老化や病気などがおもな原因で、聴力が低下した状態になる「難聴」は、どんな犬にも起こりえます。その症状や検査方法のほか、難聴を引き起こす意外な原因についても解説します。犬の耳の病気にくわしい獣医師の平野翔子先生に伺いました。
外耳炎などの病気や老化がおもな原因で、 聴力が低下した状態のこと
難聴とは、聴力が低下した状態のことです。犬の聴力が低下する原因には何があるのでしょうか?
まずは、老化です。犬も人と同じように、シニアになると聴力の低下が起きます。いわゆる〝耳が遠い〞状態で、老化に伴う中耳や内耳の機能低下が原因です。次に外耳炎や中耳炎、内耳炎など、炎症を伴う病気が挙げられます。音を伝えたり、感じたりする部位に炎症が起きることや、膿や液体がたまることで、聞こえに影響が出るケースも。この場合、若い犬でも難聴になることがあります。そのほか、ホルモンの病気や脳の病気が、聴力低下の原因にも。
一方、生まれつき両耳の聴力がない先天性難聴もあります。とくに毛の色を決める遺伝子が関係しているといわれています。
【原因】病気や老化が原因のほか遺伝による難聴も
犬の難聴には、老化や病気が関係する後天性難聴と、遺伝による先天性難聴があります。後天性では、老化による中耳・内耳の機能低下や外耳炎など耳の病気がおもな原因です。老化に伴い、鼓膜や耳小骨の動き、内耳の神経の機能が弱くなることで難聴になります。外耳炎など耳の病気では、炎症による機能の損傷や、膿や液体がたまることで、聞こえが悪くなることも。
【後天性難聴】
代表的な原因は、老化に伴う中耳や内耳の機能低下や外耳炎といった耳の病気です。音の通り道のどこかに異常を起こすことが原因と考えられます。
≪おもな原因≫
●老化による
中耳や内耳の機能低下
●外耳炎/中耳炎/内耳炎
●甲状腺機機能低下症
●中毒
●アミノグリコシド系抗生物質などの副作用
●脳炎/ 脳腫瘍
など
【先天性難聴】
マール遺伝子(ブルーマールの被毛)やパイボールド遺伝子(まだら模様)との関連が指摘され、以下の犬種でその遺伝子をもつ犬に見られる場合があります。
≪おもな原因≫
●遺伝
≪おもな犬種≫
●シェットランド・シープドッグ
●ミニチュア・ダックスフンド
●ダルメシアン
●イングリッシュ・セター など
【症状】声や音への反応が悪く、臆病になる犬も
難聴が片耳だけでは気づくのは難しく、両耳の難聴が進行してはじめて症状に気づくことが多いでしょう。自分の名前や、「ゴハン」「おやつ」といった大好きな言葉にも反応しない、急に近づいて触ると驚く、犬によっては驚きのあまり噛むなども。聴力を失って不安や戸惑いを感じ、臆病な様子を見せたり、動くのを嫌がったりすることもあります。ただ、老化に伴い徐々に進行するケースなどでは、行動の変化が目立たない犬も。
≪声や音への反応≫
●名前を呼んだり、「ゴハンだよ」と言ったりしても、耳すら動かさず反応しない
●眠っているときに大きな音がしても起きない など
≪様子の変化≫
●急に近づいたり、触ったりすると驚いたり、噛んだりする
●キュンキュンとずっと鳴いて不安そうに見える
●動くのを嫌がる など
先天性難聴では、生まれつき音のない世界で生活しているため、犬自身は不自由さをあまり感じていないようです。しつけがうまくいかないときに、じつは難聴だったという場合もあるでしょう。
【検査】難聴の検査は難しく、検査は原因追究のために行います
犬の難聴の診断は難しく、聞こえないことを確定する方法はありません。一般の動物病院では、寝ているときに手をたたくなど大きな音を立てて、反応しない場合、おそらく聴力はないと診断します。原因追究のために、身体検査や耳鏡検査などを行います。疑われる病気によっては、CT検査やMRI検査、ホルモン検査なども行います。
【予防】外耳炎を慢性化させないことが予防に
先天性難聴と老化による難聴では、聴力を回復する治療法はなく、外耳炎や中耳炎、内耳炎、甲状腺機能低下症、脳炎、脳腫瘍などの病気が原因の場合は、原因の病気を治療することで聴力が回復することも。難聴の原因のなかで、予防できるのは外耳炎です。外耳炎を悪化させて中耳炎、内耳炎に進行すると、耳の聞こえが悪いままになるおそれも。「耳をかゆがるのは普通のことだとそのままにする飼い主さんも多いですが、早めに受診を」と平野先生。また、短頭種は、鼻の構造が原因で中耳炎が単発で起きることがあります。とくにフレンチ・ブルドッグに多いので注意して。
【難聴の犬との接し方】見える位置から近づくなど、驚かせない工夫を
お尻側から近寄って体を触ると、犬は急に触られたことに驚いてしまいます。できるだけ見える位置から近づき、アイコンタクトをしてから触ると犬も安心です。また、シニアになると、聴力だけでなく、視力や嗅覚も衰え、不安感が強くなる犬も。キュンキュン鳴き続けているようなときは、獣医師に相談し、抗不安薬の使用を考えてもいいでしょう。
早めに気づいてお世話や接し方を見直すために、定期健診などの際に、愛犬の耳の聞こえ具合をチェックしてもらいましょう。
お話を伺った先生/ぬのかわ犬猫病院獣医師 平野翔子先生
参考/「いぬのきもち」2023年3月号『犬の現代病ファイル』
イラスト/フジマツミキ
取材・文/伊藤亜希子