犬と暮らす
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11才の愛犬が「がん」に。飼い主さんが、放射線治療を選んだ理由<前編>
愛犬の白いベッドに、点々と鼻血が……
思い返せば2016年に入ってから、クシャミと鼻水が増えたというラッキーくん。夏には右目だけ充血し、抗生物質の投与でよくなったものの、冬にはクシャミと同時に鼻血が出て、白いベッドに血が飛び散った跡が。Tさんは胸騒ぎがして、かかりつけの先生のところに駆けこみました。
検査の結果は、「鼻腺がん」という鼻のがんでした。ラッキーくんの場合、放射線治療しか方法がなかったため、数日後には住んでいる地域で数少ない、放射線治療を行う紹介先の大学の動物病院を受診。担当の獣医師から説明された放射線治療のリスクは、「右目が失明する可能性が高いこと」と、「がん細胞が増殖する可能性があること」、「副作用とラッキーくんの体力によっては、治療を途中で中止せざるをえない場合もある」ということでした。
すでにかかりつけ医から説明は受けていたものの、改めて大きなリスクを突きつけられて動揺するDさん・Tさん夫妻。とはいえ、すでにがんが進行しているため、猶予もない――。「ラッキーと1日でも長くいっしょにいたい」、夫妻はリスクよりも延命を希望し、放射線治療を受ける決断をしました。
そのころラッキーくんの住む地域は雪深い季節。自宅から大学の動物病院まで、毎週往復400㎞車を走らせて治療に通うのは難しく、入院をお願いしました。
治療をしても生存率は50%……飼い主さんの選択は
放射線治療は成功したものの、食い止められるのは約1年との予測
「やっとスタートを切れると思った矢先だったので、ラッキーがいない生活は考えられなかったのです。たとえ失明しても、一日でも長く私たちといっしょに生きてほしい。ただ普通に暮らしたい。そのためにはやるしかないんだなって」(Tさん)
放射線治療は週1回、全身麻酔をかけて行われました。初回の照射後に腫れ、がん細胞の増殖が心配されたものの、腫れが引いてひと安心。また、先生からは「放射線を当てた部分は毛が抜けて顔が変わるから、徐々に変わっていく姿を飼い主さんは見たほうがいいと思う」と言われ、夫妻はたびたび面会に訪れました。
予定していた4回の照射を終え、約1カ月半後に退院。ただ、先生からは「がん組織が小さくなっても細胞レベルでは残ってしまうのと、残ったがんを抑えこむことが年齢的に難しいケースも多いので、食い止められるのは1年くらい」と言われたといいます。
退院後、3カ月で鼻に異変が……
退院後は、何事もなく過ごしていたラッキーくん。ところが3カ月ほどたった6月頃、鼻水が出始めました。このときはただの鼻水と思い、深刻にはとらえていませんでした。しばらく元気でしたが、秋ごろには徐々に眼圧が高くなり、臭い鼻水が。10月中旬には、頭をなでようとすると嫌がり、威嚇するようになってしまいました。
「放射線治療を終えたという油断と日々の忙しさに追われつつも、生きてほしいと必死になり強い薬を飲ませた結果、副作用で元気も食欲もなくなり……。もっと寄り添ってあげればよかった」(Tさん)
辛い放射線治療を乗り越えたにもかかわらず、再び不調におちいってしまったラッキーくん。「再発」という2文字が、飼い主さんの脳裏をよぎったのは、想像に難くありません。次回は、その後のラッキーくんの現在の状態と暮らしぶりについて紹介します。
出典/「いぬのきもち」2019年1月号『困難と闘う!……その先のしあわせへ』
写真/佐藤正之
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