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BHAに発がん性って本当? ドッグフードの酸化防止剤の犬への危険性を専門家に聞いてみました

BHA(ブチルヒドロキシアニソール)とは「酸化防止剤」として使われる添加物の1つです。食べ物や工業製品の酸化による変質を防止する目的で使われています。ペットフードでは、ドライフード、セミモイストフードなど、空気に触れて脂質の酸化が進みやすい環境のフードの質と安全性を守るために使用されています。

徳本 一義 先生

 獣医師
 有限会社ハーモニー代表取締役
 日本ペット栄養学会理事
 ペットフード協会新資格検定制度実行委員会委員長
 日本獣医生命科学大学非常勤講師
 帝京科学大学非常勤講師
 など

●資格:獣医師 経営学修士(MBA)

●所属:日本ペット栄養学会

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酸化防止剤を使うのは何のため?

 ドッグフードに含まれている脂肪は、光に当たったり空気に触れたりすると、酸素と結びついて酸化してしまいます。脂肪が酸化すると、フードの嗜好性が低下して食いつきが悪くなるほか、嘔吐や下痢などの消化器の症状を起こすことがあります。
 このため、ドッグフードのうち、ドライフードには酸化を防止するはたらきをするものが加えられています。これらを酸化防止剤と呼んでいます。酸化防止剤が加えられていないと、ドライフードはあっという間に脂肪が酸化して、おいしくないばかりか、体に悪影響のあるものになってしまうのです。つまり、酸化防止剤は、ドライフードの質と安全を守っていると言えます。

 また、酸化防止剤は、「酸化防止剤」という名前の物質ではありません。酸化を防止する目的で使用しているものを、目的の説明として「酸化防止剤」として記載しているのです。ですから、ドッグフードの原材料表示の欄には、「酸化防止剤(ミックストコフェロール)」などと、実際の物質の名前が詳しく書かれています。「剤」という字が使われているので薬品のような印象を受けるかもしれませんが、BHAやBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)といった化学的に合成されたもののほかに、ローズマリー抽出物、緑茶抽出物などの天然由来のものや、ミックストコフェロール(ビタミンE)、クエン酸など、酸化防止の役割を果たす栄養成分もあります。

ペットフードに使用されている主な酸化防止剤

物質名説明ペットフード安全法での使用基準※
エトキシキン主に家畜の飼料添加物として使用が認められている。犬用では単独で75μg/g以下
エトキシキン・BHA・BHTの総量で150μg/g以下
BHA
(ブチルヒドロキシアニソール)
食品の指定添加物でもあり、化粧品等にも使用されている。エトキシキン・BHA・BHTの総量で150μg/g以下
BHT
(ジブチルヒドロキシトルエン)
食品の指定添加物でもある。エトキシキン・BHA・BHTの総量で150μg/g以下
アスコルビン酸ナトリウム
(ビタミンC)
食品の指定添加物でもあるが、使用制限は設けられていない。なし
トコフェロール
(ビタミンE)
植物によってつくられ、自然界に広く存在する。食品の既存添加物として使用されることがある。なし
ローズマリー抽出物ローズマリー(マンネンロウ)の葉または花から得られた、カルノシン酸、カルノソール及びロスマノールを主成分とするもの。食品の既存添加物でもある。なし
クエン酸食品の指定添加物でもあるが、使用制限は設けられていない。なし

※水分量10%(ドライフード)として設定
使用基準は2018年5月現在の情報

どうして天然の酸化防止剤を使用しないの?

 酸化防止剤は、天然であれ、合成であれ、酸化を防止することを目的に添加されています。
同じ効果が得られるものですので、合成・天然の物質どちらが酸化防止剤として優れているというわけではありません。
 合成の酸化防止剤には「効果が安定している」というメリットがあるので、使用される場合があります。

気になるBHAの発がんリスクはどの程度?

 BHAなどの合成添加物の多くは、使用上限値が定められているため、摂取すると体に有害なのではないかという印象を持つ人も多いようです。
 この使用量の限度はどのように決められているのでしょう。
 人の食品の指定添加物の場合、まず、ラットやマウスなどを用いた試験の結果をもとに、この量なら無害と確かめられた「最大無毒性量」が割り出されます。さらに、ちがう動物に使用することを考慮して、人の最大無毒性量をその10分の1とし、個体差を考慮してさらに10分の1にします。それを毎日食べ続けても安全な量を、1日摂取許容量(ADIとも略されます)としています。
 さらに、複数の食品を食べても1日摂取許容量を超えないように、厚生労働省・環境省によって、1日摂取許容量を大幅に下回る使用基準が定められています。

 ペットフードの安全性を確保し、犬や猫の健康を守ることで、動物愛護に寄与することを目的とした「ペットフード安全法」という法律がありますが、そこで使用量が定められているBHAなどの添加物についても、農林水産省によって、人の食品と同様に使用基準が定められています。

 実際、「合成添加物の○○○は、動物実験でこのように健康被害が発生した報告があるから危険だ。ドッグフードに使用しないでほしい」といった意見があります。しかし、これは、試験結果を正しくとらえていません。試験結果は、「どこまでの量を大量投与したら健康被害が起きるのか」という、無害といえる量の上限を探し出すための極端な試験です。さらに、その量を100分の1にまで減らした量を1日摂取許容量にし、そこからさらに減らした量がペットフードに使用する際の使用基準に決められています。ですから、使用基準内の添加物は、科学的に安全が確認されているといえるのです。

 ちなみに、BHAの発がん性を心配する声があるようですが、これは上記のように極端に大量投与してはじめて、ラットの前胃で発がん性が報告されたというものです※1。また、ラット等の齧歯類の前胃以外での発がん報告はなく(犬や猫に前胃はありません)、犬を用いた実験では、発がん性も毒性もみられませんでした※2。さらに、微量のBHAは発がんを抑制するという報告も多数あります※3。

※1:1982年、名古屋大学伊藤信行教授ら研究グループによる食品衛生調査会への報告
※2:有害性評価書:化学物質排出把握管理促進法政令号番号:1-365
※3:Williams ら、1986年、Ito ら1986年、Ikezaki ら1996年など

天然由来なら安全とは限らない

 それでも安全のために天然の原材料を使ってほしいと願う人が多いのも事実です。しかし、天然由来なら手放しで安全というわけではありません。フグ毒や毒キノコがわかりやすいところですが、わたしたちが普段食べている天然の食材にも、体に影響がない程度の微量の有害物質を含んでいるものがあります。
 わたしたちの体に必要な栄養素ですら、過剰に摂取すると健康に害を及ぼすものはいくらでもあります。例えば、塩(塩化ナトリウム)は、体重1kgあたり0.5~5gが推定致死量とされています。大人の塩分の1日の摂取目安は5~8g程度といわれていますが、その10倍~50倍も一気にとれば致死量となるわけです。いつも食べている天然の食品でも、いくら食べても安全ということではないのです。
 もちろん、致死量ほどの塩分を一度に食べることはまずありえません。体に害があるほど摂取しなければ問題がないのです。BHAなどの合成添加物についても、基準内での使用は体に害がありません。天然だから安全、合成だから危険ということではなく、身のまわりのさまざまな物質は、適切な量であれば体に問題がないが、極端に度を越して体内に入れば健康や生命に影響を与える場合があるという側面を持っています。大切なのは「安全な量」なのです。

BHAが使われていることとフードが酸化することはどちらが危険?

 ここまでに述べたとおり、ドッグフードに使われているBHAは、たとえ毎日食べ続けたとしても健康に影響を与えない量しか使われていません。一方で、ドッグフードに含まれている脂肪が酸化してしまうと、おいしくなくなり、さらには体調をくずす可能性もあります。
 ですから、ドライフードは必ず何らかの方法で酸化を防がなければなりません。酸化防止の方法はさまざまですが、酸化防止剤としてBHAを「ペットフード安全法」の基準にそって使用することに危険性はありません。

愛犬に最良の選択を

 今や、飼い主さんの願いに応じたさまざまな商品から愛犬のドッグフードを選ぶことができる時代です。合成添加物無添加や、天然由来の原材料にこだわるなどといった商品選びも可能ですが、実は、それらの観点自体は、ドッグフードの品質がいいことや安全性が高いこととは無関係です。飼い主さんの愛犬への愛を満たすプラスアルファのこだわりとしてとらえるべきでしょう。
 インターネットのサイトの中には、根拠がない、あるいはまちがった知識のまま、「何々は不安」「何々はよくない」と不安をかきたてることで読者の注目を集めているサイトもあります。信頼のおける情報をもとに、愛犬の健康維持のために適切なフード選びをしたいものです。
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監修/徳本一義先生(有限会社ハーモニー代表取締役)
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