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【獣医師監修】犬の認知症 なりやすい犬種や発症年齢を知っておこう
犬も発症する可能性がある「認知症」。今回は、犬の認知症の予兆や症状、発症年齢、治療法や予防法、飼い主さんの心身の負担などについて、いぬのきもち獣医師相談室の先生に、詳しくお話をうかがいました。
いぬのきもち獣医師相談室
犬の認知症の予兆は?
いぬのきもち獣医師相談室の獣医師(以下、獣医師):
「飼い主さんたちに体験談をうかがうと、日中ボーッと壁や天井を見つめていることがある・声をかけても反応しないことがある・夜中に突然起きてしばらく寝ない・ウロウロするなどの行動が見られるようです。
しかし、どれも『いつも』『毎日』ではなく、『ときどき』『その日だけ』だったので、当時は『あれ、おかしいな? でも年のせいかな』と過ごしている飼い主さんがほとんど。のちに愛犬が認知症と診断されてから、『今思えばあの行動が予兆だったのかも?』と思い出す程度のようです」
――飼い主さんが犬の認知症の予兆に気づくのは難しいのですね。
獣医師:
「そうですね。認知症の症状が進行すると判断できるのですが、初期症状は些細なもので、その後はふだんどおりの様子に戻ることが多く、飼い主さんが気づかないこともあります。過去のちょっとした違和感が、実は認知症の予兆だったということが多いようです」
犬が認知症になるとどのような症状が出てくる?
獣医師:
「主な症状を挙げると、大きく5つに分けられます。
- 慣れている場所で迷子になる・知っているはずの人を認識できない・普通に歩いている途中で何度も家具にぶつかるなどの『見当識障害』
- なでられたり遊んだりすることに興味がなくなる・名前を呼んでも反応しないなどの『飼い主さんに対する認識や関係性の変化』
- 日中の睡眠が増え夜間に起きている(昼夜逆転)・長時間起きているかと思えば逆に長時間寝るなどの『睡眠・覚醒時間の変化』
- トイレ以外の場所で排泄する・失禁などの『排泄の変化』
- 単調に鳴き続ける・夜鳴き・グルグルと同じ方向に回り続ける・隙間にはさまっても後退できず出られない・食欲の増加や減退などの『活動性の変化』
なお、これらすべてが認知症を診断するために必要な症状ではありません。認知症の症状は一貫性があるものではなく、個体差もあります」
犬が認知症になりやすいの年齢は何才頃?
獣医師:
「アメリカの調査では、11~12才の犬の28%、15~16才の犬の68%に何らかの症状が認められているようです。一方、国内の調査では11才から発症し、13才から急増するとの報告があります」
認知症にかかりやすい犬種は? 性別でも違うの?
獣医師:
「認知症の83%が日本犬(日本犬系雑種を含む)とする国内の調査報告もありますが、どの犬種でも発症するとされています。ただし、日本犬の場合は、症状が強く出る傾向にあるようです。
またある調査では、認知症を発症した犬のおよそ70%がオスだったという報告もあります」
犬が認知症になったときの治療法は? 改善は見込めるの?
獣医師:
「人の認知症と同様、残念ながら根本的な治療法はありません。ただし、早期に発見して治療を行えば、症状の進行スピードをある程度抑えることができるとされています」
サプリメントや食事療法を取り入れるケースが
獣医師:
「例えば、抗酸化物質を含む食事やサプリメントを与えたり、犬の不安を軽減したり睡眠リズムを戻したりするためのサプリメントや鎮静薬、抗不安薬などを投与したりします。いずれも効果には個体差があるので、どの治療法が愛犬に合うのか、見つかるまでに時間がかかることもあるでしょう。
なお、認知症の初期症状や治療開始時は、食事療法やサプリメントを与えることから始めることが多く、これらで症状がしばらく落ち着くコもいます。
夜鳴きが始まると睡眠導入剤を希望する飼い主さんもいますが、数時間しか効果がないことや、いずれ効かなくなることも。また、寝たきりを早めてしまい、症状が進行する場合もあるので、かかりつけの獣医師とよく相談して決めたほうがいいでしょう」
犬の認知症を予防するためにはどうしたらいいの?
獣医師:
「毎日同じ時間にゴハンを与える、同じ散歩コースを歩く、昼寝し放題などの単調な生活にならないよう工夫してみましょう。
そのため、たまには散歩コースを変える、足ツボのつもりで砂利道を歩く、ほかの犬や人とのふれあう時間をつくる、一緒におもちゃを使ったゲームをして遊ぶなど、刺激のある生活を取り入れるといいでしょう。また、マッサージなどでリラックスさせることも、予防になるようです。
ほかにも、日本犬系は7才頃から、ほかの犬種でも10才頃から、抗酸化物質の含まれた食事やサプリメントを始めることをおすすめしています。脳によいとされるDHAやEPAを含むサプリメントも効果が期待できるかもしれません」
飼い主さんが認知症について知っておくことも大切
獣医師:
「はい。飼い主さんに犬の認知症の知識があると、小さな変化にも気づきやすく、早めに対処や治療が始められます。
診察室の短い時間で獣医師が認知症と判断することは簡単ではありません。一緒に暮らしている飼い主さんが、小さくても犬のサインに気づくこと。その情報の積み重ねが、認知症を診断する獣医師にとっても大切な判断材料となります。
飼い主さん向けの犬の認知症や介護に関するセミナーもありますし、ブログも多くありますよね。ほかの飼い主さんから体験談を聞くことも勉強になると思います」
介護する飼い主さんの心身の負担を減らすために
獣医師:
「そうですね。とくに夜鳴きが始まると、ご家族の心身に負担がかかることもあります。
最近は、犬の認知症も広く認識され、サポートしてくれる施設やグッズも増えてきました。飼い主さんが疲れてしまう前に動物病院、ペットホテルやペットシッター、デイケアサービスなどをうまく利用してほしいと思います。
もし、夜鳴きで近所迷惑が心配であれば、一言ご挨拶をしておくとトラブルを避けることもできるでしょう。
いずれ愛犬とのお別れのときはきます。最後の認知症の時期が大変すぎて、元気だった頃の楽しかった思い出が薄れてしまうことは寂しいものです。もし今愛犬の認知症の介護で疲れている飼い主さんがいるなら、一人で抱え込まず、周りに相談しながら介護と向き合ってほしいと思います」
早期発見のためにも日頃からコミュニケーションを
下記の記事では、犬が認知症になった場合の治療法や薬、対応などを解説していますので、あわせて参考にしてみてください。
監修/いぬのきもち相談室獣医師
取材・文/kagio
※写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
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