犬を飼い始めたらやるべきことはいろいろありますが、その中でも大きなことは去勢手術・避妊手術です。「メリットがあるからやったほうがいい」とはよく聞きますが、実際のところはどうなのでしょうか? そこで今回は、去勢・避妊手術の手順やメリット・デメリットについて解説します。
犬の去勢・避妊手術とは?
犬の去勢・避妊手術とは、犬の精巣および卵巣(卵巣と子宮)を切除し、生殖能力を無くすための不妊手術です。去勢手術はオスの不妊手術をさします。
去勢手術では、オス犬の左右の睾丸(こうがん)を切除して取り出します。避妊手術はメスの不妊手術をさします。避妊手術の方法は、左右の卵巣を摘出する卵巣摘出術と、左右の卵巣および子宮を摘出する子宮卵巣全摘出術の2通りの方法があります。どちらの方法でもお腹を開ける開腹手術となりますので、去勢手術と比べると手術の時間は長く、負担も少し大きくなります。
犬の去勢・避妊手術のメリット・デメリット
犬の去勢・避妊手術にはいくつかのメリットとデメリットがあります。手術を考える際には、それぞれをしっかり理解しておくようにしてください。
犬の「去勢・避妊手術共通のメリット」
犬の去勢・避妊手術の共通のメリットは以下の通りです。
不妊手術をした犬の方が平均寿命が長い
去勢・避妊手術をした犬では、していない犬に比べ寿命が長いというデータが出ています。
去勢・避妊手術をすることでいくつかの病気が予防できますので、そのおかげで寿命が伸びるものと考えられます。
望まない妊娠を防げる
多頭飼いの家で、去勢・避妊手術をしていないオスとメスの犬を一緒に飼っている場合は、高確率で妊娠します。兄弟姉妹で妊娠すれば、遺伝性疾患のリスクが高くなってしまいますし、妊娠・出産は母体に大きな負担をかけることがあります。
また、犬の散歩をしていると、生理中(発情出血中)のメス犬にはオス犬が異常に興味を示し近づいてくることが多いです。思わぬ事故(妊娠・けんか・怪我など)の防止のためにも去勢・避妊手術は有効です。
発情ストレスの解消
オスは基本的に若いうちは常に、メスは発情中に性欲が高い状態となります。その性欲が満たされないと、犬はストレスが溜まってしまいます。不妊手術を行うことで性欲がなくなり、発情ストレスから解放されるのも、去勢・避妊手術をする大きなメリットです。
犬の「去勢・避妊手術共通のデメリット」
メリットがある一方、犬の去勢・避妊手術にはデメリットもあります。
麻酔・手術のリスク
去勢・避妊手術には必ず全身麻酔が必要になります。動物病院で使う犬の麻酔は、安全性はかなり高くなってきてはいるものの、全身麻酔の事故が0%だとは言い切れません。麻酔による死亡事故以外にも、術後の腎不全や呼吸不全などの可能性もあります。
また、まれではありますが、特異体質による出血や傷口の癒合不全などの手術トラブルの報告もあります。全身麻酔や手術のリスクに関しては、動物病院でしっかり説明を受けてから手術を決めるようにしましょう。
肥満になりやすくなる
去勢・避妊手術をすると、肥満になりやすくなります。その原因は、
・去勢・避妊手術をすることで、体の中の性的な活動が無くなり、基礎代謝が落ちる
・性欲が無くなり、食欲が強くなる
ことだと考えられています。
大型犬では関節疾患のリスクが増える
大型犬の場合には、1歳未満の若い犬で去勢・避妊手術をすると、股関節形成不全などの関節疾患のリスクが上がるといわれています。
現在のところ意見は分かれていますが、大型犬の場合には1才を超えてから手術をした方がよいと考えられています。
犬の「去勢手術のメリット」
各種病気の予防
去勢手術によって、以下のような病気を予防することができます。
・前立腺肥大
・前立腺炎
・精巣腫瘍
・会陰ヘルニア
・肛門周囲腺腫など
性格の温厚化
去勢手術をすると、男性ホルモン(テストステロン)が減少します。テストステロンは犬の攻撃性に関与する物質であり、去勢手術をしてテストステロンが減少すると性格が穏やかになることが多いです。やんちゃすぎる犬の場合は、去勢手術をすることで少し落ち着くことも多いです。
マーキングの防止
オス犬では、マーキングによって足をあげて尿をすることも多いです。外で尿をする場合にはそれほど問題になりませんが、家の中でする場合には、トイレからはみ出てしまう原因ともなります。クセがついてしまうと手術をしてもなかなか治らないですが、若いうちに去勢手術をすることで、マーキングを防止することも可能です。
犬の「去勢手術のデメリット」
犬の去勢手術のデメリットは、「去勢・避妊手術共通のデメリット」と同じです。上記を参考にしてください。
犬の「避妊手術のメリット」
各種病気の予防
避妊手術をすることで以下のような病気を予防することができます。
・乳腺腫瘍
・子宮蓄膿症
・卵巣腫瘍
・膣腫瘍など
発情のわずらわしさの解消
メス犬は半年に1回、2週間程度の発情出血があることが一般的です。その間は陰部から血が出ますので、マナーパンツなどを履かないと家の中が血で汚れてしまうことがあります。また、散歩中などにオス犬がしつこく追いかけてきたりすることがあります。手術をすると発情出血もなくなりますので、そうしたわずらわしさが解消されます。
犬の「避妊手術のデメリット」
犬の避妊手術には以下のようなデメリットがあります。去勢手術と共通のデメリットも併せて確認しておいてください。
尿漏れのリスク
特に大型犬では、高齢になると避妊手術をした犬ではホルモン性の尿失禁の割合が増えると言われています。尿失禁が起きてしまう割合は多くはないですが、避妊手術のデメリットとして頭に入れておく方がいいでしょう。
まとめ
犬の去勢・避妊手術は妊娠予防だけでなく、問題行動や病気の予防、長生きのためにも大きなメリットがある手術であり、獣医師の多くは若いうちの去勢・避妊手術をおすすめしています。ただし、デメリットやリスクもあり、それらを飼い主さんがしっかり理解したうえで手術を選択する必要があります。今回の記事を参考にしながら、愛犬が健康に長生きできるベストな選択を考えてみてください。
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。
監修/白山聡子先生(獣医師)
獣医師資格取得後、小動物臨床に従事。主に犬猫の臨床に携わる。現在は育児と仕事を両立させながら、愛猫と暮らしている。
取材・文/大口亜紗