術前の検査が行われます。

乳腺腫瘍は良性と悪性の確率が50%となります。このため、術前に針を使ってしこりの細胞をとる細胞診検査では正確な検査ができないため、通常は行われません。

手術で摘出

【獣医師監修】犬の乳腺腫瘍の治療としこりの見つけ方、手術しない選択肢は? いぬのきもち
犬の乳腺腫瘍における外科手術の場合の切除範囲の一例
写真/プリモ動物病院提供
乳腺腫瘍の手術は、しこりだけ切除する方法、1つの乳腺を切除する方法、隣接する2〜3つの乳腺を切除する方法、片側すべての乳腺を切除する方法などがあります。

術式(手術範囲)は、術前に悪性度の予測をして決定しますが、腫瘍のサイズ、増大速度、筋層への固着、自壊の有無、転移の有無であったり、発生部位や個数も考慮します。

手術後は、痛みから患部を舐める犬もいるので、エリザベスカラーを付けたり、腹巻のような服を着せて傷跡をカバーすることもあります。自分で縫合糸を舐めとってしまう子もいるので、抜糸までは注意をしながらケアしてあげてください。

病理検査で確定診断

手術で切除した腫瘍に対して、良性か悪性かの確定診断を行うためには、手術での腫瘍の切除と摘出した部分の病理組織検査が行われます。

化学療法や放射線治療が行われることも

しこりが悪性の乳腺腫瘍であった場合は、症状に応じて抗がん剤を用いた化学療法や放射線治療が行われることもあります。

手術をしないで温存する場合

乳腺腫瘍は、一般的に良性と悪性の確率が50%であるため、手術そのものについて悩む飼い主さんも多いようです。

しかし、乳腺腫瘍の治療は、外科手術が第一の選択肢となります。他に方法はないため、まだ小さなしこりだからと何もしないのではなく、小さい内に切除したほうが体への負担が少ないでしょう。

ただし、高齢犬(老犬)や持病による麻酔のリスクがある場合や症状が進行していて手遅れである場合は、獣医師と相談の上で予後を過ごす選択もあります。炎症性乳がんは予後が悪く手術の適応にならないため、緩和ケアが行われます。

乳腺腫瘍の予防

犬の腹に手を引っかけます
Vera Aksionava/gettyimages

避妊手術を行う

メス犬の場合、初回発情の前に避妊手術を行った場合では乳腺腫瘍の発生が低くなるといわれています。

ただし、2回目以降の発情を迎えたから、今から手術しても無駄ということはありません。避妊手術を行う時期が遅くなればなるほど、乳腺腫瘍だけでなく卵巣や子宮の病気のリスクも高くなるので、できるだけ早く避妊手術を行うことをおすすめします。

早期発見のために乳腺をチェックする習慣を

犬の乳腺腫瘍は、小さなしこりでも悪性である可能性があります。このため、早期発見・早期治療を行うことが大切です。

乳腺のしこりに一番早く気がつけるのは、毎日近くにいる飼い主さんです。乳房や乳首の近く、お腹付近にしこりのようなものはないか、乳房を観察するだけでなく触って確認する習慣をつけましょう。

犬の乳腺は5対あるので、全ての乳房に触れてしこりがないかのチェックを行い、異変に気がついたらできるだけ早く動物病院を受診することが大切です。皮膚表面だけでなく深い部位を意識しながら、広い範囲を触ってチェックしましょう。

犬の乳腺腫瘍の再発率

犬の乳腺腫瘍は再発することがあります。病理組織学的には、犬の乳腺腫瘍は50%が良性で50%が悪性とされています。しかし、実際に悪性の挙動(増殖や転移をしたり体に影響を与えること)を示すのはさらにその半分で、全体の25%の症例が再発したり他の部位へ転移するとされています。

また、手術後に残った乳腺での新たな腫瘍の発生は、実際のところ悪性だった例が38〜73%、良性だった例で25〜50%ともいわれています。

以前に良性のしこりと診断されていても、他の乳房に別のしこりができた場合は早めにかかりつけの獣医師に相談しましょう。

乳腺腫瘍の気になるQ&A

犬の頭をなでて
Yuki KONDO/gettyimages

Q:犬の胸のしこりが大きくなるスピードはどれくらい?

乳腺腫瘍は良性の腫瘍で、長年そのままの大きさか徐々に大きくなる程度のものから、悪性の腫瘍で1〜2週間、1ヶ月でみるみる大きくなるケースもあるので一概にはいえません。できるだけ早く動物病院を受診しましょう。

Q:避妊手術と乳腺の切除手術を同時にすることがあるというのは本当?

避妊手術を行っていない犬の乳腺にしこりがあって、手術を行う場合、しこりの切除手術と同時に避妊手術を行うこともできます。また、良性乳腺腫瘍において、腫瘍切除と同時に避妊手術をすることで、新たな腫瘍の発生リスクを53%減少できたことが示されています。

ただし、しこりや乳腺の切除する範囲が広い場合や発情中、子宮の疾患がある場合などは、手術のリスクや犬への負担が大きく手術できない場合もあります。

どの手術を優先して、どのタイミングで治療や避妊手術を行うかは、かかりつけの獣医師と話し合った上で決められるとよいでしょう。

また、乳腺腫瘍のことだけでなく、避妊手術を行っていない犬は、子宮蓄膿症や卵巣など病気になるリスクが高まるため、今後出産の予定がないのであれば早期に避妊手術を行うことをおすすめします。
監修/綿貫貴明先生(相模原プリモ動物医療センター第2病院副院長)
※記事と一部のイメージ写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
文/maki
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