犬と暮らす
UP DATE
【いぬのきもち|Q&A】犬を多頭飼いする前に知っておきたいメリット・デメリット
犬の多頭飼いが増加傾向にある昨今、多頭飼いをしようと思っている人、または憧れている人など多いことでしょう。また、急遽、保護犬を引き取ることになったなど、意図せず多頭飼いをすることになるケースも少なくありません。安易に飼い始めて「失敗した」という結果にならないよう、多頭飼いの注意ポイントを専門家に解説していただきました。
石田 陽子 先生
石田ようこ犬と猫の歯科クリニック院長
麻布大学獣医学部獣医学科卒業
●経歴:ぬのかわ犬猫病院本院副院長/ぬのかわ犬猫病院中田分院院長 など
●資格:獣医師
●所属:日本小動物歯科研究会/比較歯科学研究会/日本獣医動物行動研究会
飼い主さんにとっての多頭飼いのメリットとは?
・ペットロスが起きにくくなる
・愛犬それぞれがもつ個性を実感できる
・世話や犬たちとのふれあいを通して家族の絆が深まる
・規則正しくリズムのある生活が、より送りやすくなる
現在、ペットロスは大きな社会問題となっています。いいタイミングで新たな1頭を迎えることは、解決策のひとつになります。また、複数の愛犬が人を癒し、気力と元気を与えてくれたケースも。子どものいる家庭にとって、命の尊さを学ぶ絶好の機会にもなります。
犬にとっての多頭飼いのメリットとは?
ただし、犬は群れで生きる動物だからと多頭飼いを考えるのは間違いです。確かに犬は群れ意識を本能的にもっているものですが、現在の家庭犬はそうした遺伝子から遠ざかっており、人との結びつきをより重視しています。ですから、犬にとっては、飼い主さんやその家族と過ごすことが「群れ」というわけです。
多頭飼いのデメリットとは?
飼い主さん側、先住犬側のどちらも“余裕”があってこそ、新たな犬を迎えて、新たな暮らしをつくり上げることができるというもの。まずは、次の項目で、多頭飼いができるかどうか、チェックしてみてください。すべてにチェックがつけば、多頭飼いはうまくいくでしょう。
●飼い主さんについて
□個々の犬としっかり向き合える時間がつくれる(しつけ、個別に散歩など)
□妊娠中や出産直後ではない
□メインで世話をする人が高齢者(65才以上)ではない
□仕事などで、長時間家をあけない
□1頭につき1つのケージなど、個別の空間を与えられる
□費用面でもとくに心配がない
□周囲といちいち比較しない
□特定の人や犬をひいきしない
□散歩や世話は、子ども(学生)に任せず、基本大人が行う
□肉体的、精神的に、人と犬とが健康的な関係を築ける(世話に欠ける、ムラが出る心配がない)
□近所にかかりつけの動物病院がある
□車(免許)を所有し、何かあったらすぐ移動できる
□災害などが発生した場合、愛犬たちを連れて避難できる場所がある
□犬をサークルに入れる意味を理解している(かわいそうだとは思っていない)
●先住犬について
~基本的なしつけなどに関して~
□トイレトレーニングが完了している
□あま噛み、ムダ吠え、噛みつき、破壊行動がない
□クレートトレーニングが完了している
□首輪やリードをつける、お手入れされるのを嫌がらない
□人の食事には無関心でいられる
~外での行動、性格面~
□散歩中、飼い主さんの行く先をともに歩ける(自分の行きたい方向に引っ張らない)
□拾い食いをしない
□すれ違う車やバイクに吠えかからない
□ほかの犬に吠えかからない、怖がらない
□人を過剰に怖がらない
□ストレス反応が顕著に見られない
□飼い主さんのコントロールがしっかりきく
多頭飼いを始める前に聞いておきたい疑問のあれこれ
Q.多頭飼いに向いている犬種、向いていない犬種ってあるの?
A.向いているかどうかは個体差次第なところも。原始的な犬は難しいことも。
ラブラドール系などの洋犬はフレンドリーで、多頭飼いの深刻なトラブルを起こすケースは少ない傾向にあるようです。ただし、基本的なしつけができているのが前提で、個体差もあります。しかし、原始的な犬種は、悪いという意味ではないのですが、テリトリー意識が強いため、難しい場合もあります。
Q.性別は、犬同士の相性に関係あるの?
A.大いにあります。難しい組み合わせも。
できれば避けたいのは、同性の組み合わせです。とくにオスは男性ホルモンの関係で、縄張り意識や所有意識、警戒心が強まる傾向が多く、ケンカを吹っかけ合う「同種間攻撃行動」が起こりやすくなります。また、メス同士も互いに排他的になる傾向があります。多頭飼い初心者なら、去勢を済ませたオスメスの組み合わせが安心かもしれません。
Q.先住犬と新しく迎える犬の年の差はどのくらいがいいの?
A.世話や将来の介護を考えると3~4才離れているのが理想
犬の年齢が近いと、介護やその先の別れの時期が重なってしまう場合も。個体差にもよりますが、3~4才離れていれば飼い主さんの負担も分散できます。なお、7才差以上などあまりにも年齢が離れていると、運動量や活動量も大きく異なってくるので、互いが互いについていけずに、ストレスとなる場合もあるので気をつけたいですね。
Q.お金や手間はどのくらい増えるの?
A.基本的には頭数分増えると心得て
「1頭も2頭もそんなに変わらないのでは」と思うのは間違い。ふだんの生活に必要なものは、基本的には共有せず、専用のグッズ(ケージ、首輪やリード、食器)やスペースを新たに用意してください。食費や医療費の増額に加え、場合によってはトリミング代も必要となります。さらに飼い主さん自身が、時間と気持ちに余裕をもって世話やしつけができることも重要になります。あらゆる面で、愛犬に快適な環境を「与え続けることができるか」をしっかり「見積もって」おくといいでしょう。
<画像3 iStock-477919713>
Q.犬同士はべったりくっついたりするもの?
A.期待しすぎに要注意! 意外とあっさりしています
人が考える「仲よしの犬たち」像には、かなり無理があります。人だって、どんなに仲がよくても、一日中べったりそばにいて体をくっつけ合うこはないですよね。犬には期待してしまいがちですが。犬は人よりもずっとクールです。「社会空間行動(パーソナルディスタンス)」のもと、他者とは一定の距離を保って過ごしたいという性質をもっています。気が向いたときにお互いのタイミングが合えば遊び、体を寄せ合って眠るだけです。相手に敵対心をいだかないだけで、充分「仲よし」といえるでしょう。
多頭飼い生活に向けてやっておきたい7つのこと
1 あらためて愛犬の社交性をテストする
公園などへの散歩ついでに、愛犬を観察してみましょう。次の項目はできていますか?
□散歩中、ほかの犬とすれ違ったとき、見て見ぬふりができる
□散歩中、ほかの犬が近づいた瞬間、相手のニオイをかいで挨拶したあと、クールダウンできる
□散歩中、ほかの犬が近づいたとき、興味がある相手でも飼い主さんのコントロールで元に戻ることができる
2 去勢・避妊手術を済ませておく
異なる性別の犬を迎える場合はもちろん、同性同士でも、事前に去勢・避妊手術をすませておくといいでしょう。未去勢の犬はホルモンの分泌量が多く、同性の犬に対して攻撃的になりやすい場合も。“夫婦”として迎え、出産を考えているのであれば、専門家に相談後、適切な環境づくりをしましょう。
3 ケージやトイレなどの環境を用意する
ケージやクレートは1頭につき1つが基本です。なるべくくっつけず、最初は同じ部屋内でも離れた位置にセットしましょう。また、目かくしに使える布の準備も忘れずに。トイレは将来的には共有でもいいのですが、嫌がる場合もあるので、念のため個別に用意しましょう。
4 家庭内での“しつけ&ルール”を確認しておく
飼う側の意識がぶれていては、愛犬たちも戸惑い、しつけが身につかないことも。「ソファの上にはのせない」「○○はリビングには置かない」など、共通のルールを決めておくことが大切です。家族誰もが同じしつけをすることで、愛犬たちも安心して過ごすことができます。
突然、何の前触れもなく新しい犬が家にやってくるのは、先住犬にとっては大きなストレスとなる場合も。状況が許せば、先住犬と新しい犬を何度か会わせて相性を見ておくことをおすすめします。1回ではなく、数回会わせて「知り合い」レベルにしておくのが理想的です。
6 先住犬に話しかけ、状況を「説明」しておく
「説明」?と思うかもしれませんが、じつはとても大切なことです。話しかける際には、「新しい犬が来たら意地悪しないでね」「来ても吠えないでね」などのマイナスイメージを植えつける言葉は避け、「もうすぐお姉ちゃん(お兄ちゃん)になるんだよ、頼むね」「みんなで仲よくしようね」「わが家のルールをいろいろ教えてあげてね」など、先住犬への感謝の気持ちを加えたポジティブな内容で話しかけてください。また、新しい犬が来たあとも、「いつもありがとう」「○○のおかげでうまくいっているよ」など、感謝の気持ちを常に伝えましょう。
7 飼い主さん自身も「心を整える」
犬が問題行動を起こす理由は、「安心して眠れる」「食事ができる」「体を動かして遊び、好奇心を満たせる」という本能的欲求が満たされていないから。これらが確保できて初めて、犬は他者(人、犬)とのかかわりがもてるのです。犬という生き物を客観的にとらえたうえで、愛犬に自分の理想やイメージを押しつけない「いい飼い主さん」でいられるよう、引き続き努力したいですね。
ちなみに…多頭飼いについて飼い主さんがつい思い込んでしまうことはこんなこと
×いっしょに暮らす犬たちは、仲むつまじいもの
→問題行動を起こさなければ、それで充分なのです。
×犬が犬を育てるもの
→それだけに頼るのは危険です。基本は飼い主さんがしつけて育てるものです。
×犬のトラブルは犬同士が解決する
→飼い主さんが必ず介入して解決しましょう。
×時間がたてば、必ず仲よくなれるもの
→しつけをし直さない限り、状況は変わらないことが多いものです。
新たな犬を迎えるそのとき、これだけは気をつけて
・初めの一歩は、先住犬・新しい犬同時に
先住犬も外へ連れ出し、家の外で、新しい犬を連れた人と待ち合わせを。そして同じタイミングで、先住犬と新しい犬を玄関から家の中に入れましょう。先住犬の縄張り意識が抑えられ、新しい犬も恐怖心が薄れるなど、お互いにメリットがあります。
・最初は先住犬を優先する
散歩や、「ただいま」の声かけ、ゴハン、おやつ、飼い主さんのひざの上などの優先権は、すべて先住犬に与えましょう。新しい犬に「それが当たり前」との感覚が身につけば、争いごとも起こりにくくなります。
・半年~1年後、犬同士の序列が見えてきたら、それに応じても
たとえば「おもちゃの取り合いに勝つ」「プロレスごっこで上にくる」「おやつなどを真っ先に食べようとする」などの行動をどちらかの犬がしていたら、それに準じても。そのような序列が見えない場合は、飼い主さんの気分を優先してもOKです。
十分な知識を持って多頭飼いを楽しもう
監修/石田陽子先生(石田ようこ犬と猫の歯科クリニック院長)
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
UP DATE