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【獣医師監修】犬の歯周病の原因や症状から治療と予防までを専門医が解説

犬の歯周病は、歯垢(プラーク)が蓄積して起こる歯周組織の細菌感染による炎症性疾患で、歯垢や歯石、口腔内の細菌が原因となります。歯周病は重症化すると全身疾患を招く恐れのある病気です。歯周病の進行と治療方法、全身麻酔での処置や歯周病予防について紹介します。

三浦 貴裕 先生

 獣医師
 町田森野プリモ動物病院院長
 相模大野プリモ動物病院院長
 
 酪農学園大学獣医学部獣医学科卒業

●資格:獣医師/日本小動物歯科研究会 歯科認定レベル全過程修了

●所属:日本小動物歯科研究会比較統合医療学会

●主な診療科目:一般診療(外科・内科)/救急診療/歯科・口腔外科

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犬の歯周病はどんな病気?

歯のクリーニングのための犬の口を開く 歯磨き
RossHelen/gettyimages
歯周病とは、歯と歯茎の隙間に口の中の細菌のかたまりである歯垢(プラーク)や、歯垢が石灰化した歯石がたまり、歯茎(歯肉)や歯を支えるあごの骨が炎症を起こす病気です。口臭や歯茎の腫れ、出血がみられることもあります。

全身疾患を引き起こす

歯周病を放置すると骨が溶けて歯がグラついたり、歯が抜けるだけでなく、重症化すると、全身に細菌がまわり、他の臓器の疾患を招くケースもあります。臓器によっては、心血管疾患、腎障、肝障害などを起こすことがあるため、結果的に歯周病が招いた病気で死亡する可能性も否定できません。

愛犬の口臭に注意

口臭は歯周病の症状の一つです。愛犬の口に鼻を近づけた時に、生ゴミのような強い口臭や不快な臭いがある場合は、歯周病の疑いがあります。

動物病院によっては、オーラストリップ®というチェックシートで、犬の口臭の原因となるものを簡単に測定できます。

犬の歯周病の原因

トイプードル 笑顔
hirohiko/gettyimages

細菌

犬の歯周病は、歯垢(プラーク)が蓄積して起こる歯周組織の細菌感染による炎症性疾患で、歯垢や歯石、口腔内の細菌が原因となります。

歯周病になりやすい犬種としては、ミニチュア・ダックスフンドやトイ・プードルなどが挙げられますが、どの犬種でも歯周病になる可能性があります。

お手入れ不足

愛犬の日々のデンタルケアが不足していると歯周病になりやすくなります。犬の歯垢は毎日付着して、3~5日で歯石となるため、歯磨きをサボってしまうと、歯茎に歯周ポケットができ、どんどん進行して歯周病はさらに重症化していきます。

歯周病治療の流れ

ではここからは、私(監修:三浦獣医師)が行なっている歯周病治療についてご紹介します。

私の場合は、歯周病の治療を「診察→治療提案→手術(処置)もしくは定期健診」という流れで行っています。

①診察

外から見てわかる症状や飼い主さんからお聞きした内容、さらに実際に口の中を見て評価を行います。

②治療提案

提案する治療の内容は、予防ケアが出来る飼い主さんや犬の状態によって変わります。私は、ケアできる子はできるだけ歯を残す方針で提案を行い、ケアできない子は悪い歯を残してもいずれ悪化することがわかっている場合、積極的に抜歯するケアをおすすめしています。

③手術(処置)もしくは定期健診

手術が適切と判断した犬の場合は、麻酔をかけて治療を行います。すぐに麻酔下での処置が必要ないと判断した場合では、定期的な健診でフォローをしていきます。

犬の歯周病の症状と治療方法

歯周病の治療は、そのステージごとに治療方法が異なります。

症状が軽度の場合は、全身麻酔下で超音波スケーラーを用いながら、歯石除去や歯周ポケットをきれいにする処置を行います。犬に過度の恐怖を与えたり、施術中に動いて出血を起こさないよう、安全のためにも、全身麻酔は必要な処置です。

内科的な治療として抗生物質などの投薬を行う方法もありますが、症状が進んでしまった場合は、抜歯や歯肉を切開するような手術などを行うこともあります。

高齢犬(老犬)や持病のある犬の場合は、麻酔のリスクについてかかりつけの獣医師と相談した上で治療方針を決定します。

ステージ1または初期症状

症状:口臭がする、歯が黄色いまたは茶色い、歯垢や歯石がついている、歯茎が腫れている・歯茎から出血している(歯肉炎)などがみられます

治療方法:歯垢・歯石除去、ポリッシング処置(歯の研磨)が行われます

ステージ2または軽度

症状:ステージ1に加え、軽度/早期の歯周炎(歯周ポケットの形成、軽い歯のぐらつき)などがみられます。

治療方法:歯垢・歯石除去、ルートプレーニング(歯の根元を滑らかに整える処置)、ポリッシング(歯の研磨)が行われます。
犬の歯周病治療
犬の歯周病(軽度歯周病の治療前):全体的に歯石が付着していますが、奥歯の歯石の沈着が目立ち、また軽度の歯肉炎がみられる状態
画像提供:プリモ動物病院
犬の歯周病(軽度歯周病の治療後)
犬の歯周病(軽度歯周病の治療後):超音波スケーラーを用いながら、歯石除去と研磨の処置を行った状態
画像提供:プリモ動物病院

ステージ3または中度

症状:ステージ2に加え、前足で口を拭う、目やにが出る、以前より食事に時間がかかる、顔を触られるのを嫌がる、中程度歯周炎などの症状がみられます。

治療方法:歯垢・歯石除去、ルートプレーニング、歯肉縁下掻把(キュレッタージ:歯周ポケット内の感染を起こしている歯肉をこそぎ取ること)、ポリッシング(歯の研磨)あるいは歯肉粘膜フラップを作成して目視下での治療(歯周外科治療)が行われます。

ステージ4または重度

症状:ステージ3に加え、重度(進行した)歯周炎、くしゃみや鼻水が出る、頬や目の下が腫れている、顔から膿が出ている、顔を傾けて食べる、フードや水をこぼす、片側の歯だけで噛んでいる、痛みでご飯を食べない、口を開けることが減った、歯が抜ける、顎の骨折が起こるなどの症状がみられます。

治療方法:抜歯や縫合処置が行われます。場合によっては歯周組織再生治療が行われるケースもあります。

※ここからは、重症の歯周病でみられる代表的な症状をご紹介します。
犬の歯周病 重度歯周病
犬の歯周病(重度歯周病の治療前):歯石の沈着が重度で歯の動揺(グラグラする)もみられる状態
画像提供:プリモ動物病院
犬の歯周病 重度歯周病の抜歯後
犬の歯周病(重度歯周病の抜歯後):上顎全ての抜歯と縫合処置を行った状態
画像提供:プリモ動物病院

くしゃみや鼻水が出る

歯周病でくしゃみや鼻水が出る場合は、口腔鼻腔瘻という状態です。通常、上顎の第3切歯から第4前臼歯の近心口蓋根という根っこの部分までは、歯根と鼻腔が薄い骨で隔てられているだけの状態です。

しかし、歯周病で歯根の周囲の骨が溶けて鼻腔とつながってしまうと、鼻水やくしゃみが出ます。さらに進行すると歯が抜け落ちて、完全に歯茎に穴が開いた状態になります。
犬の歯周病(口腔鼻腔瘻)歯が抜けた状態
犬の歯周病(口腔鼻腔瘻):上の歯の犬歯が自然に抜けてしまい、鼻腔とつながってしまっている状態
画像提供:プリモ動物病院

歯槽膿漏(歯の脱落・自然に抜ける)

歯周病が進行して、歯肉の炎症が強く、歯肉の退行(いわゆる歯槽膿漏の状態)がすすむと、歯がぐらついたり、勝手に抜けてしまうことがあります。歯がぐらついている状態で犬は物をくわえたり、食べたりするときに痛みを伴います。

また、歯が自然に抜けてしまったことで「これでもう痛くない」と判断するのも要注意です。歯がキレイに抜けずに、歯根(歯の根っこ)が折れて歯茎内に残ってしまうことがあります。
この場合は、次に紹介する根尖膿瘍を起こし続けることがあるため、歯が抜けてしまったときはどんな状態であっても一度動物病院を受診するようにしてください。

根尖膿瘍(こんせんのうよう)

歯の根(根尖)やその周りが化膿して炎症を起こし、膿の袋(膿瘍)ができてしまう病気です。硬い食べ物を避けるようになる、片側の歯だけで食べようとする、食欲の低下などがみられるほか、膿瘍が大きく膨らんでしまうと、見た目にも顔が腫れている、顔の皮膚から膿が出ている状態がわかるようになります。

顔(目の下あたり)から膿が出るのは眼窩下膿瘍という状態で、根尖膿瘍の一つです。特に上顎第4前臼歯および第1後臼歯が原因で生じます。

顎の骨折が起こる

歯周病が悪化すると、骨を溶かすことで下顎の骨折が起きる可能性があります。トイ・プードル やヨークシャー・テリアなどの超小型犬~小型犬でみられます。

犬の歯周病を予防する方法は?

犬も齲蝕(うしょく:虫歯)になります。歯周病や虫歯の予防にデンタルケアを行いましょう。
犬も齲蝕(うしょく:虫歯)になります。歯周病や虫歯の予防にデンタルケアを行いましょう。
画像提供:プリモ動物病院

日々のデンタルケアが大切

歯周病をはじめとする口内の病気を予防するためには、歯みがきの習慣が欠かせません。できれば毎日、難しければ、3~5日に1回でもよいので、少しずつ歯磨きに慣れさせましょう。

歯みがきを嫌がらなければ褒めておやつを与えて、犬が嫌がったら無理をせずにすぐにやめましょう。歯みがきに良い印象を持たせるのがポイントです。少しでもケアをすることが歯周病予防につながります。

デンタルケアのポイント

デンタルケアは、ゼロよりも少しでもという考えでケアを継続してください。歯冠(歯の見える部分)についた歯石は重要ではなく、歯と歯茎の間である歯周ポケットのケアが全てです。

ジェルやシートタイプのデンタルグッズを使用したケアも重要ですが、一番効果が期待できるのは歯ブラシです。

愛犬の歯磨きを行う際に、ほとんどの方はブラッシングの力が強すぎて歯を痛めてしまうので、さするような力具合で行ってください。ブラシの当てる角度は30-45度を意識しましょう。

多くの飼い主さんが愛犬の歯磨きを行う際に口を必死に開けようとしますが、これは犬が嫌がるだけです。唇を軽くめくったり、口角の部分を後ろにひっぱるだけでほとんどの歯は見えるのでケアができます。口角を軽く引っ張り、犬が笑っているように見える状態でケアをすることがポイントです。

犬の歯周病 Q&A

首をかしげる犬
TheDogPhotographer/gettyimages

Q:犬の歯周病は人にうつるの?

犬の口腔内細菌がヒトでも検出されたり、トリコモナス原虫がヒトと犬の口腔内で検出されたなどの報告がありますので、犬の歯周病は人獣共通感染症として考えてよいと考えます。

Q:犬の歯周病、受診の目安は?

口の中の病気はご自宅ではわかりにくいため、気になることがあったらまず一度動物病院を受診してみましょう。私は、飼い主さんに次のようなチェックポイントをレクチャーして、程度により再診の間隔の目安をお伝えしています。

愛犬の歯のチェックポイント

  • しっかりと食べることができているか(硬いものを食べることができるか、左右の顎を使っているか)

  • 口を閉じることができているか、あくびができているか(大きな口を開けることができるか、舌が出たままになっていたり、よだれが出たりしていないか)

  • 口を気にする様子があるか(前足で口元をこすっていないか、口を触られると嫌がったりしないか)

なお、再診間隔は程度によりますが、数か月(3ヶ月程度)おきに定期検診をお勧めしています。

Q:犬の歯周病の治療は、全身麻酔じゃないとダメなの?

動物病院以外の施設では、無麻酔スケーリングというものが行われているようですが、歯周病の治療で重要となる歯周ポケットへの治療は、全身麻酔下でしか行うことができません。

またキュレットなど鋭利な器具を口の中に入れて行う治療なので安全面からもおすすめできません。

アメリカの獣医歯科学会での基準では、大まかにいえば年に1回全身麻酔をかけて歯科処置をすることを推奨しています。治療を行わないで歯周病が進行する方が、全身へのリスクが高まるといわれています。私は飼い主さんにその話をした上で、3年に1回は全身麻酔をかけた治療を行うことをおすすめしています。
犬の歯周病は、歯と歯ぐきの問題だけにとどまらず全身性の病気の原因にもなりえます。毎日の歯みがきを習慣にすることで、愛犬の歯周病の予防や早期発見にもつながるでしょう。
監修/三浦貴裕先生(町田森野プリモ動物病院院長/相模大野プリモ動物病院院長)
文/maki
※症例写真以外、記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
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