犬が留守番などで飼い主さんから離れると不安な気持ちになることはなんら不思議ではありません。しかし、その不安があまりに大きすぎて問題行動や体調不良にまで発展してしまうことがあります。それが分離不安という病気です。犬が分離不安になる原因や治療法を解説します。
飼い主さんと離れている間ずっと不安な気持ちが消えない
分離不安で見られるおもな問題行動は、飼い主さんが離れている間ずっと吠えたり、鳴いたりし続ける、部屋の家具などを壊す、そそうをするなどです。おもに長い留守番時に起こり、飼い主さんが帰ってくるまで、そうした行動が続くのが特徴です。また、食欲不振になったり、下痢をしたり、大量によだれを垂らすなど体調に異変があらわれることもあります。
社会化不足や不安になりやすい気質が原因
犬が分離不安になる原因はおもに下記の4つのことが考えられます。ひとつの症例に複数の原因が潜んでいることも多く、子犬からシニア犬までどんな年齢の犬でもかかるおそれがあるといえます。また、発症のきっかけとなるのが環境の大きな変化。引っ越し、飼い主さんの就職で留守番が急に長くなることなどのほか、突然の雷や地震などがきっかけで発症することがあります。
1.社会化不足
犬の生後3~12週齢は、社会化期と呼ばれ、さまざまな物に慣れさせることが必要です。多くの人とふれあったり、公園や商店街などいろいろな風景を見せたりします。こうした社会化が不充分だとあらゆる出来事に対して不安を感じやすくなる傾向があります。
2.恐怖体験のトラウマ
たとえば、飼い主さんがいないときに雷や地震などが発生し、怖い思いをした体験が強烈な印象として残り、それがトラウマとなることがあります。「飼い主さんが離れていくと、怖いことが起こるかもしれない」と連想し、不安な気持ちになりやすくなります。
3.遺伝的な性質
分離不安になりやすい犬種はとくにありませんが、犬種に関係なく生まれながらに怖がりの犬はいます。そして、親犬が怖がりだと、子犬もその性質を受け継ぐことがあります。怖がりの犬は、飼い主さんが離れると不安を感じやすく、分離不安になりやすい傾向にあります。
4.病気や老化による機能低下
病気が原因で体が思うように動かないと、いままでできていたことができなくなり、それが犬を不安にさせることがあります。また、病気でなくても老化にともなって視覚や聴覚が衰え、まわりの状況を認識しづらくなることもやはり犬に不安を与えます。
飼い主さん自身が治療プログラムを実践
分離不安は、ほかの病気と違い、心の病気なので、犬との接し方や環境を見直し、しつけやトレーニングを中心とした治療を行います。具体的には、外出時や帰宅時の過剰な愛情表現を避けるなど愛犬との接し方を変える、ハウストレーニングをして愛犬が落ち着く場所をつくる、留守番時には疲れて眠れるよう留守番前には充分な散歩をするなどです。
こうした治療は「行動治療」と呼ばれ、動物病院の行動診療科や行動治療を専門とする動物病院を受診します。獣医師にカウンセリングを受け、そこから導き出された治療方針やプログラムに沿って、獣医師の指導のもと飼い主さん自身が治療プログラムを実践していきます。
行動治療においては、「飼い主さんがいなくても不安にならない」練習をします。たとえば、「部屋で愛犬に知育おもちゃなどを与える」→「愛犬がおもちゃに集中している間に、飼い主さんが部屋の外へ出る」→「愛犬に分離不安の症状が出る前に部屋へ戻る」。これを繰り返しながら、徐々に部屋へ戻る時間を延ばしていきます。このようにして、「長い時間、飼い主さんがいなくても不安を感じずにいられるようにすること」がゴールです。
いかがでしたか。分離不安は一般に治療期間が数週間から数カ月に及ぶとされています。根気強く治療を実践することが大切です。
参考/「いぬのきもち」2019年12月号『犬の現代病ファイル 分離不安』(監修:菊池亜都子先生 東京大学附属動物医療センター行動診療科 獣医師)
イラスト/フジマツミキ
文/犬神マツコ