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【獣医師監修】犬の妊娠から出産 愛犬に子犬を産ませたいと思ったら
犬の妊娠や出産は母犬の命をかけた出来事です。「愛犬の子どもを産ませたい」「子犬を残したい」と思っても、ただ可愛いからという理由で繁殖をさせることはあってはなりません。
犬の妊娠や出産の知識、生まれてくる子犬や母犬へのリスク、遺伝病や動物取扱業のことを理解した上で、かかりつけの獣医師に相談してから繁殖するかどうかを慎重に検討しましょう。
犬の出産は安産ばかりではない
飼い主さんが愛犬に子犬を産ませたいと思ったとしても、安易に出産させるのはおすすめできません。その理由を紹介していきます。
愛犬が繁殖に適した犬かをよく考えるべき
メス犬は、生後半年以降に最初の発情期を迎えると妊娠できる体になりますが、完全に発育していない体での妊娠は母犬と子犬に大きな負担がかかる可能性があるため、2回目以降の発情後から交配することが可能だといわれています。
また、犬は発情期がある限り妊娠は可能ですが、高齢での出産はリスクがあります。犬の出産に適している年齢は完全に体が成長した2〜5歳くらいであるというのが一般的です。
その他にも愛犬に心臓疾患など出産にリスクのある持病がある、小型犬で体が特に小さいなど、難産の可能性が心配される場合などでは、繁殖をさせない決断も必要となります。
遺伝病や気をつけるべき交配がある
具体的には、遺伝子検査を行ったり、股関節形成不全や肘関節形成不全など関節に遺伝的な問題を抱えていないか、交配をしても問題ない親犬同士の掛け合わせか、親犬や兄弟犬などに共通した病気がないかなどを把握した上で繁殖を検討する必要があります。
※遺伝子検査では、進行性網膜萎縮症(PRA)、変性性脊髄症(DM)などの特定の病気に対する検査が可能です。
母犬のケアと生まれた子犬のお世話は大変
中でも、母犬の育児放棄や母犬の死亡などの理由によって人工授乳が必要となったケースでは、人がお母さん犬の代わりを行う必要があるため、お世話はさらに忙しくなります。
また、全ての犬が健康で生まれるとは限らず、奇形があったり先天性の病気を持って生まれてくる子犬がいる可能性はゼロではありません。
こういったことからも飼い主さんの時間的な余裕がない場合や母犬と子犬たちのケアが十分にできない場合は、繁殖させることを諦めるべきです。
無登録業者は動物愛護法に違反する
子犬を販売するつもりであれば、販売業者(ブリーダーなど)は動物取扱業の登録を行うことが法律で義務付けられています。販売や販売のための繁殖(ブリーディング)を行う場合、第一種動物取扱業(販売業)に登録をしていない無登録業者は動物愛護法に違反します。
犬の出産は医療費や食費など多くの費用がかかる
妊娠期間中には食欲不振や吐き気など体調が不安定になる場合もあります。また、万全の態勢で出産への準備をするためにも、胎子の発育の確認や出産前の健診など、定期的にかかりつけの獣医師による診察を受けることはとても大切です。
このような受診の費用に加え、出産時の難産の介助、帝王切開などの緊急手術、母犬や子犬たちが突然の体調不良を起こした際などでは、更に多くの獣医療費がかかる可能性があります。
また、母犬は栄養を確保するために食事量が増えますが、子犬が成長してくると離乳食など子犬の食事量も増えるので食費も多くかかります。その他にも子犬たちの健診のために動物病院を受診したり、混合ワクチン接種やマイクロチップの装着などで費用がかかることも頭に入れておかなければなりません。
このように、犬の出産にはかかりつけの獣医師との連携が必要であること、また多くの費用がかかることをしっかり認識しておくことが大切です。
犬の交配から妊娠までの流れ
メス犬の発情サイクル
メス犬の発情は「発情前期」「発情期」「発情休止期」「無発情期」の4つの段階に分けられますが、発情期の進み具合は犬によって個体差があるため予想通りにならないこともあります。
発情前期
発情期
発情休止期
無発情期
繁殖を考えていない場合はメス犬をしっかり管理しておかないと、知らぬ間に妊娠していたといった可能性もありえるため注意が必要です。
オス犬との交配
必要に応じて、動物病院でメス犬の黄体ホルモン検査やスメア検査行い、交配時期を見極める方法もありますが、最適な交配時期に交配を行ったとしても妊娠しないこともあります。
犬の妊娠
妊娠期間が1ヶ月を過ぎた頃には、超音波検査(エコー)、レントゲン、触診で妊娠の有無がわかります。
妊娠後半の1ヶ月になると、お腹が大きくなったり乳腺が発達して体に明らかな変化がみられ、産箱を設置しておくと出産が近くなるとともに寝床を掘る「巣作り行動」をするようになるでしょう。
なお、出産予定日の数日前にレントゲン検査を行うことで、出産頭数と胎児の大きさを把握することができ、また同時に、母犬の骨盤腔(出産の際に胎児が通過する部分)の幅も確認できるため、難産の可能性についてもある程度予測ができます。
出産当日の緊急対応についても、このような出産に備える健診の際などに、かかりつけの獣医師に事前に相談しておくことが重要です。
犬の出産の流れ
出産の兆候がみられる
他にも、巣作り行動の他に頻尿になったり、犬が鼻を鳴らして落ち着かない行動をとったり、「パンティング」と呼ばれる荒い呼吸がみられるようになります。このとき母犬が安心して出産できるように、できるだけ静かな環境にすることが大切です。
分娩がはじまる
出産後は、胎盤(後産)が排出されます。子犬の出産時に続けて出てくる場合もありますが、10分前後ほど間をあけて、別に出てくる場合もあり、お腹の中にいる子犬の数だけ、子犬の出産と後産の排出を繰り返します。
出産の間隔は、30分から1時間ほどで繰り返すのが一般的ですが、もう少し長くかかり場合もあります。
複数の胎児がお腹にいる場合、時間を空けて順に出産が進んでいきますが、犬の出産は安産ばかりではありません。予定日を3日以上過ぎているのに分娩がはじまらない、破水後に陣痛がこない、陣痛はあるのに生まれてこない、緑色の液体が出てきてから子犬が出てこない、子犬の姿が見えているのに生まれてこない、母犬の元気がない・ぐったりするなど難産となった場合は、帝王切開などの手術も含めた緊急の対応が必要なケースもあります。
また、子犬は頭から出てくる場合も足から出てくる逆子の場合もありますが、羊膜が破れて体が産道に引っ掛かりお産の介助が必要になる場合もあります。生まれた子犬が呼吸をしていないといった状態がみられたら、一刻も早く獣医師のサポートを受けることが必要です。
出産直後の様子
見守る際には、特に母犬が生まれた子犬の顔周りの羊膜を上手に剥がせているか確認し、子犬がきちんと呼吸できているかをみてあげましょう。母犬がうまく対応できていないようなら、子犬が窒息しないようなサポートをします。子犬が呼吸できるよう顔周りの羊膜を破って取り除き、引き続き母犬が子犬を世話する様子を見守りましょう。
なお、母犬が生まれた子犬を怖がったり、お世話をしないなどケアを十分にできないようなら、人が代わりに対応します。出産の手助けとしては、生まれた子犬の羊膜を破って胎盤を取り除き、へその緒を糸などで縛ってから切り、子犬の体や鼻に入っている水分をタオルで拭き取り呼吸を促します。なお、人がケアをした際にも産声をあげた子犬にはできるだけ早く初乳を吸わせてあげる必要があるため、母犬の様子を見ながら子犬を戻すなど、授乳のサポートをしましょう。
母犬のケアと子犬の子育て
また、母犬は出産後から子犬達のお尻や体を舐めて排泄を促したり子犬を抱えて体を温め、授乳をさせるのに忙しいはずです。どれだけ生まれたての赤ちゃんが可愛かったとしても、母犬は長時間の出産で体力を消耗して疲れているため、できるだけそっとしておいてあげることが大切です。
子犬のお世話は基本的に母犬が一生懸命にするはずですが、母犬が育児放棄をした場合などは子犬の人工授乳や排泄の手助けが必要となる場合もあります。
子犬はおっぱいを飲んで、よく寝て、おしっこやウンチの排泄を繰り返すので、子犬の過ごすスペースの清潔を保てるように頻繁にトイレの処理を行い、子犬の体温が下がらないように寝床や室内の温度管理を行うことが欠かせません。
また、授乳中は母犬に栄養を与えるために食事の量を増やすなど食事管理を行います。
生後2週間程度で子犬たちの目が開いたら、子犬たちが室内を歩き回ったり、子犬同士の遊びやいたずらが始まりお世話もどんどん忙しくなることでしょう。生後3週以降子犬の歯が生えてきたらもうすぐ離乳食を与えはじめるサインです。この頃から子犬の社会化期ははじまっているため、たくさんのことを経験して日々成長をしていきます。
犬の出産や子育ての期間は命と向き合う時間になる
繁殖の予定がない場合は不妊去勢手術を行う選択を
「かわいいから」というだけで犬の繁殖を行うという安易な飼い主の決断が、母犬となる愛犬や愛犬が命をかけて産んだ子犬たちを不幸にしてしまうことがあってはなりません。
犬の出産や遺伝病についてなど正しい知識とリスクを理解し、かかりつけの獣医師と相談した上で繁殖を行うかを慎重に判断しましょう。
この記事では、犬の妊娠から出産、子育ての流れについてご紹介しました。
文/maki
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください
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