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【獣医が教える】犬の避妊手術の時期、メリット・デメリットについて

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避妊手術は、飼育されている犬が受ける手術の中で実施件数が圧倒的に多く、世間でも広く受け入られています。避妊手術は子宮や卵巣を摘出する手術ですが、病気を治すためというよりも、子宮がん・卵巣がん・乳腺腫瘍をはじめとした、病気の予防を目的として行われます。その際、意外と知られていないのは、施述する時期によって病気の予防率が大きく変動するという点です。また、メリットばかりでなく、麻酔による事故などの危険性も視野に入れておかなければなりません。
今回のコラムでは、避妊手術の意義と必要性はもちろんのこと、実際に行われる避妊手術の種類やその方法についても詳しく解説していきます。

避妊手術の意義

避妊手術の意義は一つでだけではなく、色々な面に対してそのメリットを有しています。そのメリットの対象は大きく分けると、社会にとって、飼い主にとって、また動物本人にとっての3点です。

社会にとってのメリット

社会的なメリットとしては、犬の殺処分数の減少が大きなポイントとなるでしょう。避妊手術をしていないと、予想外の妊娠により命に責任が取れなくなるケースが後を絶ちません。
犬は人間と違い、一度のお産で複数の子犬を生みます。生まれてきた子犬をすべて責任を持って飼う、もしくは最適な里親にしっかり受け渡すことができればよいですが、難しいという判断になれば、残された道は殺処分しかありません。また、子犬が小さいうちは多頭飼育で対応できたとしても、生涯にわたって日頃の世話や、病気の予防・治療を徹底していこうと思うと、相当な努力と費用が求められますし、無理がたたって適切なケアを怠れば、事故や病気で大切な命を奪うことになりかねません。
殺処分が大きな社会問題となっている日本だからこそ、飼い主一人一人が責任のあり方を考え、自覚ある行動を心がけなければなりません。

飼い主に対するメリット

生理に伴う情緒の不安定さが軽減されるため、犬との付き合いが楽になります。1年間のトータルで見たときに、犬の生理にはさほど長い時間を要しませんが、それでも生理中は普段と違った行動が現れるため配慮が必要になります。また、犬にも人間同様に陰部からの出血がありますので、こうした生理現象に対するケアからの解放も大きなメリットでしょう。
犬には閉経がなく、生理は一生続くと言われています。生活上のわずらわしさを取り除いてあげることで、飼い主も犬との快適な暮らしを実現することができます。

動物本人にとってのメリット

病気の予防が一番大きなポイントになります。
そもそも避妊手術とは、妊娠に必要な生殖器(卵巣と子宮)を摘出する手術のことを言います。臓器が取り出されることで、当然ながら卵巣や子宮に発生するがんを排除することができます。また、女性ホルモンの分泌が抑えられるため、乳腺腫瘍の発生率も下げることができます。
生理の度にかかる精神的・肉体的なストレスからの解放も大きなメリットです。

避妊手術により予防できる病気

避妊手術において「予防」は最大のホットトピックになりますので、避妊手術により予防可能な病気について、もう少し詳しくお話ししていきたいと思います。

前述したように、避妊手術は子宮と卵巣を摘出する手術です。そのため、卵巣や子宮に発生するがんを予防することができます。
がんは基本的に、高齢になってから発生することが圧倒的に多い疾患です。しかし、高齢で体力が低下し麻酔のリスクが高まっている中で手術するよりは、若く体力があるうちに予防的に避妊手術を受ける方が安全です。また、がんによっては手の施しようのない物もあるので、後悔しないようぜひ若いうちの予防をお勧めします。

では、避妊手術で予防ができる代表的な疾患について説明します。

子宮蓄膿症

避妊手術を受けていない高齢犬で頻繁に見られます。人間には馴染みのない病気ですが、文字通り子宮の中に膿がたまってしまう病気で、生理後1~2ヶ月での発症が多く、元気や食欲の低下、飲水量の増加を主訴に来院されることが多いです。
症状の進行は早く、発見しだい早急に蓄膿した子宮と卵巣を摘出しなければいけないので、緊急手術という形で扱われるものの中で圧倒的に多い病気でもあります。子宮蓄膿症で亡くなる子を見る機会が少なくない臨床獣医師の立場からも、ぜひ早期の避妊手術で予防してほしいです。

乳腺腫瘍

乳腺腫瘍は胸にできる腫瘍のことです。人間であれば乳癌と言った方が分かりやすいかもしれません。腫瘍は良性のものも悪性のものもあるので、すべてががん(悪性)と言う訳ではありませんが、乳腺腫瘍の発生率はかなり高いです。これまで乳腺癌で亡くなった子を多く見てきましたが、多くは全身に転移を起こし辛い最期を迎えることになります。
また、乳腺癌は自壊して(破裂して)、組織液や膿を大量に排出するため、とても強い悪臭を放ちます。これは一緒に生活をすることが困難なほどの強烈な臭いです。サポートしている家族のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)に影響を与えることが多く、医師として大嫌いな疾患の一つです。

しかし、これほど厄介ながんでも、避妊手術をすることでその発生率を低下させることができます。
あるデータによれば、初めての生理が来るまでに避妊手術を実施すれば、乳腺腫瘍が発生する確率を0.05%まで抑えることができます。二回目の生理までに避妊手術を実施しても8%ほどに押さえ込めます。3回目以降になると少し効果は落ちますが、その後何歳になっても避妊手術は乳腺腫瘍を抑え込む効果があると実証されています。
さらに、乳腺腫瘍が発生した後でも、乳腺腫瘍切除の手術の際に避妊手術を実施すれば、乳腺腫瘍の再発率が下がることも実証されています。
未避妊で乳腺腫瘍が発生した犬の子宮や卵巣を調べたところ、その半数以上に病変が認められたという報告もあり、因果関係が認められます。子宮がん、卵巣がん、子宮蓄膿症を予防する観点からも、乳腺腫瘍が発生した時点でまだ未処置の場合には、避妊手術を実施する価値は十分にあると思います。

避妊手術のデメリット

デメリットとしては、大きく3つの理由が挙げられます。

避妊手術にかかる費用

病院によりまた手術の方法によっても費用は変わってきますが、おおよそ3~5万円が一般的な相場だと思います。
この中には、術前の検査(血液検査、レントゲン検査、エコー検査など)、手術費、入院費、術後の内服薬、エリザベスカラーなどの費用が含まれています。詳しい費用や治療の内訳については、かかりつけの動物病院にお尋ねください。

避妊手術に伴う危険

手術には当然危険が伴います。どれだけ術前に検査をしていても、麻酔事故が起る可能性はあります。特に、麻酔薬に対するアレルギー反応などは、事前に察知することがかなり困難です。
ただし、術前検査をしっかりと受けていれば、麻酔事故が起こる可能性は限りなくゼロに近づけられるので、過剰に心配しすぎる必要はないでしょう。

避妊手術後の体質変化

避妊手術後は、手術前に比べて太りやすくなります。生理に伴うエネルギー消費が一切なくなってしまうので、これまでと同じ食事量であれば多くの場合肥満になってしまいます。
人間と同じように、肥満は万病の元です。病気の予防のための避妊手術で肥満になり、別の病気になってしまっては本末転倒です。術後は食事量を減らすか、避妊後専用のフードに切り替えましょう。
また、個体によって代謝は違うので、こまめに体重を測って適正内に保ってあげましょう。犬は自分で体重のコントールをすることができません。コロコロと太った犬はなんとも可愛いものですが、健康に保つことが飼い主の義務です。時には心を鬼にして、愛犬の健康管理に努めましょう。

避妊手術のしくみ

避妊手術とは、つまり生殖能力をなくす手術です。生殖に必要な器官は2つ、子宮と卵巣になります。このどちらかがなくなれば、犬の生殖能力はなくなります。
しかし、生理をなくし、かつ乳腺腫瘍を予防するためには、卵巣を確実に摘出する必要があります。なかなか理解しにくい構造ですが、体内に卵巣が残っている場合には、子宮が摘出されていても「生理」という現象は続きます。一方で、卵巣を除去した場合には、子宮があっても「生理」はなくなります。
そのため、生理に直接関係しない子宮を摘出する必要があるのかという点が、獣医師によって考え方が異なる部分です。

子宮を摘出する意義と施述法

子宮自体に発生する病気を予防することができます。子宮蓄膿症は卵巣だけの摘出でも十分に予防効果がありますが、子宮に発生するリスクは摘出しない限りなくなりません。

子宮を摘出することのデメリットとしては、卵巣だけのときに比べて傷が少し大きくなり、手術時間が長くなることです。操作する血管の数も増えるので、出血のリスクが増えたり、尿管を損傷したりする可能性も出てきます。
しかし、傷は小型犬で1cm伸びる程度ですし、麻酔時間も数分長くなるだけで済みます。出血や尿管損傷などの合併症は、術者の技術が水準以上であれば基本的には起こり得ないことです。そのため、現在の日本の避妊手術の方法としては、子宮と卵巣を両方摘出する方法が一般的になっています。

また、実施している動物病院はさらに少なくなりますが、腹腔鏡を用いた避妊手術を行なっているところもあります。腹腔鏡手術とは数mmの小さな数カ所の穴からカメラや鉗子を挿入しておこなう手術で、通常の開腹手術と違って傷口が小さいのはもちろんのこと、痛みや身体への負担の少ない低侵襲医療の一つです。
私の病院でも実施していますが、術後の回復が早く、手術を受けた犬が傷口を気にすることも少ないように感じます。
デメリットとしては、費用が一般的な開腹手術より高くなることですが、その価値は十二分にあると感じています。まだまだ浸透はしていませんが、より負担の少ない手術を希望される場合は検討してみるのもいいでしょう。

避妊手術中の処置に伴う危険と対策

先ほどデメリットの項目の一つとして麻酔に関するリスクについて述べましたが、ここでは出血を防ぐために手術中に行われる処置とそのリスクについて触れます。

子宮や卵巣を摘出する際、出血が起こらないように血管を縛る必要があります。縛った糸はお腹の中に残ることになりますが、糸の種類によってはその糸を中心に「縫合糸反応性肉芽腫」と呼ばれる腫瘤(かたまり)を形成することがあります。絹糸を使用した際に起こりやすいとされています。絹糸は操作しやすく、縛る力も強く頑丈で、コストも低いという点がメリットですが、近年では肉芽腫形成のリスクが高いため、避妊手術の際にはあまり使用されなくなりました。

病院によっては、超音波装置を用いて血管をシーリング(くっつけること)して血管処理を行い、お腹の中に糸を残さない方法をとっているところもあります。手術時間も短く、傷口も小さく負担の少ない術式と言えるでしょう。腹腔鏡でも同様の処置になります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。避妊手術のメリットやデメリットを中心にお話ししてきましたが、総合的に判断すると、やはり避妊手術をする意義は大きいと考えます。また、避妊手術の効果を最大化するためにも、初めての生理がくる前での実施を断然お勧めします。これは私個人の考えというわけではなく、獣医師の中での一般共通認識だと捉えてください。それくらい、避妊手術のメリットは大きいのです。

しかし、なんの症状もなく元気に過ごしている15歳の子に、いきなり避妊手術を勧めるかといえばそれは違います。残りの寿命を考えた時に、避妊をしていないことで問題が起こる可能性と、麻酔事故等のリスクや手術費用を天秤にかけた際、手術をするメリットの方が大きいとは言い切れないからです。
高齢の場合だけでなく、不整脈などの持病があっても手術のリスクは高まりますので、そういった他のリスクとの兼ね合いから手術をお勧めしないケースもあります。避妊手術に際しては、個体ごとの条件を総合的に見て、考え方を柔軟に変えなくてはならないので、まずはかかりつけの動物病院にご相談ください。

避妊手術は、私は飼い主の義務だと思っています。繁殖の目的がないのであれば、愛犬の体のためにもぜひ受けさせてあげたい手術です。鼻から反対するのではなく、また「なんとなく避妊」という無意識な態度ではなく、きちんとメリットとデメリットを踏まえた上でよく検討してみてください。この記事がきっかけで、避妊手術の正しい知識が広まればと心から願っています。

監修/平野太陽(獣医師・右京動物病院 SAGANO 院長)

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