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【獣医師監修】犬のエリザベスカラー|ストレス軽減のため方法と注意点

この記事の監修

滝田 雄磨 先生
SHIBUYAフレンズ動物病院院長
麻布大学獣医学部獣医学科卒業
東京農工大学農学部附属動物医療センター皮膚科研修医
ふく動物病院勤務
SJDドッググルーミングスクール講師
●資格:獣医師
●所属:日本獣医皮膚科学会/日本獣医動物行動研究会
エリザベスカラーの役割とは?
エリザベスカラーは、犬が患部を気にして噛んだりなめたり、足で掻いて刺激を防ぐための保護器具です。
手術後に、犬が自分の傷口をなめたり噛んだりすることで傷口が開いたり、雑菌が入ったりする事があります。そのため手術部分を保護する目的で一時的に装着する場合が多いですが、ケガ、耳、足、口周りを含む身体の「慢性的な皮膚炎」を含む「皮膚疾患」 、「結膜炎」などの「眼科疾患」を悪化させないために装着するケースもあります。
犬がエリザベスカラーを嫌がる理由
手術後の傷や炎症を早く治してあげたい!という理由で飼い主さんはエリザベスカラーを装着させますが、エリザベスカラーを嫌がる犬は多いようです。
人間がもし首にアンテナのような動きにくいカバーを着けて生活をしたら……どうでしょうか?きっと思うように行動できず、それだけでも大きなストレスを感じるでしょう。犬の気持ちになって考えてみるとその理由がわかってきます。
犬がエリザベスカラーを嫌がる理由1. 情報収集の妨げになる
犬は、人とは比べ物にならないくらいの感度で目や鼻、耳、足の裏など五感を使って情報収集を行います。
冒頭の写真のように透明であれば見やすいですが、透明でないタイプのものや透明タイプでもエリザベスカラーの径が大きかったり、マズルの短い犬はすっぽりと顔がエリザベスカラーの中に入ってしまい、音が反響し、周りもしっかり見えず、周囲の臭いも嗅ぐことができないので情報収集の妨げとなります。
こういった理由から神経が過敏になってしまい急に驚いたり、ストレスを感じてしまうのです。
犬がエリザベスカラーを嫌がる理由2. 周囲のものにぶつかりやすく行動しづらい
エリザベスカラーはベル型と呼ばれるアンテナの様な形が主な形状ですが、ベル型のエリザベスカラーは犬の顔よりも大きな径で幅が広いものです。そのため犬がいつも通りに生活していても室内では壁や床、家具、屋外では地面、草や木、電柱、縁石など障害物にぶつかりやすく、いつもは通れる場所や狭い所に入ることができません。さらに壁にぶつかったり床に少し擦るだけでも急に大きな音が耳に聞こえてきます。
こういった理由で行動がしづらいため、犬はエリザベスカラーを嫌がるのでしょう。
エリザベスカラーによるストレスを軽減させる方法と注意点
手術後にエリザベスカラーを装着させることは傷口を保護するためにはやはり必要な処置ですが、できるだけストレスを軽減してあげたいですよね。そのためにできる事と注意点をいくつか紹介していきます。
エリザベスカラー自体に工夫をする
装着する事は避けられない・・・ならばまずは装着するエリザベスカラーに工夫をしてみましょう!
ストレス軽減設計のエリザベスカラーを使う

昨今では、エリザベスカラーを嫌がる犬の為に、ストレスを軽減させる設計のものが売られています。
これまでは主にベル型と呼ばれる、プラスチック素材の丸めて首につけるタイプが主流でしたが、最近は同じベル型でも犬のストレスが軽減されるように「音が出にくく安心して過ごせるように柔らかい布やスポンジ素材を使ったタイプや、視界を遮ることなく周りの様子が判断できる軽量の「ドーナツ型など、素材や形状が工夫された製品が多く開発されています。
ただし、犬がストレスなく自由に過ごせる分、今までの「ベル型」に比べ患部に届きやすくなってしまうものもありますので、注意して見守ってあげる事も必要です。
種類 | 特徴 | |
---|---|---|
単位 | ベル型 | •術後や炎症の患部保護のためにはベル型が必要なケースもある •周囲の情報収集の妨げとなり犬にストレスがかかる •径が大きいと動きにくくぶつかったり少し擦っただけで犬に大きな音が聞こえ、犬が神経過敏になり日常の行動がしにくくなる •ボタン式の場合着脱時の音を嫌がる •プラスチックのベル型の場合犬にストレスがかかり嫌がりやすい |
ドーナツ型 | •視界も良く犬の自由度が高いので物にぶつかっても衝撃が少ない •軽量で犬の自由度が高いので犬が安心して過ごすことができる •患部に口先や足が届いてしまい患部の炎症や悪化を招くことがある | |
素材 | プラスチック | •価格がリーズナブルなものが多い •少しぶつかっただけでも犬の耳に大きな音が聞こえてしまう •色がついていて径が大きいベル型は視界が狭く、色がついていない透明タイプの方が視界が広い |
布(スポンジ) | •音が出にくく犬が安心して過ごすことができる •ぶつかっても大きな音や衝撃が少ない •寝るときに邪魔になりにくく、枕にもなる •柔らかく形が変わるので、患部に口先が届いてしまう場合がある |
エリザベスウエア(術後服)を使う

エリザベスウェアというものがあります。これはエリザベスカラーに代わり、術後の傷や炎症している患部の保護を目的とした「術後服」です。
エリザベスウェアを着用させるだけで患部を保護できるので、犬はエリザベスカラーのような首回りの違和感や行動の制限がなくなるため自由で動きやすく、普段通りに近い生活を送ることができます。かなりストレスの軽減になりますね。
しかし、きちんと犬の様子を観察できている状況であれば大きな効果がありますが、お留守番中や犬の様子をチェックできない時に使用しているとエリザベスウェアの上から患部を噛んでしまう場合もあるので注意が必要です。
人の目が届く範囲だけ外す
エリザベスカラーを装着しなくても、患部をなめたり噛んだり掻かなければ良いだけのことなので、誰かが犬の様子を常に確認できる状態や犬がお散歩や食事中であったり、他のことに集中して患部に注意が向いていない時はエリザベスカラーを外してあげるのもストレス軽減の最善の方法の一つです。
注意すべき点は、装着して大暴れすれば外してもらえると学習をしてしまっている犬、脱着時の音を嫌がる繊細な犬などには余計なストレスがかかるので、そういった際には継続して装着するのが良い場合もあります。
生活上のストレスを軽減させる
患部を保護できなければ犬が元通りの生活を送るのに余計に時間がかかってしまいます。場合によっては犬がストレスを感じても、エリザベスカラーを装着しなければならない時もあります。
そういった場合には犬が生活する上で、できるだけストレスを軽減させてあげるように工夫をしてあげましょう。
行動範囲にある障害物を取り除く
犬は普段通りに過ごしているつもりでも、エリザベスカラーを装着することによって自分の感覚と実際の幅が違います。そのため家具や壁、床、階段、地面、草や木、電柱、縁石などの障害物にぶつかりやすくなります。室内では犬の行動範囲でぶつかりそうな家具などの障害物を少しの間よける、お散歩ではエリザベスカラーがぶつからないように、人や障害物を通り抜けるときには犬がびっくりしないように注意して、飼い主さんがリードしてお散歩してあげると余計なストレスが軽減できるでしょう。
食事や水分をとりやすいように工夫する

大きな径の形状、重量のあるもの、柔らかい素材のエリザベスカラーは、食事やお水を飲むとき犬が下を向くので、エリザベスカラーがひっかかったり、エリザベスカラーで食器をどんどん前に押してしまい思うようにごはんを食べたり上手にお水を飲んだりできない場合があります。
お水の入った食器の高さを通常よりも高い位置に設置して水分補給がきちんとできるようにしましょう。犬種によって身体の高さが違うのでエリザベスカラーが当たりにくい高さを見極めて、食器の位置を調整してみてくださいね。
長時間のお留守番をさせる場合は、食器の裏が滑らないように、滑り止めのついた食器を使う、食器スタンドを使うなどの工夫をするとお留守番の間に水がひっくり返ってしまい、水分を補給できなかったといった事を防ぐことができます。
犬が楽しみにしている食事の時間、夢中になってご飯を食べているうちに上手に食べられず食べこぼしが付着してエリザベスカラーにフードのにおいがついてしまう事があります。その匂いにつられてエリザベスカラーを噛もうとしたりなめ続けるようになると不衛生ですし犬自信も落ち着きません。
術後、獣医さんから絶対に取らないようにといった指示がない場合は、食事の時はエリザベスカラーを外し、飼い主さんの見ている元で安心してご飯を食べさせてあげましょう。
手術後にエリザベスカラーを装着することで、突然生活環境が変わり行動も制限されてしまうので、犬に大きなストレスがかかるのは間違いありません。患部が痛んだり、かゆい事もストレスになるでしょう。
どちらにしても早く患部を治療することがエリザベスカラーを装着させる目的なので、治療と犬のストレスのバランスをみて、飼い主さんがエリザベスカラーを取った方が良いのか、それともエリザベスウェアや犬に負担のかからない素材のエリザベスカラーを装着させた方がいいのかを判断することが必要です。しかし状況によっては獣医さんの許可が出るまでエリザベスカラーを装着するべき場合もあるのでそれも踏まえて選択をするようにしてください。
また、気を紛らせるために1回のお散歩の時間を短くして回数を増やす、一緒に遊ぶ時間を増やす、食事や水分をしっかり摂取させる、安心して睡眠させるなどその状況に合わせた最適なストレス削減方法を実戦していきましょう!
犬を観察しながら正しいエリザベスカラーの装着を
犬にエリザベスカラーを装着したときに嫌がる様子を見ると「かわいそうだなぁ」と感じるのは愛犬を想うから。愛犬のためにはできるだけストレスを軽減してあげたいですね。大切なことは犬がエリザベスカラーを装着したときのストレスと治療状況のバランスです。
「かわいそうだから外してしまおう!」と勝手にはずしてしまうことはかえって治療が長引くこともあります。また、エリザベスカラーを外してもらえたとしても、常に傷口を刺激しないように観察されていたり、それによって飼い主さんが「舐めちゃダメよ、触っちゃダメよ!」とピリピリしていたりすると、それ自体が犬のストレスや緊張の原因になることもありますので気をつけましょう。
エリザベスカラーを装着して可能な範囲で自由に過ごさせてあげるなど、愛犬の性格や状況に合わせた柔軟な対応がストレス軽減につながる一番の方法です。
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参考文献
「犬と遊ぶ」レッスンテクニック イェシカ•オーベリー ストレス項目
監修/滝田雄磨先生(SHIBUYAフレンズ動物病院院長)
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